8「外出準備」

 さて、サマナヴィによって呼び出されたゴブリンが全滅した際

カーミラには、突如現れたナナシによって、転移で、

館から遠く離れた場所に移動した。


「大丈夫でしたが?」


と言うナナシに、


「余計な事を……助けは必要ないと言ったでしょ!」

「別に、貴方の手助けの為に、あそこに来たわけじゃありませんよ

館を守っている冒険者に、ちょっかいを出しに行っただけです

でも、あの状況に、居てもたっても居られなかったのです」


嘘である。ちょっかいを出しに行ったのは事実で、

カーミラを助けたのは、状況を長引させる為、

あのまましていたら、カーミラもやられて、事は終わってしまう。

ナナシとしては、それは面白くなかった。


 そしてナナシは、


「強情を張らない方がいいですよ。公爵婦人は、貴方の手で、

どうにかするにしても、あの冒険者くらいは他人に任せた方がよろしいかと。

連中が、洒落にならないのは、分かったと思いますが」


と言うが。


「まだよ、貴方と戦っていたあの黒騎士とあのメイドの魔法使いの力しか、

わかっていないわ」


黒騎士と言っているが、以前から和樹を知っているわけじゃない。

あの鎧から、思わずそんな名前を言ってしまっただけである。

また認識阻害魔法の所為で、メイドの魔法使いがミズキであることは、

気づいていない。

なお、ナナシには認識阻害魔法は効いていないが、使っていることは、

分かっていた。だけどその事をカーミラには伝えていない。

その方が面白いと思ったからだ。


「あの程度で、分かった気になっては困りますよ。

黒騎士の武器が変形したのは、ご存じでしょう」

「ええ、銃に変わっていたけど」

「銃だけじゃ、ありませんよ。あの武器はいろいろと、

姿を変えますし、それぞれを見事に使いこなす。

その上、魔法も使うんですよ」

「魔法も……」

「そうそう、魔法と言えば、あの魔法使いのメイドだって、

『根源解析』を持つ『原始の魔法使い』なんですよ」

「なんですって!」


カーミラは、目を大きく見開き、驚いたようなしぐさをする。


「恐らく先ほどの魔法も、既存の魔法をもとに作った。

まったく新しい魔法でしょう」


こんどは、納得したようしつつも


「だから結界を超えて魔法を使ってきたわけね……」


と険しい顔で言う。


 更にナナシは、


「他の三人も、一筋縄ではいかない連中ばかりです。詳しくは……」


と言いかけるが、カーミラは、平手を前に出し、

止まれのしぐさをしながら、


「必要ないわ、私が調べるから、再度サマナヴィを使ってね」


余談であるが、今日、結界が消えぬうちに向かったのは、

気が逸ったからである。


 カーミラの言葉に対し


「ホント、強情な人ですね。審問官連中は、ジムに任せているのに」

「それとこれとは違うわ。審問官連中は、

あの小娘が人選してるわけじゃないでしょ」


貴族が、冒険者を雇う場合はたいてい、本人たちが

ギルドが公表する冒険者ランクを元に、指定で呼んでくるのが、ほとんどだから、

和樹たちが、公爵婦人自身が選んだ冒険者だと思っていた。


「自分の選んだ冒険者が倒されば、屈辱のはずよ」

「ですが、あなたがやる必要はないのでは?

審問官のように他に任されてはいかがです」


するとカーミラが右手の人差し指を振りながら、

人を馬鹿にしたような口調で、


「分かってないわね。奴らを私が倒せば、

私自信が、彼女に屈辱を与えることになる」


そしてカーミラは、ここから口調に力が入る。


「ただ殺すよりも、屈辱をたっぷり味合わせた上での

死なら、なおうれしい。だからあの冒険者たちも、私の手だけで倒す」


するとナナシは


「貴女、こだわり過ぎて、身を亡ぼすタイプですね。

でも、その意気込みは、好きですよ」


と言いつつも


「しかし、こっちも連中の事は放っておけないので、

手を出さないとは約束できないので、そのつもりで」


そして思い出したように、


「そうそう、明日は婦人はお茶会に参加するようですよ。

時間と場所は……」


そして時間と場所を言った後、


「それでは、ご武運を……」


そう言うと、ナナシは転移で姿を消した。

残されたカーミラは、


「お茶会ね……」


彼女はニヤリと笑うと、その日のところは、一旦引くのだった。







 朝の襲撃以降、三日目は済んだが今後の余談は許さない。

さて、四日目は婦人が外出する。これは手紙で事前に聞いていたことで、

婦人は、執筆活動をしており、この三日間、基本部屋に籠って、

執筆に専念をしていた。なお書いているのは専門的なもので、

食事の時に、話を聞かせてもらったが、ハッキリ言って、チンプンカンプンだった。


 本来は、出版社的な所から使いが来る事となっているが、

襲撃の可能性を察し、婦人が護衛を伴っての、届けるという事にしたらしい


「もともと、近くまで出かける予定がありましたので、

それに合わせる事としましたの」


そして、元々から決まっていた予定は、貴族のお茶会であった。

婦人と同じく、みんな没落状態から、成りあがった貴族たちとの事で、

婦人の館を含め、会場を変えながら定期的にやってるらしい。


「皆様に、迷惑をかけてはと思い、断りの連絡を入れたのですが……」


しかし、先方から、むしろ来てくれるように言われたという。


「皆さんも、奴にはひどい目に会っているので、

襲ってくるなら、迎え撃つという話になってるようです」


とにかく、お茶会は、決行されるらしい。

なお、相変わらず、婦人の口からはカーミラ、

又は本名であるエリザベート・ヴァンキュリの名は出てこない。


 外出に当たっての警護プランは、これもベルが考えてくれていたが

三人が婦人と出かけ、二人が留守番する。人選は俺が考え、

当初は俺とベルとイヴで出かけて、

ミズキとリリアが留守番としていたが、

ここに来てからイヴと公爵婦人との事を思い出し、

予定変更し、リリアに来てもらってイヴを留守番にした。


 なおミズキが留守番と言うのは揺るがなかった。

なぜなら、俺たちが留守の分を、

使い魔で埋め合わせしてもらいたかったからだ。


 さて外出の警護プランは、婦人とは、共に行動し

お茶会の時は、建物の外で護衛すると言う事になっていた。

この事は、当然、婦人にも話していたのだが、

ところが、明日出かけると言うときになって


「会場には、外に別に警護がいますから、貴女達には、

お茶会に参加し、傍で警護してほしいのです」

「えっ?」

「リリアさんは、メイド服は、そのままでもよろしいですが、

貴方たちの普段着では、場に合わないので、

服は、私のをお貸しします」


との事で、婦人が所有するドレス、以前着たのと同じ、

自動的に装着され、サイズ調整もする魔法の服。

もちろん違う服なのだが、俺は前と同じ青を基調にしたドレスを渡された。

加えて、アクセサリーや化粧品付きである


「はやり貴女は、青が似合いますわ」


との事、ベルにはエメラルドグリーンのドレスだった。

突然の予定変更に、戸惑ったが、しかし婦人の申し出は、断れなかった。


 そんなわけで、再びドレスを着る羽目になる俺。

四日目、出発の準備で、寝室でドレスを着終わると、


「着替えは終わりましたか」


とドアの外からベルが呼び掛けてきた。


「ああ……」


と言うとベルが部屋に入ってきた。彼女はすでに着替えていて、

化粧も含め、よく似合っていて、綺麗だった。


「お似合いですよ。あとお化粧だけですね」


やはり化粧は、抵抗がある。


「すっぴんでも、良いんじゃないかな」


と言うと、


「駄目ですよ。せっかく化粧品をもらったのですから」

「けどさあ……」

「私にお任せください」


俺は、初めて婦人のもとに行く事、思い出しつつ、流されてしまった。


 そして、


「いい感じにできましたよ」


と鏡を持ってきた。そして鏡には既視感のある美女が映っていた。


「どうですか?」

「俺は、ナルでも、マザコンでも無いから、回答は保留する」


そんな事を言っていると、ミズキが、


「私にも見せてくださいよ」


明らかに物珍しさで、見に来た。


「中々美人ではありませんか、その美貌で大勢の人間を誘惑してはいかがです?」


意地の悪い笑みを浮かべながら言うので、


「そんなつもりは、さらさらない!」


そして


「準備できたか?」


と同じく物珍しさで、見に来たリリアは、俺の姿を一目、見るなり


「なんだろうな、すっげぇ悔しい」


と言いだして、見るからに悔しそうな表情を浮かべた。


 正直、何とも言えない気分だったが、ミズキとイヴに館の方を任せ、

馬車に乗って俺たちは馬車に乗って婦人と共に出発した。

以前とは違って、敵が会場に乗り込んでくる可能性があって、

だから会場には、武器を持ち込んでもいいらしいが、

ドレスに帯刀は、かなり不便だったので、フレイに変えた。

目立つが、不便はない。なおベルはメタシスを、短剣形態にして、

装備する。リリアはナイフをメイド服の中に仕舞っていた。


 さて、先に出版社的なところに向かう。

婦人自身が、原稿が入っていると思われる封筒を、

職員と思われる人物に渡すが、


「わざわざ、ご足労いただき、ありがとうございます!」


その人物は、婦人がやって来たから、深々と頭を下げた。


「最終原稿、確かに頂きました。また機会があれば、お願いしますね」


とも言っていた。


 そして、ここでは、これ以上特に何事もなく、

いよいよお茶会の会場へと向かった。

会場となったのは、とある貴族の館で、到着してみてみると、

夫人の館よりも小さいものの立派な家であった。そして、馬車を降りるものの、


「少し待っていてくださいね」


そう言うと建物の入り口に向かい。メイドらしき人物と話をして、戻って来ると、


「では行きましょうか」


俺たちは、婦人についていく形で、茶会の会場へと向かった。

 

 お茶会に集まってた人々は、みんな若い女性ばかりであった。

そして婦人は、俺たちの事を自分のも守ってくれている冒険者であると、

紹介し、俺たちも挨拶をした。


 お茶会が始まると、思う事があった。婦人は、見た目は若いが、

疑似不老故に年齢は、かなりの歳で、

見た目ではわからないが、この中でも、ずっと年上となるはずだが、

他の貴族たちのとのやり取りが、どことなくであるが、

対等に話をしているように見え、


(もしかしたら、この人達は、カーミラにひどい目を合わされた

いわば被害者会の様なものなのじゃないか)


みんな若いのは、疑似不老だからとも思った。


 さて、お茶会は和やかな感じで、進んでいたが、

この日、まさしく予想外、場違いな相手が突然、茶会にやってきたのである。

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