8「斬撃の魔女再び」

 一応、勝ったようなものだが、彼女はまだ生きてるのだ。

止めを刺す必要がある。しかし、さっきまでなら、殺してしまっても、

正当防衛だし罪には問われない。

まあ現状でも、彼女はお尋ね者で、殺してしまっても、

罪には問われないようで、手配書には生死は問わないとまで書いていた。

ついでに、懸賞金も出る。


「俺にはできない……」


 やっぱり俺には、今の様に人間の姿に戻って、

意識を失っているライラに止めを刺すことは出来なかった。

次の瞬間、周辺把握に、突然、人の反応が現れたかと思うと、


「「キャア!」」

「うわっ!」

「………!」


ベルたちの悲鳴が聞こえ、俺は、そっちを向くと


「斬撃の魔女!」


倒れているベルたちと、彼女たちにやられたのかボロボロのルド、

その側に、抜刀している斬撃の魔女の姿があった。


《転移で、現れたと思われます》


そして恐らく、彼女がベルたちを倒したのだろう。

後にベルたちに聞いたが、一瞬の事で、何が起きたか分からないとの事だった。

ただ、斬撃の魔女は、


「峰打ちだから、大丈夫よ。自動人形も一時的な機能不全だからね」


と言って、


「そっちの子は、私の手に負えなそうだから、ご自由に」


するとルドを引き寄せ、


「でもこの子は、使えそうだから、連れて行くわ」


するとルドが、


「使えそうって、どういう事だよ!」

「いや、無性に助手が欲しいなって思ってね」

「ふざけんな!何言ってやがる!」

「あら、元気がいいじゃない。助手にピッタリよ」


次の瞬間、何だかの魔法を使ったのか


「うぐっ!」


と声を上げ、ルドは気絶した。


「この子は、しばらくは私の手伝いをして貰うから、

当分は、貴方を狙う事は無いでしょう。いや二度とないかもね」


次の瞬間、紐の様な物が俺に絡みついて、動けなくなった。


《これは、強力な拘束魔法です》


そして彼女は言った。


「それは、効果時間は短いけど、強力でね。暗黒神でも解くことは出来ないわよ」

「!」

「それじゃあ、雨宮君によろしく」


するとこの前と同じく、刀を上に向け、円を描いた。

そして魔法陣が出現したが、二人はうっすらとした光に包まれたが、

直ぐには消えなかった。


《恐らく長距離の転移魔法です》


長距離故に、転移に時間が掛かるのだろう。

だから邪魔されない様に俺を拘束した。そして彼女は


「じゃあね。また会いましょう」


と言って手を振った後、消えてしまった。

それと同時に、俺の拘束も解けたし、ミズキ達も、目を覚ました。


 そしてベルが、


「すいません。下手を打ってしまいました」


申し訳なさげに言うが、


「こっちも同じだ。気にしなくていい」


と答えつつも、俺には気になる事があった。


(あの女、暗黒神って言ってたよな。俺の正体に気づいたのか?

それとも、強さの例として暗黒神の名を出したのか?)


答えは分からなかった。


 その後、


「コイツどうする?」


とライラを指し示すリリア。更に


《マスター、人が集まって来てます》


恐らく先の騒ぎを聞きつけて、人が集まって来てるのだろう。

その中に、雨宮もいるらしいが、到着は後になりそうなので

俺は、フレイに切り替えて、


「鳥もち……」


ライラは、鳥もちで拘束し、


「帰るぞ」


と言って、その場を立ち去った。そうするしか、思いつかなかったのだ。


 そして後日、雨宮の元を訪ね、何があったかを説明すると、


「あれは、お前の仕業だったか。名乗り出たらどうだ。懸賞金がもらえるぞ」

「別にいいよ。お金なんて」


雨宮によると、どうもドンパチしてて、かなり騒がしかったようだが、

最終的には、光刃絶斬の光と轟音で、ただ事じゃないって事になって、

冒険者や、衛兵たちや審問官、そして雨宮までもが、駆け付けたらしい。


 ちなみに、最初に駆け付け、拘束されてるライラを見つけたのは、

衛兵で、その人物は、真面目で、手柄を横取りしようとしなかったので、

誰が、ライラを拘束したのか不明という事になっている。

俺も名乗り出るつもりは、無いから、謎のままで終わるだろう。


 ライラは、逮捕され、素直に罪は認めているらしいが、


「悪びれる様子はないらしい。ふんぞり返って、威張ってるそうだ」


素直なのは、反省しているからではなく、そもそも、悪いと思っていないからだ。


「それでも、ルミナさんにかかわる事になると、口をつぐむそうだ。

まあ、多分行動制限の所為だな」


ちなみに、行動制限の影響なのか、今回、夜戦ったから、気づかなかったが、

奴は、夜じゃないと魔獣の力を使えないらしい。

まあ今は、魔法で魔獣の力を封じ込めているようだが。


「口をつぐむと言えば、何であそこにいたかとか、何をしていたのかも、

一切話さないらしい」


つまり奴は、俺たちの事も口をつぐんでいるらしい。


「斬撃の魔女が来たときに、俺たちに気づかれない様に、

何かしたのかな。俺たちの事を話さないように行動制限をしたとか」

「何のため……いやあの女に理由を求めるのは、無駄な事か……

助手の事も含めてな」


雨宮によると、斬撃の魔女が助手を取るなんて事は、初めてらしい。


「ルドって奴は、よっぽど、あの女に気に入られたんだろうな」

「当分、俺どころじゃなくなるらしい。『二度と』とも言ってたがな」

「それは良かったな」


ライラの今後であるが、この後は裁判らしいが、これまでの所業から、

死刑は間違いないらしい。まあ当然の話である。


 さて、ライラの事はここまでとして、


「それにしても、どうした浮かない顔してるな」

「いやさあ、結局、俺のしたことは無駄だったよな?」


ライラは捕まったが、モヤモヤは完全に晴れてはいない。


「死者の復活による悲劇は、起きたわけだしな。結局、俺は止められなかった」

「悪いのは、斬撃の魔女だ。奴が来るなんて、予想できなかっただろ」

「それ以前に、知らなかったけどな」

「じゃあ、なおさら、お前の所為じゃねえよ」

「けど……」


俺が、いまいち納得できずにいると、雨宮は俺をなだめるように


「確かに、悲劇は起きた。でもライ君の名誉は守られている」


ライラは、自分の素性は口をつぐんでいる。いや覚えていないんじゃないかとの事。

それに、顔立ちも含め、誰もライラがライ君である事を分かる人間がいない。


「そもそも、ライラは、体はライ君だろうが、おそらく魂は別物だ。

見た目だって、変化してるんだから、別人って言ってもいい」


これは、大十字絡みで、似たような事例を、俺と雨宮も見ていたからだ。

だから、ライラとライ君が別人という事には、俺も賛同している。


「今回の件は、俺たちやルミナさんが黙っていれば、

ライ君の仕業だとは思わない。斬撃の魔女だって話すことはないだろう。

まあ、話したとしても、信じる者はいないだろうな」


もしも、暗黒神の力で蘇れば、本人の姿が維持され、

同じことが起きるだろう。そうなれば、俺がルミナさんに言ったように、

本人の悪名が、代々語り継がれていくだろう。


「とにかく、ライ君の名誉は、守られたんだ。それだけでも、お前のしたことは、

無駄じゃない。俺はそう思うね」


と雨宮は、俺の肩を叩きながら言った。


 雨宮は、今後、ライ君の名誉が守られるように、

ライラが、斬撃の魔女によって、ライ君が復活した姿である事が、

表に出ないように、色々と手を回してくれるという。


 先も述べたが、ライラとライ君が別人、

ハッキリ言えば体を利用されてるだけ、だから同一人物として、

その責任を負わされるのは、気の毒だから、その事に関しては、俺は賛同する。

だけど、やっぱり、事を防げなかったという事は、

やっぱり責任を感じざるを得なかった。


 その後、ルミナさんの処遇に関しては、聞いてはいない。

街で何度か見かけたから、お咎めは無いようであったが、

憔悴した状況は、変わっていないところを見ると、罰は受けているみたいだった。


(あなたは、何のために、息子の復活を望んだ?)


彼女を見るたびに、そう思い。

そして止められなかった俺の責任を感じるのであった。


 さて、斬撃の魔女の一件は、彼女で始まり、彼女で終わったように思う。


(本当に事は、終わったのだろうか)


斬撃の魔女は健在なわけだし、俺を恨んでいるルドも生きている。

どうも、まだ事が終わっていないような、俺は、そんな不安を感じるのであった。






 さてライラは、斬撃の魔女の実験体であるので、

一応、力は封じ込めてあるものの、普通の犯罪者とは異なる施設に護送される。

そこに収容され、そこから裁判所に通い、懲役刑も、死刑も、

そこで刑の執行の執行が行われる。


 その護送中に襲撃があった。


「何だお前ら?」


と護送を担っていた兵士の一人が言った

襲撃者たちはローブを着ていて、それにはある紋章が書かれており、

それを見せつける。


「暗黒教団!」


その後兵士たちは、抵抗したが、全滅する。


 そして襲撃者の一人によって護送車両の扉が開かれる。

中には手錠で拘束されているライラの姿があって、ライラは不機嫌そうに


「誰だお前?」


と言う。


「俺は、ジム・ブレイド」


襲撃者の一人と言うよりも、指揮していたのはジムだった。


「お前の力を借りたい……」


と手を延ばしてくる。ライラは笑みを浮かべると、ジムの手を取った。

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