8「街での騒動」

 酒場にて、その日はデリックが、女に囲まれて、

上機嫌で、酒を飲んでいた。その様子を遠くから見ているナナシ、


(相変わらず楽しそうだね)


と思いつつも、


(でもね、幸せと言うのはいつまでも続くものじゃないんだよ)


そしてナナシは、デリックに飲み物を運ぶ店員に声を掛けた。

その後、運ばれてきた飲み物を飲むと、一気に酔いつぶれてしまった。


「やあ、デリックってひどい事になってるね」


ナナシは、囲んでいた女たちに、後は自分に任せるように言って

帰した。その後、支払いはナナシが行い、

デリックを担いで、彼の家へと連れて帰った。

なお、ナナシは彼の家を知っている。


 家に着くと彼を寝かし、その後、部屋を探し、

ベッドの下に隠してあったサマナヴィを見つけて、

それを彼の枕元に置いた。


「これでよし」


その後、家を出て光明教団の教会の、一番高い場所の天井へと

転移で移動した。


「ここなら、街が一望できるね」


そしてデリックに渡したものとは、

異なるナナシ自身が作り出したサマナビィを取り出す。






 それは、まだ夜の口と言うくらいの時間帯。

夕食を食べて、くつろいでいた頃だ。突然、外が騒がしくなってきた。

その中に混じって悲鳴のようなものが聞こえたので、

思わず窓から、外の様子を見ると


「なんだこれ!」


街に、大勢の魔獣が跋扈して、人々が逃げまどっていた。


(どういう事だ……)


この街は、魔獣の生息域から外れているし、

例え生息域を離れて、魔獣が流れてきたとしても、

周囲を壁で覆って街には入れないはずと聞いていた。


 だが今、街に魔獣がうろついているのは事実である。


「和樹さん、どうします?」


とベルが横から聞いてきた。この状況は捨ておくことはできないので、


「ちょっと出てくる」

「私も、ご一緒します」


俺とベルは鎧を着て、更にイヴも連れて、外に出た。

漆黒騎士の鎧ではなく白銀騎士の鎧だ。ベルも黒騎士似の鎧を着て出た。

そうするように、絶対命令を使っていた。


 外は、まさしく阿鼻叫喚、一般人は逃げまどい、

俺と同じく、冒険者と思える者たちが戦っていた。

その中には、雨宮の姿も見えた。アイツは魔法を駆使して、魔獣たちを倒していた。


 街を跋扈する魔獣は、ゴブリン、スライム、リザードマン、オークに、

ワーウルフ、さらに大蜘蛛、下級から中級くらい魔獣が大勢いた。

絶対に入ってきそうにない連中だ。

ともかく俺はクラウを抜いて、魔獣たちを片っ端から倒していく、

ベルも、メタシスの長剣形態で、イヴは戦闘モードで銃器を武器に、

魔獣と戦う。


 街中で、バーストブレイズはまずいと思い、

基本は、剣で戦い、遠距離から攻撃してくる魔獣には、

フレイに切り替えて、銃撃や、時にリンとレイを投げて応戦する。


 あと、倒した魔獣は、


「消えた……」


消滅して、死骸が残らなかった。


(まさか、サマナヴィ?まさかデリックか?)


もちろん、奴がサマナヴィを持っている確証はない。

だが、たとえ持っていたとしても、何でこんなことをしているのか、

分からなかった。


 魔獣たちは、俺たちだけでなく、街の冒険者や、

特に大魔導師の雨宮の活躍、魔法を駆使して、

圧倒的な力で、魔獣たちを一掃していく。

だが、最初に暴れていた魔獣が、すべて片付くと、

今度は、さらに強力な上級魔獣、ワイバーンやミノタウロス、

サイクロプスなどが出現した。


 この後も、俺たちが戦いを続けた。しかも最初の魔獣を、

倒し終えた事を、周辺把握で確認した直後に、

現れたものだから、


「まだ来るのかよ!」


苛立ちも感じていて、後は無我夢中で、魔獣と戦った。

攻撃は、基本的は、クラウで行うが、


「ミサキ切り!」


と奥義が自然と出て、サイクロプスを切り刻む。

次の瞬間、横からミノタウロスが、殴り掛かって来たので、

回避しつつ、


「テンペストパルム!」


ミノタウロスの腕を浮き飛ばし、

思い立って、武器をトールに切り替えると、


「雷撃滅煌打!」


雷を纏ったハンマーをミノタウロスの脳天に叩き込む。

ライラとの戦いの癖なのか、この技が自然と出たが、

結果は、俺の思い通りになった。

そして、ミノタウロスは絶命し、消滅する。


 その後も、俺だけじゃなく、雨宮や他の冒険者の活躍。

やっぱり雨宮の活躍もあって、魔獣は倒されていった。

しかし、相手は上級魔獣故に、少々骨が折れたが、

夜もだいぶ、遅くなったところで、上級魔獣は一掃され、

以降魔獣は、現れなかった。


 すべての魔獣が倒されたことが分かると、人々は歓喜の声を上げて、

その後、冒険者達はinterwineに集まって、打ち上げみたいになって、

大いに盛り上がったそうだが、俺達は、家に帰った。

戦いの途中で、


「白騎士様」


と街の人に言われて、勘違いされてると気づき、そのままでいると

面倒だと思ったからである。

実際翌日、街では白騎士の事が噂になっていた。


 この街での、ひと騒動がきっかけなのかは分からないが、

サマナヴィの話が、冒険者たちの間で広がりつつあった。

更に、審問官たちが本格的に動き出したようで、

冒険者への聞き取りが始まった。

どうも審問官たちは、今回の一件は、暗黒教団の破壊活動の一貫との、

疑いを抱いたようだった。


 そんなある日、仕事探しで掲示板を見ると、


「あれ?」


横で一緒に探しているベルが、


「どうかされましたか?」


と声を掛けてきて、


「いや、ランキング表が」

「そう言えば、ありませんね」


ここで、後ろから、


「今、ランキングを凍結しているんです」


と振り向くと馴染みの受付嬢がいた。


「やっぱりカズキさん、ランキングが気になるんですね」

「別に、ランキングを気にしてるんじゃない。

ただ、会ったものが、急に無くなってたから……」


と答えると、残念そうに、


「そうですか……」


と言いつつも、


「審問官の調査次第では、こちらもランキングの見直しが、

必要かもしれないんで」

「見直し?」

「はい、今噂になってるサマナヴィの事あるじゃないですか、

もしかしたら、魔獣の乱入で、ランキングを上げている冒険者の中には、

ズルをしてる人がいる疑いがあって」


あと、その人物が、街での一件の犯人じゃないかと、

受付嬢は疑っていた。


「過去にも魔獣使いが、同じような事を居たそうです。

ちなみに、その人ってのが、暗黒教団に人間だったそうですよ」


その話を聞いて、俺が以前に戦った暗黒教団の爺さんを思い出した。

後にミズキに聞くと、実際に、その爺さんの事だったが。


「今回の件も、暗黒教団の関係者かもしれませんね」


と受付嬢は言っていた。


 その日、家に帰って、ミズキに話を聞いて見た。

この時、ミズキが殺したあの爺さんの事も聞いたが、

今回の件に関しては


「声明が出ていませんから、何とも言えませんね。

我々はこれだけの事をするときは、普通は声明を出します。

もし出さないとすれば、今回の一件が、何かの途上なのでしょう」


中途なところで、声明は出さないとこと、

言われてみれば、以前、ジャンヌさんと以前あった街で

暗黒教団のテロは起きていたが、その時も、声明を出していた。


 さて、審問官の調査と言うか冒険者への聞き取りは、

乱入魔獣と遭遇して、その事を申請した冒険者を中心に

行われているらしい。

やっぱりあの爺さんもことがあったから、

同じような事をしていると疑われているようだ。


 そして、ある日、ナタリア達との仕事の後、

その日は、ナタリアと仕事をして、

始めて、乱入魔獣が現れず、分け前は少なかったが、

酒場で食事をおごってもらった。その時に、


「しかし、魔獣の乱入の事。申請してなくてよかったよね。

もししたたら、変な疑いを掛けられるところだったよ」


と言うノーラ。するとナタリアは、


「まあ、ビデオカメラは持ってないし、

そもそも決めるのは、実際の戦ったオートマトンの、

持ち主であるカズキだよ」


すると、視線が一斉に俺に向く


「俺も、ビデオカメラを持っていませんし」


と答えた。


 ここで、ナタリアは、悲しげに、


「この件で、またテイマーたちが、肩見がせまい目に遭わなきゃ良いんだけど」



「テイマー」

魔法やスキルで動物や昆虫、時には魔獣さえも操る存在。

ただし魔獣を操るものは、魔獣使いと呼ばれる。


魔獣使いもテイマーの一種なので、魔獣使いの事をテイマーと呼ぶものもいる。


 なお過去に、暗黒教団の爺さんは、

自分がコントロールしている魔獣を暴れさせることで、

魔獣が討伐対象になったところで、

自分で仕事を受けて、倒したことにして、評価を得ていたという。


 この件が露見した後、他の魔獣使い達も、

ズルをしてるんじゃないかと、疑われるようになったらしい。


「私、身内にテイマーがいるから、心配でねぇ」

「そういうのって、分かる気がする」


大十字がらみで、そういう現場を見た事がある。

一人がバカをしたことで、ほか同業者たちにも影響が出る。

今回の一件は、大勢の冒険者たちと街に迷惑をかけただけでなく、

まともにやっている魔獣使い達にも、迷惑をかけているのだ。

そういう意味でも、罪作りなのである。


 この時、場は妙に暗い雰囲気になった。


「悪いね、変な雰囲気にしちゃって」


この後、ナタリアは話題に変え、

場の雰囲気を、明るくして、そのまま、お開きとなって、


「また頼むよ」


と言われつつも、俺は家に帰った。







 デリックは、周りを気にしながら、街を歩いていた。

なお彼は、買い物の帰りで紙袋を抱えている。


「やあ、デリック」


と声をかけるナナシ


「うわぁぁぁぁぁ!」


と声を上げ、驚き持っていた荷物を落としそうになる。


「そんなに驚かなくても」

「何だアンタか……」


その後、二人はデリックの家に向かう。


「ところで審問官の聴取はうまく乗り切ったんだよね」


乱入魔獣を申告して評価を得ているため、

当然、デリックは審問官から事情聴取を受けていた。


「まあそうなんだが、あのルイズとかいう審問官、

俺の事をまだ疑ってるみたいなんだよ」


そして、ベッドの下に隠してあるサマナヴィを取り出す。


「言っとくけど、『返す』と言われても受け取らないからね」

「!」


図星のような表情を見せるデリック。


「それにしても、酔ってサマナヴィを暴走させるとはねえ

暴走の危険性は話したよね」

「まさかこんなことになるとは思わなかったんだよ~」


と情けない声を上げるデリック。


「このままじゃ、暗黒教団の信者と疑われるよ。

まあ、たとえ違うと分かってもらっても、騒動を起こしたには違いないし」


悲痛な表情でデリックは、


「どうすれば……」

「今は、この国から出た方がいいかもね、そうすれば、

この国の審問官たちの手は届かないから。

君が望むなら、手伝ってあげる」

「ありがとうございます……」


逃亡の手伝いを約束するナナシであるが、

もちろん、企みがあっての事である。

 

 そもそも、街に魔獣が現れたのは、ナナシのサマナヴィによるもの、

そして、デリックが酔って暴走させたと思っているのも

ナナシの企み、朝、デリックが目を覚ますと、酒の所為で何も覚えてない上に、

枕元には、サマナヴィがあって、更にナナシが

街での騒動を話し、更に酔ってサマナヴィを暴走させたと吹き込んだのだ。


 実は最初に酔いつぶれたのも飲み物にナナシが細工したため。

とにかく、すべてはナナシの掌であった。

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