13「サタニキア再び(1)」

 早速シスターは


「トロールに止めを刺しとくわね」


と言って、オートマチック拳銃を撃った。

その威力はものすごく、トロールの頭部を吹き飛ばし絶命させ消滅させた。

おかげで残る魔獣は三体となった。


「私は、クイーンアラクネを担当します」


とベルは言い、イヴは既にキマイラに攻撃をしていたので、

俺がワイバーンの担当となった。


 ワイバーンは空中に浮いていて、火を噴いてくる。

攻撃は剣では届かないので、フレイに切り替えるところだが、

この時は、何の気なくバーストブレイズを撃ち込んだ。


「グギャァァァァァ!」


と言う咆哮を上げ、もだえ苦しむ。効果は抜群のようだ。


 ほかの奴らの状況が気になって時折、様子を見る。

ベルは、クイーンアラクネの口から吐き出す

針のような攻撃を避けながら、銃撃で攻撃をしていたが、

接近戦になると、武器を剣に変形させ、見事な手際で攻撃しつつ時折、


「ウィンド!」


と魔法を使う。

今回は風魔法で、半透明の砲弾がクイーンアラクネへと放たれ命中していた。

なお、この魔法はゲーム世界の魔法である。


 イヴは銃器と斬竜刀で、妙にアクロバティックで、

舞っているかのような可憐な動きをしつつも淡々と、

キマイラに攻撃を仕掛けている。特に苦戦してる様子はない。


 そしてシスターは、拳銃で俺たちへの援護を交代で行っていた。

さっき、トロールの時の様子からわかるように、

この拳銃は、中々の物でオートマチックの方は無茶苦茶な火力で、

リボルバーの方は、威力はそこそこだが高い誘導性能を持つほか、


《撃ち出されてる弾丸は、かなり強力な水属性ですね》


との事。


 あと彼女の援護は、拳銃だけではなく時々ブーメランのような物を、

投げることはある。


(なんか剣みたいな感じがするけど、それしては妙な形してるな)


そもそも、剣をあんな風に投げるようなものなものじゃないと思うが、

これも中々の攻撃力で、魔獣達を次々と切り裂いていく、

あとシスターの意思で自由に動けるのか、俺たちの体を避けるように動いている。


 シスターの助けがあった所為もあって、

魔獣たちは、あっという間に倒れていった。ワイバーンは地面に落ち、

クイーンアラクネは、シスターのブーメランの様なもので腕を切られ、

ベルに頭部を切り落とされていた。

キマイラも、イヴのロケットランチャーで爆死していた。

そして、すべて消滅した。


(何だか、手ごたえはないな……)


するとシスターは、


「私の助けは、要らなかったかな」


とあっけらかんとした口調で言うが


《この魔獣たちは、上級魔獣にしては、弱すぎます。

先に、あの人たちが戦っていた魔獣の方がずっと強いです》


と言った後、


《とにかく、私たちの助けは必要なかったと思います》


このあっさりしすぎている所が、妙に気になった。


 気になる事と言えば、


「それにしてもシスター、どうしてここに?」


と俺が言うと、


「言ったでしょ当たりを付けたって、貴方か貴女とかかわりのある彼女たちの、

どちらかに、接触する可能性があったから」


俺たちの方にも、粛清官が来てたらしいが


「全然、気づかなかった……」

「まあ、アイツは身を隠すのが上手いから……」


とは言われたが、


「ナナシが現れたときは、何もなかったぞ」

「えっ、そっちにナナシが現れたの?」


と驚くシスター。


「ここの事を教えて、何か起きそうなことを匂わせて、

居なくなっちゃったけど」

「だったら変ね。アイツ、ナナシの事になると頭に血が上るから、

何もないなんてあり得ない」


あり得るとすれば、かつてのシスターの様にナナシの罠にはまって、

身動きが取れなくなってる可能性があるとの事。


 なお、ナタリア達は逃げていなかったが、離れた場所に居たので、

こっちの声は聞こえて無いようだった。







 その頃、廃屋でデリックが、


「どうしてだ、上級魔獣だぞ!」


と激昂していた。呼び出した魔獣が思いの他、弱かったからだ。


 デリックは、引き続き血走った目で、


「他には、いないのか!」


モニターに映る魔獣の選択画面を、食い入るように見る。

頭に血が上っているせいか、逃げるという選択肢は無いようだった。


「こいつを使うか……」


それは、強力であるが、召喚には消費魔力が半端ではなかった。

しかし、もう後には引けないようで、それを選択した。

するとポケットに入っていた指輪が、飛び出したかと思うと

デリックの指に嵌った。


「何だ!どうして勝手に!」


と叫ぶと同時に、デリックの体は光に包まれた。

光の球になると、廃屋から飛んで行った。





 とにかく、皆で一旦この場を去ろうとしたその時、


《マスター、大変です》


とクラウの声が聞こえた直後、俺はそいつの姿を見た。

ヤギの頭に、黒い羽根の人型の魔物。俺はよく知っている。


「サッ、サタニキア!まさか、こんなものまで呼べるのか!」


ここでベルが、


「サタニキアって魔獣と言うより悪魔でしょう」


と突っ込みを入れる。

以前にカーミラが使った時は、こんなものは召喚しなかった。

サマナヴィは持ち主の保有する魔力によって、召喚できる魔物が異なるらしい。

クラウがデリックは、保有する魔力の量だけは多いと言っていた。

その所為かもしれない。


 とにかく、皆をこの場から避難させる必要が有る


「みんな、早く逃げろ。こいつはシャレにならない!」


と言って、皆を逃がそうとした。


「わかったよ!とにかく、みんな逃げよう。確かにあれは、シャレにならない」


ナタリアは、その恐ろしさを知っているのか、

そう言って避難促すが、その際に光の壁の様なものが現れた。

アルヴィンは、


「これは、結界だよ」


どうやら、逃げ道を防がれたようだった。


 更に、ここで、どこからか光の球が飛んでくると、

サタニキアに吸い込まれていった。


《マスター、光の球からデリックって人の気配を感じました》


デリックは、ギルドで俺に声をかけてきた時、当然クラウを装備していて、

鞘に入っていたとはいえ至近距離だから、デリックの気配は知っている。

それよりも


「気配って今の光からか」

《はい、私には人があの魔物と一体化したように思えます。

それとサマナビィの気配も感じましたから、もしかしたら一緒に……》


すると、シスターは


「そう言えば、ナナシがある世界で、人間と魔物を融合させる指輪を作って、

ばらまいたことがあるの。その結果、その世界は怪物だらけになってしまったけど」

「まさか、それだと?」

「でも、一体化できたのは、あくまでその世界の魔物で、

他の世界の魔物とは、出来ないって話だけど」


サタニキアに吸い込まれていった光が、

クラウの言う様にデリックだったら、ナナシがその指輪を渡して、

サタニキアと融合したと言う事になる。その指輪には、

融合時に持っていた装備とかも一体になってしまう効果もあるという。


「ただ、融合に対して本人の意思があるかは分からないけどね」


指輪は何もせずとも、勝手に指にはまって、

これまた、勝手に発動するとの事なので、

彼女の言う通り、デリックもあずかり知らぬ事かもしれない。


 サタニキアは出現して、光が入って行っても動こうとしない。

人が融合したと思うと、俺はやりづらかったが、

イヴはそういう事はないので、早速攻撃を開始。

またベルもクラウの声が聞こえ近くにいるから、

俺とシスターの話を聞いていたと思われるが、意に介せず攻撃を始めた。


 ただ、それらはバリアーの様なもので防がれて、まったく通じていなかった。

おそらくサタニキアは直ぐには動けなくて、それまでの間、

守るためのものと思われる。


 一方シスターは、サタニキアの方に銃を向けたまま、じっとしていたが、


「今、あの結界を壊す準備をしてるから……」


との事で何かしているようだった。だがここで、


「ガ……!」

「!」


次の瞬間、シスターはナナシに鳩尾にパンチを食らっていた。

奴は突然、現れたのでシスターは不意を突かれたようで、

また俺も何もできなかった。


「君には退場してもらうよ。ナイアルラトホテップ……」


そう言ったかと思うと、シスターは消えてしまった。


「お前何を!」

「転移させただけさ、まあ結界で直ぐには戻ってこれないけどね」


人を馬鹿にしたような口調でそう言うと、ナナシも転移でいなくなった。


 ここで


《マスター、サタニキアを守っている結界が消えそうです》


それは、イヴやベルが攻撃をしたからではない。

自分の意志で解除しようとしているような感じだった。

それは、攻撃をしてくる事を意味している。俺は思わず、


「みんな、敵が攻撃を仕掛けてくるぞ!」


と声を上げる。その直後、結界が消え、

サタニキアが、動き出し襲い掛かって来た。

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