11「再び閑話(2)」

 お茶会の翌日以降、カーミラの襲撃は続いた。やって来るのは昼間で

封印が解かれたサマナヴィを利用して、魔獣を嗾けるという形でだ。

この前のように、ミズキに世話になることはなかった。

彼女が出てくる前に三人で倒しているからだ。

この前のように、ゴブリンだけじゃなくて、複数の魔獣、

五日目の朝は、ゴブリンとスライム、例の蜘蛛だった。


(こいつらには縁があるな……)


 敵は弱かったが、しかし数が多いし、守るべきものがあるので、結構面倒だった。


「バーストブレイズ!」


鎧の専用魔法で、一気に大勢倒せるのと、イヴの銃器による攻撃と、

リリアがジェヴォダに変身し、応対してくれるから、楽ではあったが。


 あとカーミラ自身も、現場に来てて、魔装の「感知」で、

位置はわかったものの、魔獣に集中しなければいけないのと、

向こうも位置が気づかれた場合の対処なのか、

自信を守るようにも、魔獣を配置していて、

一度、奴のもとに向かったが、魔獣は、絶対に無視ができないように、

巧妙に配置されていて、バーストブレイズで敵を倒しながら進んでも、

逃げられると言う事が多かった。

 

 あとナナシと接触して以降、レインボミングが使えなくなっていた。

クラウの感知では、何だかの魔法が鎧にかけられているらしい


《時限性の封印魔法に似ています。時間がたてば効果はなくなるでしょうが》


魔法は、ナナシがかけたものだろうが、

当分はレインボミングで魔獣を一層はできないようだった


 またリンとレイを飛ばした事もあった。威力はあるが、

小型で、素早いから、敵を避けながら、

真っ直ぐカーミラのもとに向かって行けたが、うまく当てられなかった。

戻ってきた二人は、


〖〘ごめんなさい。マスターさん。何だかの力で妨害されてます〙〗


フレイの誘導も同じなので、俺は、ナナシだと思った。

最初は違ったみたいだが、今は、本格的にカーミラと組んでいると思った。

しかし、この事をベルたちに話した時、一緒にいたミズキは、


「あの女の性格を考えて、それは無いですね」


と言った。確かに、本格的な協力関係なら、

あの村の時と同じように、カーミラはナナシの力で、

気配を隠せたりできるはずだ。


 さらにベルが、


「もし良ければ、私も外の方に、加わりましょうか、

そうすれば私たちで魔獣を押えられますから、カーミラの方に手を回せるのでは」


くわえてミズキにも、


「私も手を貸しましょうか?」


と打診されたが、


「いや、これまで通りで行こう」


と俺は言った。中で守っているベルとミズキの力を借りれば、

カーミラは、どうこうできるかもしれないが、

しかし、本格的なものでないにせよ、ナナシが関わっている事には違いない。

もしナナシの狙いが、俺たちの注意を外に向ける事なら、

手がすいたところを襲撃し、婦人に危害を加える可能性がある。

だから、警備体制の変更はしなかった。


 襲撃してくる魔獣は、数は減らしていったが、

その分強い個体になって行った。あと襲撃は一日一回、

恐らく、未だ小手調べ中と言ったところだろうか。


 八日目には、オークとミノタウロスが襲ってきた。

ミノタウロスは、一体、オークは集団と言う形で、

オークたちは、イヴとリリアに任せて、俺はミノタウロスの相手をした。

そんなに強くなく。バーストブレイズ数発で沈んだし、オークたちも

イヴの銃器と刀による斬撃、リリアのゴーレムへの変身で、

全滅した。なおカーミラは、魔獣を出現させた後、

早々に逃げだしたので、ミノタウロスを倒したころには、居なくなっていた。

 

 ちなみに、ミズキから聞いた話だが、サマナヴィは、

魔獣を離れた位置に出現させられるが、あまり遠方に出現させることはできない。

ただ一度出してしまえば、遠方から操ることができ、

更に魔獣を通して得た情報を、

本体のモニターの様なもので見ることもできると言う。


 八日目の夕食後の休憩時間に、

俺はミズキにサマナヴィが呼べる魔獣について尋ねた。

今は楽だが、今後の不安を感じたからだ。


「上級ドラゴンやデモスゴードも行けると思います」

「デモスゴードもか……」


ますます不安を感じた。俺たち三人がかりなら、

倒せはすると思うが、館への被害を防げるかが問題であった。


「まあ魔力消費も、激しいですからね。普通の人なら、

呼ぶことはできないでしょう。あの女くらいの魔力量なら

呼べるでしょうが、ただじゃすまないと思いますのと、

それに強力な魔獣となると、暴走の可能性もありますし」


今日戦った魔獣くらいから、暴走の可能性があると言う、

この日、カーミラが、早々に逃げて行ったのは、暴走を懸念してと思われる。



 ただ向こうが、死なばもろともで来る場合もあるので、

今後、上級魔獣の襲撃を考えて、


「お前さあ、敵を閉じ込められる疑似空間とか作れたりするか」


それはシルヴァンとの戦いで使ったマジックアイテムによる、

疑似空間の生成。それが魔法で出来ないか尋ねたのである。


「できますよ。最近、改良しました」


ミズキによると、以前から使えていて、用途は、敵を逃がさないためだが、

この魔法は、使用中は、魔法使いは動けないと言う。

だから、攻撃担当の人間と組んでいるときしか使えないとの事だが、

「根源分析」による改良で、使用中も動けるようになったと言う。


「ただ中にいるときは本気を出さないでくださいね。

崩壊してしまいますから」


あと改良前は、そうでもないが改良後は崩壊時は、

ダンジョンの崩壊の様に、爆発を伴うらしい。

まあダンジョンほどではないらしいが、


 ここで、俺は、


「そういや、お前、色々と新しい魔法を作ってるな」

「ええ、貴方の『絶対命令』に元でも、魔法は作れるようなので」


新しい魔法の生成は、「絶対命令」の「根源分析」の乱用を禁止の許容範囲である。


「これまでどんな魔法を作った?」

「いっぱい作りましたよ。聞きたいですか?」


と返され、長話になると面倒な気がしたが、気になるので


「少しだけ……」


と言った。


 するとミズキは、笑みを浮かべ自慢げに、その手に、剣を出現させた。


「これはソウルウェポンと言います。疑似的なものですが」






ソウルウェポン

スキル「武装精製」によって生み出される特殊な力を持つ武器である。

生み出した人間の魂が、武器になったものと言われ、

異界人によって、その名がつけられたが、

実際は、その人間のイメージが具現化したもので、唯一無二の存在と言われ、

更には作った人間にしか使えない。

なお、スキルじゃなくとも特殊なルーン魔法によって生成が可能。






「本来、スキルであれルーン魔法であれ、

生成する武器の形を自由に決めることは出来ません。

しかし、私の場合は武器の形状を自由に決められます」


と自慢げに言った。ちなみに決められるのは、形状までで、

宿している特殊な力に関しては、ランダムらしく、

それが彼女の限界らしい。

だがルーン魔法では出来ない複数のソウルウェポンを、

作る事も出来るらしい。


 ここまでの話を、ずっと自慢げに話していたミズキは、


「他には……」


引き続き、自慢げに自分の作った魔法について、

いろいろ話をしたが、聞いていて、鬱陶しくなってきたので、


「もういい……」


と話をやめさせた。この時、部屋にはリリアの姿もあって、

ミズキは、彼女に対し


「どうです。もう私は、無能ではないでしょう」


と言うが、リリアはキョトンとして、


「何の事?アタシ、何も聞いてないけど……」


どうも、リリアは話を全く聞いていない様だった。


 するとミズキは悔しそうな表情を浮かべつつも、


「まあいいでしょう。私が無能でないことは、

この仕事を通して見せつけてあげますよ」


と言って意地の悪い笑み浮かべる。リリアは、


「なんだかわからないけど、まあがんばれや無能」


と馬鹿にしたような言い方をした。とにかく一言多い。


 リリアが言ったことに対し、


「なんとでも言えばいいですよ」


と平静を装ってるように言うが、クラウの感知によると、


《なんだか、腸が煮えかえってるようですよ》


との事。魔装の声が聞こえるベルが、


「何かおかしなことをしなければいのですが、

まあ、できないとは思いますけど……」


と心配そうに言うが、かくいうベルも、

同じく何かしでかしかねないところがあるので、


(お前が言うな……)


と内心思った。






 その頃、カーミラは、隠れ家で考えていた。

引き続き、サマナヴィを使いさらなる魔獣をぶつけるか、

それとも、意を決して切り札を使うか、昔なら、やれることをすべてやった後、

切り札を使うのだが、今は、指名手配中の身、

そんな悠長なことは言ってられなかった。

また再び捕まることがあれば、二度と機会は来ないかもしれない。


(ジムとかいう奴が、審問官たちの目を誤魔化して居てくれてればいいけど、

それとていつまで持つやら……)


それ以前に助けてもらってはいたものの、ジムの事がいまいち信頼できずにいた。


(それに、ナナシと言う奴も……)


助けてもらってはいたが、信用できないところがあった。


 そして、彼女はしばし悩んだ末に、意を決したように、

彼女は、床に白墨で、大きくルーン文字を書き始めた。

これは、ルーン魔法による召喚魔法である。

なお留置場や刑務所では対策が施されているから、使えないし、

使用中は無防備になるので、場所も考えなければいけない。


 彼女は文字を書き終えると、何度かそれをこすり、

最後は手を当てた。すると文字が輝きだし、

その状態がしばらく続いた後、まばゆい光と共に、それは現れた。


 一方、ジムは別の場所から、

スキル「遠見」が付与された鏡型のマジックアイテムで、

その様子を見ていた。傍にはナナシの姿もあって、


「よし、召喚元が特定できたよ」

「そうですか、では行きましょう」


二人は、外出した。






 その頃、interwineにてショウを尋ねて着た人物がいた。


「君は、確か公爵婦人の」


その人物は、公爵婦人の使用人で、

和樹とショウが、婦人のもとに行った時の他、

彼女がinterwineに来た時に、同行している人物である


「クロニクル卿、折り入って相談が……」


しかも、内密にとの事と、ただ事じゃなさそうな様子だったので

スタッフルームに移動して、事情を聴く。


 使用人は、


「クロニクル卿は、『刺し違えの刃』をご存じですよね」

「自分の命を犠牲に、確実に相手を殺せる魔具ですね」


それは短剣の形はしているが、突き立てずとも、相手を殺せる。

ただし、対象者が近距離にいる必要がある。


「実は、『刺し違えの刃』はカドレリオン家の家宝の一つでして、

没落していた頃、多くの家宝は他人の手に渡りましたが、

これだけは、持ち続けたと言う代物です」

「確か六本作られていて、そのうちの一本が、未だ行方不明だと、

聞いていますが、カドレリオン家にあったとは」


これはショウも知らないことであった。


「もしかすると、主人はあの刃で、あのカーミラと刺し違える気かもしれません!」


使用人は、必死で心配そうに訴えるのだった。

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