8「動く病院」

 雨宮は、宿泊こそ俺とは別だが、夕食は作ってくれるとの事で、

夕食は、ボックスホームで一緒に食べた。

ちなみに、ミズキは、いつものように部屋にこもってしまい、

食事の席こそ、一緒じゃなかったが、その後、雨宮の料理は食べた。

だいぶ悔しそうな顔をしていたが。


 なおボックスホームに来たルナは


「ボックスホームの事は聞いたことがありますが、本当に家みたい。

あと、ずいぶん豪華ですね」


という感想を言ったが、俺は、彼女にも、


「この魔機神は、もらいもので、ボックスホームの内装も、そいつの趣味で、

俺の趣味じゃないよ」


すると、ベルが


「前の持ち主はインテリアの趣味はいいんですが、ろくでもない奴ですよ」


と言った。


 食後は、明日の段取りを相談した。

とりあえず空いている寝室にミーナを寝かせることとして、

彼女を搬送する必要はあった。とりあえず、彼女の家まで、車で向かう。

道は広いので、問題はない。ただ道が混雑しているときの対応も考えている

あとミーナの、部屋の片隅に車いすがあったので、

それを使って彼女を連れてくることにした。

あと、空き寝室は、まあ綺麗だったが、俺と雨宮で軽く掃除もした。


 そして、翌日、道が混雑していなかったので、

無事に、車でレギナの家に乗り付けることができた。

その後は、とんとん拍子で、ミーナも無事に、

ボックスホームに、連れてくることもできた。彼女の搬送は、

主に雨宮とルナで行った。まあ俺も、彼女を車いすに乗せたり、

その後ボックスホームの寝室のベッドに寝かせる際に、手伝ったくらいで、

何もしてないのと変わらない。


 そして、彼女の搬送を終えると、

ルナと雨宮がミーナについていたいと言う事で、ボックスホームに残り、

俺はカーナビに雨宮から教えてもらった場所を設定し、

助手席にベルが乗って来たが、無視して、出発した。

その後は、妨害のようなものもなく、カーナビのおかげで道にも迷わず、

無事目的地へと到着した。


 到着を伝えると、雨宮は外に出て来た。俺は、雨宮に聞いた。


「なあホスピタルキューブってなんだ」


この時まで、詳しい話は聞きそびれていた。


「そう言えば、話して無かったな。ホスピタルキューブは、ベースマキシで

はっきり言えば動く病院だ」

「病院?」

「そう高度な医療設備が揃ったな、この世界だけでなく、

俺たちの世界以上の病院だ。立派な医者も大勢いる」


暫くすると水平線の向こうからそれが現れた。


「白い箱?」


かなり大きな白い箱で、赤い十字架の様なマークがついている。

なんだか大きな救急箱がこっちに向かって来ていた。


「ありゃ、ホスピタルキューブだな」

「リリア、何で?」


いつの間にかリリアが外に出ていた。


「別にいいだろ。外の空気を吸いに来たって」


と不機嫌な様子で言いつつも、


「あの中にゃ、高価で取引できる薬が一杯あるんだよな」


とか言い出したので、絶対命令であの中から盗みをしないように、命令した。


「冗談だって、本気にするなよ」

「どうだか」


どうにも、信用が出来ない。


 やがて、白い箱は海岸まで来た。


「でかいな……」


近くに来ると、その巨大さに圧倒された。

聞くところによると、ホスピタルキューブは、陸上は無限軌道で。

水上はホバーで動くうえ、潜水機能も持つらしい。


 到着すると出入り口らしき場所から、看護師を引き連れた。

白衣を着た医師らしき女性が出てきた。髪はショートカットで、

顔は、凄い美人で、何と言うか力強さと、勝気な性格が感じ取れる。


(女優に、こんな感じの人がいたな)


その医師は


「お久しぶりです。クロニクル卿」

「すまないなミク、無理を言って」

「いえ、ついでですし、あと事務長のお知合いですからね」


と言った後、


「患者は?」

「こっちだ」


ボックスホームへの扉は、開けっ放しなので、雨宮が、案内する形で

ミクと言う医師が、看護師を連れて、ボックスホームに入っていった。


 その後、俺とリリアは、この場に残されるが、そこに


「すいません。クロニクル卿はどちらに?」

「君は……」


そこにいたのはポニーテールの髪型の可愛らしい感じの女性がいた。

まだ幼さが残ってる感じで、少女と大人の女性の中間と言う感じで、

白衣を着ている。


「君も、医者かい?」

「いえ、私は錬金術師の見習いでして」


ファンタテーラでは、薬剤師の事を錬金術師と呼ぶことがある。


 そして彼女は、リリアの方を見ると


「ところで貴女……」

「なんだよ?」


とリリアはぶっきらぼうに答えた。


「以前、どこかでお会いしませんでしたか?」

「知らねえな、アンタの事なんて」

「そうですか……」


そうこうしていると、車椅子に乗せたミーナを、看護師に連れてくる形で

雨宮やミク、更にはルナも出てきた。雨宮はミーナがいるので

フード付きのローブを着ている。


 そして女性は、ローブを着ているが雨宮の事が分かるようで、


「お久しぶりです。」

「久しぶりだね」

「メディス様が、今お疲れで、挨拶に来れないので、私が代わりに来ました」

「気を使わなくてもいいのに……」


どうも女性は雨宮と面識があるようだった。


 その後、ミーナは、ミクや看護師に連れられて、白い箱へ

俺や雨宮、ルナは付き添いで後を追う。

なおリリアはボックスホームに戻っていった


(やっぱり薬を盗む算段だったんだろうか?)


それが出来なくなったから、帰っていったのではないかと思った。


 ホスピタルキューブの中は、正に俺たちの大病院と言う感じだった。

大勢の患者らしき人たちがいて、看護師や医師が、あわただしく行き来している。

話によると、このホスピタルキューブは、世界中を回って、

その高度な医療技術を提供しているらしい。そして、医者や看護師の多くは、

自動人形で、あのミクと言う女性も、自動人形との事。


 今、俺と雨宮とルナは、待合所で、椅子に座って、

診察を受けているミーナを待っていた。そこで俺は、ふと思い立って、


「なあ、雨宮、さっきお前が話していたポニーテールの女性は誰だ?」

「彼女が、リリィ・シフレストだよ」

「じゃあ、リリアの姉なのか」


言われて見れば、メディスって人の名前を出していた。


「そう言えば、二人は、さっき顔合わせをしていた」

「どうだった」

「特に何も、ただリリィって人が、『どこかであった事がある』とか言ってた」

「そうか、まあ双方面識がないんだから当然だな。『どこかで』

と言うのも、もしかしたら母親の面影かもな」

「それは言えるかもな」


あと思ったことは、雨宮の言う通り二人は、髪型は一緒だったが、

顔は、あまり似てない。姉妹と言われても首をかしげてしまうような容貌だった。


 その後結果が出て、医師のミクか説明があった。


「アルティメット・ヒーラーがあれは、直ぐですが、

生憎、しばらくは使えません。ですが手術で治すことが可能です」


この後、ミクは、専門用語を使っての説明だったの、

俺も立ち会ったが、話の内容は正直、ちんぷんかんだった。

ただ雨宮は、理解しているようだ。俺に分かったのは、

これから、投薬治療のち、手術を行って、術後、一週間後には退院できるとの事。

加えて、もしかしたら病弱な体質も治せるかもしれないとの事だった。


 この後、ミーナは病室に移動して、更にその後、廊下に出て、


「あとは、ここの人たちに任せて、この後はナアザの街に戻って、

レギナに話をしよう。今ならまだ君の話なら、聞いてくれるだろうし」

「そうですね。それにレギナは、ホスピタルキューブの事を知っていますから、

まさか、クロニクル卿が、手配してくれるとは思いませんでしたけど、

とにかく、ありがとうございます」


と頭を下げる。


「礼を言うには、まだ早いよ。レギナを助けないとね。

それに、和樹にも言ってほしい。カーマキシがなきゃ

ここまでうまくはいかないからね」


俺の方に、話を振った。すると彼女は、俺の方を向いて


「カズキさんもありがとうございます」

「雨……じゃなくて、クロニクル卿も言ってるけど、

まだ、お礼を言うには早いよ」


そう、雨宮の言う通り、レギナを助けなければいけない。

今なら、戦わずして魔装が手に入る。魔装が欲しいわけじゃないが、

戦わず問題が解決するなら、これほど楽なものは無い。


 しかし


(何だか、上手く行き過ぎてるな)


と不安も感じた。これも、ナナシの策略の内じゃないかと思った。

ちなみに、遠見魔法を警戒して一応、妨害魔法を使っていたから、

こっちの情報が、筒抜けなってるとは思わないし、

思いたくもないが、しかし不安は消えない。なんせ、相手も神なのだから。


 その後、俺たちが、ホスピタルキューブから出ると、

ホスピタルキューブは次の寄港地に、向かって移動を始める。

なおミーナが退院する頃には、また国内に寄港する予定との事で、

俺が、車を出す形で、雨宮たちが迎えに行く。


 この後は、まずルナの地元に戻ってクレオさんに事情を説明した後、

ナアザの街に戻って、レギナを探すことになった。






 どこかの部屋で、ナナシは鏡のようなもので状況を見ていた。


「魔法を使ってるみたいだけど、無駄だよ」


と笑いながら言う。暗黒神専用魔法は、まったく意味が無いようだった。


「しかし、思い通りに動いてくれるね。

ホスピタルキューブの手配までしちゃうんだから」


和樹たちの行動は、ナナシの手の上のようだった。


 そして、ナナシは鏡に触れると、和樹の部分が拡大される。


「暗黒神、君には楽はさせないからね」


そう言って笑うのだった。

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