第25話「神の世界」

1「神の世界へ」

 略奪の魔王こと、マヒナが去って行って間もなく。

ジャンヌさんが街に戻ってきて、うちにやって来た。まあ、いろいろあった後、


「ねえ、そろそろ神の世界に行ってみない?」

「神の世界ですか」

「ええ、ベルさんも神の領域に入れるようになったし、皆も連れてね」


すると俺を挟んで反対側にいたベルが、


「私たちも行けるんですか?」


と尋ねると、


「ええ、神の契約者も行くことができるわ。

ただ契約後、一定期間立ってからだけど」


その時期は、神の領域に入れるようになる期間と同じで、

神の領域に入れるようになれば、神の世界に行けると言う事らしい。


 そしてジャンヌさんは俺の目を見ながら、


「それに、他の世界の神様と繋がりを持った方がいいと思うし」


神様同士の付き合いと言えば、粛清官のシスターと、

敵対関係だが、ナナシも含まれるか、ただジャンヌさんは、

表裏一体の存在になるから、他の神様と言う形にならないとの事。


「まあ、私が言うのもなんだけど」


と自嘲気味に言う。彼女は神になって以降、雨宮と出会うまで自暴自棄で、

その間は当然他の神々との、交流なんてなかったわけで、


「神々と交流でいろんな情報を得られるし、

それにもっと早く交流ができていたら、

ナナシへの対策も出来ていたかもしれないし、今となっては手遅れだけど」


と暗い顔で言いつつも、直ぐに明るい顔になって、


「それに、交流だけでなくて手に入るものもあるし、

行ってみて、損はないと思うわよ」


神の世界が気になるが、それだけじゃなくて、

神様と言うのがどういうものなのか、それを知るいい機会じゃないかと思い。


「分かりました。行きましょう」


と俺が言うと、


「私の方も予定があるから、出発の日はこっちで決めてもいいかしら?」


なお神の世界に行くには、一旦神の領域に入る必要があるので、

行くとなると、ジャンヌさんが同行することになる。

それと、神の世界は時間の流れが異なり、どれだけいても、

元居た世界で、一秒も経ってないという。

だから、今すぐ行っても特に問題は無いんだが、


「いくら時間が掛からないって言っても、予定が残っていると、

落ち着かないでしょう」


との事。まあその気持ちは分からなくもないのと別に急いではいないので、


「別に構いませんけどね」


何はともあれ、俺は神の世界に行く事となった。


 翌日、雨宮の空いてる時間に会いに行き、その話をすると


「神の世界の話は聞いたことがある。行った事はないけどな」


雨宮は神じゃないし、神の契約者でもないからいけないんだけど、

それは置いておくとして、


「俺が聞いたところじゃ、神々しくなくて、俗な場所らしい」


とジャンヌさんと同じことを言った。

聞いた相手と言うのがジャンヌさんなんだろうが。


「俺も、ジャンヌさんから、そんな事を聞いている」


そして雨宮は、


「確かにいい機会かもしれないな。人じゃないけど、

同じような存在との交流を通して、一回り大きくなれるかもしれないぞ」

「大きくって言ってもね」


別に神様として、この世界をどうにかしようって思ってないし、


「ジャンヌさんも言ってたみたいだけど、

俺も他の神々と繋がりを持った方が良いと思う」

「そう言うものか」


ジャンヌさんから話を聞いた時もそうだったけど、

他の神々との繋がりと言われてもいまいちピンとこない。

まあ行くことは決めているけどな。


 ただ一つ気になるのは、


「俺のいない間のナナシが何かしないか不安だよな」

「いないって一秒程度だろ。いくら奴でも、

その間に何かできるとは思えないな」

「それは、そうなんだけど……」


心配し過ぎなのは、分かっている。すると雨宮は、


「出来る事と言えば、あと追って神の世界に乗り込む事くらいか。

確かアイツは神の領域を使わず、

自由に神の世界に行けるみたいだしな」

「そうなのか?」

「知らなかったのか、まあナナシと言うより、

異世界を自由に移動できる神すべてがそうらしんだが」


ナナシだけじゃなく粛清官も同様らしい。

なお雨宮の話の情報源は、いうまでもなくジャンヌさんである。


「これを機会に神の事を知ってきた方が良いよな。

神である俺が知らなくて、神じゃないお前が詳しいんだもんな」


と俺が自嘲気味に言うと、


「あまり気にするなよ」


と言う雨宮だった。


 そして数日後、ジャンヌさんが家にやって来て、


「明日以降なら、いつでもいけるけど、どうする?」


といわれ、


「それじゃ、明日の朝とかは?」

「いいわ」


と言う訳で出発の時が決まった。


 そして同行者はベルだけでなく、


「アタシも一緒にいいか?」


ジャンヌさんが神の世界行きの話を持ち出した時に、

同じく部屋にいたリリアが、そんな事を言い出した。


「何で?」


と俺が聞くと、


「神の世界って言うくらいだから、珍しいがあるんじゃないかって思ってな」


その話をきいて、


「まさか、泥棒する気じゃねえだろうな」

「したくても出来ねぇよ」


絶対命令で、俺に迷惑をかける事は出来ないので、

泥棒をすれば、俺にも火の粉が飛びかねないから、それはできない。


「普通に買い物だよ。出来るよな?」


この時、部屋にいたジャンヌさんが、


「出来るわよ。しかもこの世界の通貨が使えるわ」


と答えた。


 そんなわけで、信頼は出来ないけど買い物目当てでリリアが、

さらにミズキも


「私も、神の世界に興味があります。ご同行させてもらえませんか」


と言い出した。彼女だけでなくリリアもそうなのだが、

この二人の同行には不安を感じたが、ジャンヌさんが、


「良いんじゃない。一緒に行きましょう」


と言い出して一緒に行くことになってしまった。

なお神の世界行きをジャンヌさんが後押ししたことに、

ミズキはふくざつな表情をしていた。


 とりあえずミズキとリリアも付いてくることになったが、

この際ついでだから、イヴも連れて行くことにして、

みんなで神の世界に行くことになった。


 当日を迎え、ジャンヌさんがリディアを連れてやって来た。

彼女も連れていくらしい。

あと神の世界に行くにあたっては、向こうで買い物をすることを考えれば、

必要なのはお金らしいが、


「あなたの宝物庫の宝は、神の世界でも換金できるから、

手ぶらで言ってもいいと思うけど」


でも一応、財布は持っていくことに、


 それと、服装とかは自由で、神様の世界とは言っても、

ドレスコードの様なものはなく、自由でいいらしい。

だから僕らは普段着で行くし、ジャンヌさん達も同じだった。


「それじゃあ、行きましょう」


俺たちは、以前のように手をつなぎ、まずは神の領域に入る。

そこから、神の世界へと向かう。手は繋いだままで


「ちょっと時間がかかるけど勘弁してね」


やがて周り光に包まれたかともうと、光が消えた後。

俺たちは、トンネルのような場所を飛んでいた。

周囲が雲のようで、目まぐるしく色が変わっていて、

さらに光が飛び交っている。そこに俺は神秘性を感じた。


(神様の世界に向かっているって感じがする)


しばらくのこの状況は続いて、その風景に魅了されつつも、

また再び、眩い光が覆った。ちなみにここまでの間、

結構時間がかかってるように思うが、実際は体感時間で、

現実の時間でが一瞬との事、


 やがて光が消え、ジャンヌさんが、


「着いたわよ」


と言い、ここでつないでいた手を放すが、


「えっ?」


と声を上げてしまった。

確かに神の世界と聞いて、ジャンヌさんから違うとは言われていたけど、

天国のような場所を想像していた。でも俺の前に広がる風景は、


「ここ、東京ですか?」


おもわず言うと、ジャンヌさんが、


「それは、二ホンの首都ね。違うわよ」


しかし目の前に広がるのは雲の上の神々しい世界じゃなく、

元居た世界を思わせるビルの立ち並ぶ都会の風景だった。

ただ街を行きかう人々は、多種多様で中には人外もいて、

特に騒ぎにもならず風景の溶け込んでいる様子から、

明らかに普通の世界でないことは確かだった。

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