7「朝の襲撃」

 クラウによると現れた魔獣は、ゴブリンの群れで、

しかもかなり大群との事だが、結界を囲むように急に現れたという。

その上、館に向かおうとしているとの事だが、

そもそも、この辺にはゴブリンはやってこない。

更には、魔獣に混ざって昨日来た人間、恐らくは、カーミラの気配もあったという。


《『転移』で現れたようなのですが、感じが違いますね

『召喚』とも違う。それはゴブリンもおかしいですね》

「おかしい?」

《まるで、ダンジョンの疑似魔獣みたいです》


 ここで一緒にいたミズキは、


「魔装が、どうかしましたか?」


と聞いてきたので、同じく、魔装の声が聞こえるベルが、

クラウの言ったことを話すが、


「貴方ではなく、カズキさんに聞いてるんです」

「魔装の声が聞こえるから、同じでしょう……」


とベルが言うものの、


「貴方の事は、信用できません」


この一言で、ベルが不機嫌そうな顔をするが、お構いなしに、こっちを向いて、


「悔しいですが、貴方は信頼できますから……」


と言った。


 悔しいというのが一言多いが、とにかくクラウの話した事を、

ミズキや、同じく魔装の声が聞こえないリリアにも話す。リリアは、


「擬似魔獣って、ここは、ダンジョンじゃねえよな」


ミズキは


「使い魔とかじゃないんですか」


クラウは


《そういうのではないと思われます》


そして通訳のように、クラウの言葉を代弁する俺。


 話を聞いたミズキは、考え込むような仕草をしたと思うと、


「もしかすると、『サマナヴィ』かもしれませんね」






「サマナヴィ」

使い手の魔力を代償に様々な、魔獣を召喚し、使役できるという魔具で、

これを使えば、誰でも「魔獣使い」に成れるという代物で、

元はダンジョンのラックで入手されたとされるレアアイテム。

しかし、召喚された魔獣が暴走する可能性があり、

その危険性ゆえに、魔具と認定された。

なお召喚される魔獣は、実際は疑似魔獣で、

あと使い手の持つ魔力によって、呼び出せる魔獣が変わる他、

魔力を消費して魔獣にスキルを付与することも可能。






「あの女が持っているという話は聞きましたからね。

それで呼び出したものではないでしょうか」


この魔具は、実際に使ったことがないとの事で、教団内でも

軽く噂になった程度で、それゆえか、外に漏れることもなく、

そのせいか、雨宮も、この事実を知らなかった。


 ちなみに、サマナヴィは、ある程度離れた場所にも呼び出せるらしいが、

結界があると、その中には呼び出せないらしい。

故に結界を囲むように、出現したと思われる。

そしてカーミラは、魔法の腕前は、そこそこらしいが、

保有する魔力は多いようなので、

もっと強力な魔獣を呼べる可能性があるとの事だが、


「おそらく、今回は小手調べなのでしょう。

それにゴブリンの様な低級魔獣なら魔力消費も低いですし

暴走の可能性も低いですからね」


しかしながら、かなり大人数で、

これまで仕事で戦ったことは無い量だった。


 するとベルが、


「私と和樹さんなら、問題なく倒せるはずですよ」


と自慢げに言うベル。


「サポートにイヴちゃんを連れていくとして」


ミズキとリリアを交互に見て、意地の悪そうな笑みを浮かべると、


「貴女たちは、二人仲良く、館を守っていてください」


と言う。確かに、ゴブリンを倒しに行くつもりだったが、


(変なこと言って、ハードルを上げないでほしいな……)


と思った。


「直ぐ戦えるように、行きましょうか」


 結界は、外からの攻撃を防いでいるが、同時に内側からも手が出せない。

だから、敵の動きが止まっている内に、側まで行って、

結界の消失と共に、戦闘開始と言うところであるが、

クラウ達の力や、鎧の力。特にバーストブレイズを使えば、

これだけの量は初めてだが、大丈夫だろうと思った。


 すると、ミズキが、笑みを浮かべて、


「貴方たちこそ、出番はありません。私が、結界が解ける前に、

全て終わらせて差し上げましょう」


と自信満々に言った。


「何をする気だ?」

「私の作った新しい魔法を使います」


つまりは、「根源分析」で作ったものという事になる。


「まあ既存の魔法を改良したものですが」


と何処か自虐的に言い、杖を手に部屋を出ていくので、俺たちも後を追った。


 彼女は部屋を出て、館も出て歩いていく。そして結界から離れているものの

コブリンたちの姿がよく見えた。


「結界が邪魔で、この位置からしか使えませんが」


と言いつつ、彼女は、杖を上に向けて掲げると


「サテレイズ・ライト・イクス!」


と叫んだ。すると結界の周辺に、無数の魔法陣と、

共に照明のような光が無数に出現した。


ベルは、


「これは『セラフィ・ウリエ・ブレス』に似てますが……」


以前、ベルとの戦いでミズキが、似た魔法があると言っていたが、

その魔法なのだろう。直後、同じように、ビーム光線のようなものが、

降って来て、周りが真っ白になって、ものすごい音がした。

結界があるから、こちらには何の影響もない。


 光が消えると、あの時ほどではないものと、

それでも地面のあちこちが抉れていて、さっきまでいたゴブリンは消えていた。

すると弱弱しい声が聞こえてくる


【あの……旦那様……】

「どうした?イズミ」


この声の主は魔斧ギガントである。いつものように、

外観をいじって、白を基調として、天使っぽいデザインに変え、

名前も、イズミとした。名前の由来は、斧と来ると、

おとぎ話の「金の斧」が思い浮かんで、泉の女神と来て、

そしてイズミと言う名前につながった。

因みに彼女はかなり弱気な性格をしている。


 さて、魔斧には、三つ目の形態として杖形態がある。

この形態を使えば、専用魔法以外、様々な魔法を使える。

故に、彼女は、魔法に関して高い知識がある。


【サテレイズ・ライトと言う魔法はあっても……

イクスと付く魔法は……存在しません……】


確かにミズキは、既存の魔法を改良したと言っていたから、

元の名前を残した。新しい魔法なのだろう。


【それに……結界を超えての……攻撃は、出来ません……

威力は、抑え目ですが……あの魔法は普通じゃないと、思います……】


どうやら、結界を超えてと言うのが改良点らしい。


 さて、ゴブリンは疑似魔獣故に、死ぬと同時に消失したと思われ、


《ゴブリンは、全滅したようです。

しかし、一緒にいた人間は、結界による防御で、攻撃に耐えきった後、

転移で、逃げられました》

「転移で!」


しかも、何者かが現れて、その者と一緒に転移してしまったという。

その人物の気配が、分からないという事だが、


「ナナシだな」


七魔装の気配を誤魔化せるのは、奴しかいない。

分からないのが、何よりの証拠だ。


 ここでミズキが、


「敵の状況は、どうです?魔装に聞いてくれませんか?」


と言って来たので


「もう聞いた。ゴブリンは全滅、カーミラと思える奴は逃亡したそうだ。

あとナナシの関与もある」


すると、残念そうに


「そうですか、あの女には逃げられましたか」


と言うが、


「まあ、いいでしょう。またあの老いぼれは来るでしょうから」


この後、結界の効果が切れ、いつも通り警護に入るが、

再度の襲撃は、無くて、その日は過ぎていった。


 そして夕食後の休憩時間に、内回りで、一緒に警護しているベルの話だと、

ミズキは終始、上機嫌だったと言う。


「肝心の親玉には逃げられましたが、

それでも、一泡吹かせれたのが相当、うれしかったようで」


ととこか苛立ちながら言った。

なおミズキが上機嫌だと言う事は、夕方近く、イヴと交代で、

やって来たミラーカも同じことを言っていた。

彼女もまた不機嫌そうだった。


 ベルがミズキの話をした時、詰所にいたので、当然彼女もいて


「分かりますか?」


と言って笑っていた。確かに彼女は上機嫌で、

同じくこの場にいたリリアが、


「ホント、うれしそうだな無能」


と言ったが、


「ええ、そうですよ。無能は一言多いですけどね」


普通だったら、怒るところだが、彼女は笑って済ませた


「気持ち悪いな……」


と対照的に、リリアは不機嫌な様子で苛立っている口調で言った。


 話は、戻って、ミラーカからミズキの事を聞いた時の事だ。

その時は、彼女から声をかけてきた。


「笑わないで、話を聞いていただけませんか?」


もう慣れていたから、吹き出すことはなかったが、


「あの女、今日はずっと、上機嫌で、さっき笑いながら、おしゃったのですよ。

私は実の母親と戦う事になるかも知れないと、どういう事でしょうか」


普通だったら、話しづらい事だが、彼女に気遣う必要がないので、


「今、依頼人を狙っているのは、君の実母だ」


すると、黙り込む。


「やっぱり気になるのか」

「顔も覚えていません。ですが気にならないと言えば嘘になりますわ」


こんな奴でも、親の事は気にしてるんだよな。

まあ、実父との関係は良好だったし、

役目を終えたデモンドールを、後生大事に持っていたくらいだ。


「戦うとしたらつらいか」


すると、強がってるようにも見えなくもないが


「別に、私を捨てた親ですから、情なんてございません。

ただ気になるだけです」


と言った後、


「貴方に話を聞いたのは、あの女よりも、悔しいですが、信頼ができるからですよ」


そう言うと、


「持ち場に向かいますね」


そういって彼女は去って行った。


 ミズキといい、悔しいは余計だが、一応信頼はしてくれているらしい。

しかし、相手が相手だから、信用されても微妙だ気分だった。


 とにかく、三日目は朝のゴブリン以外は、何事もなかったが、

これから状況がエスカレートするだろうと思うと、

不安を感じずにはいられなかった。

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