第20話「七魔装襲来」

1「interwineの新店員」

 斬撃の魔女の一件から数日、雨宮から、ライラの護送中に襲撃があって、

彼女が消息不明になったと聞いた。犯人は、暗黒教団の可能性があるらしい。


「何か嫌な予感がしたんだよな」


俺は、家の居間で、例の携帯電話で雨宮から話を聞いた時、

思わず俺は、そんな事を口走っていた。


 雨宮は、


「大方、『斬撃の魔女』の技術を盗むためか、奴の技術は危険だが、

その力が魅力的なのは事実だ。あるいは自分たちの軍門に加えるつもりか、

まあ、あの性格じゃ、それも難しいかもしれないが」


ここで俺は疑問を感じ、


「暗黒教団とは協力関係なんじゃあ?」

「協力関係って言っても、一時的だ。前も行ったけど、あの女は気まぐれだからな」


どうやら今は、暗黒教団とは、距離を置いているらしい。


「とにかく、奴らの目的は、ともかく、ライラにせよ暗黒教団にせよ、

お前との因縁があるからな。しばらくは、気を付けた方がいいな。

例の『ナナシ』の事もあるからな」


その言葉を聞いて、俺は不安を感じた


(まあ、暗黒教団だからって、必ずとは言えないが、

今回の事に、もしジムが関わっていたら、必然的にナナシも関わってくるな)


雨宮の言う通り、しばらくは警戒が必要だと思ったが、

その後は特に何もなかったから、結局警戒も、自然と緩んでいった。


 さて、ライラが暗黒教団にさらわれて、数週間後、

その日は、ギルドにも行かず、家で休んでいて、ベルが買い物で外出している間に、

ふと思い立ってinterwineに行くと、雨宮が、冒険者らしき、

筋肉質で大きな剣を持った男に


「募集しているのは、厨房のスタッフであって、用心棒じゃないんだよ。

お帰りください」

「そんなぁ~俺、絶対に役に立ちますよ!」

「でも料理が出来ないんだと、すまないが話にならない」


そして男は、渋々帰っていく。その後、カウンター席に座った俺は、

軽食を頼み、それを運んできた際に、


「さっきの、従業員募集の?」

「ああ、また用心棒志望だったよ。まったく、欲しいのは厨房スタッフなのに……」


あれから、雨宮の店はいまだに、従業員を募集していた。

人は来ないわけじゃないが、雨宮が言っているが、

尽く用心棒志望なのだ。大方、有名人の雨宮の元で雇われる事で

名を上げるつもりなんだろう。


 雨宮は、頭を抱えながら


「冒険者ギルドに、募集ポスターを張ってもらったのが、まずかったかな。

でも、あそこは人の出入りが多いからな」


そう、ポスター店の入り口以外にも、冒険者ギルドにも張っていて、

雨宮の言う通り、多くの人に見てもらうためだが、

ギルドに集まっているのは冒険者だから、腕っぷしが強い連中ばかりで、

結局のところ、用心棒志望ばかりになってしまう。


「まったく、用心棒は、間に合ってるのに」

「えっ?用心棒いるの?」


初耳だった。雨宮は、大魔導士で強いから、必要ないんだと思っていた。


「言ってなかったな。実はな、ハルが用心棒をしてるんだ」

「えっ!ハル君ってお前の弟子なんじゃ」

「そうだ、でも用心棒でもあるんだ。ハルは強いんだよ」


思わず、今、客が少ない時間で厨房の方で、一休みしているハルの方を見てしまう。


「何か御用ですか?」


こっちの視線に気づいたのか、ハルはこっちを向いて声を掛けてきた。


「いや、なんでも……」


見た目的に、あまり強くは見えないが、雨宮が言うくらいだから、

強いんだろうと思った。この時、雨宮は言わなかったが、

後に、その強さは、斬撃の魔女が彼に施した実験と

大きく関係がある事を知る事になる。


 さてこの後、食事を食べ終わった頃、一人の少女がやって来た。

その少女は、顔は日本人的な顔立ちをしていて、ロングストレート髪型に、

頭には、バンダナのようなものを巻いている。顔立ちは、可愛らしいけど、

どこか力強い目つきをしていた。

服装は、砂漠の戦士と言うような格好で背中には大きな剣と、

腰にも剣を身に着けている。見るから冒険者と言うような感じだった。


「いらっしゃい」


雨宮が言うと、彼女は、


「客じゃないんです。募集を見てきました」


どうやら店員志望らしい。ただ見る限り、また用心棒志望に思えた。


 この後、面接が始まる。俺も立ち会うことにした。そして雨宮は、


「君、名前は」

「私は、ルナ・カティサールと言います。冒険者です」


見たままだった。それを聞いて、雨宮はうんざりした様子だったが


「一応、募集要項は見てきたかい?」

「はい」

「欲しいのは、厨房スタッフだからね。君料理は出来る?」


ここで、大体は料理が出来ないか、出来たとしても、

試しに作らせてみて、不味いかのどちらからしい。そんな彼女は、


「出来ますよ」


と答え、


「それじゃあ、試しに作ってくれないかな。厨房を自由に使っていいから」

「はい、料理は何でもいいですか?」

「いいよ。あと材料は、自由に使ってくれればいい」

「分かりました。ではチャーハンを作ります」


ちなみに、炒飯は異界料理、俺たちの世界から持ち込まれた料理との事。


 そして彼女は、店の厨房の機材と、材料で炒飯を作っていく。


「手際がいいな……」


と雨宮が真剣な眼差しで言う。俺も何となくそんな気がした。

そして、料理は完成し、皿に盛って、


「どうぞ……」


彼女は、緊張した様子で、差し出してきた。

雨宮は、蓮華を用意して、試食する。俺も試食されてもらった。

味は、雨宮ほどじゃないが、文句ない旨さだった。

でも、味付けがどこかで食べた事のある味だった。雨宮は


「来龍軒の味だな……」

「あっ!」


と思わず声を上げた。来龍軒と言うのは、

俺たちの住んでいたS市にあった中華料理店で、

時々俺と大十字と雨宮で食べに行ったことがある。

中々上手い料理を出す中華料理店で、そこの店主の親父は、

確か雨宮の親父と同じ店で修業した仲間で、普段から交流があるという。


 ここで雨宮は


「もしかして君の家族に、麗華って名前の人はいないか?」

「ええ、祖母はレイカと言う名前ですが」

「異界人だろ?」

「はい、そうです。祖母の事をご存じなのですか?」

「この世界に来る前に会っている」


と雨宮が言ったので、俺は


「俺も、知ってる人か?」


と聞くと、


「来龍軒の親父の娘さんだよ」

「あの、お姉さんか……」


店長の娘が店を手伝っていた。俺は名前を知らなかったが、

中々美人のお姉さんだったのを覚えている。


「そう言えば、たしかある日、行方不明なって」


そう神隠しだ。つまりファンタテーラに飛ばされたという事。

このルナと言う少女の顔を見ると、言われてみれば、

あのお姉さんの面影があるような気がした。


 なお彼女の祖母、あのお姉さんはもう亡くなっているとの事だが、

死ぬ前に料理を教わったとのこと。ともかく料理ができるとの事なので、

彼女は、厨房スタッフとして、雇用することになり、

ようやく、人手不足が解消されるので、雨宮は一安心であった。

それにしても、世界を超えた何とも不思議な縁で、

その後、彼女は厨房スタッフとして申し分のない活躍をするのだった。


 さて、ルナの雇用が決まった後、俺は、食事代を払い、

帰路についていた。途中で、


「今お帰りですか」


と馴染みの受付嬢とばったり会った。


「今日は、ギルドに来られなかったですね」

「ああ、今日は休みだ」


少し雑談した後、


「いつもの事ですけど、ランクを上げる気はありませんか?」

「だから、俺そう言うのに興味ないから」

「もったいです。受ける依頼が依頼だから、あなたのランクは低いですが、

聞こえてくる貴方の実力は、上位の冒険者並みですよ。

もっと、高難度の依頼を受ければ貴方のランクは直ぐに上がります。

一位も夢じゃないでしょう」

「だから、興味が無いって……」


すると彼女は、


「そんな事言わないでください。私、貴方を応援してるんです!」


前にダンジョンに行く事を勧めた時も、同じことを言っていた。


 俺は、彼女に聞いた。


「どうして、俺を応援してるんだ?」

「頑張ってほしいって思う事に理由が必要ですか?」


と逆に聞き返されてしまった。


「それは……」


確かに、特定の相手に、何となく頑張ってほしいと思う事はある。


「私は、貴方が冒険者登録をしにきた時、何となくですけど

貴方が、上級冒険者になれる気がして、

そしたら応援しなきゃって気持ちになったんです!」


と綺麗な目で、俺の目をまっすぐ見ながら言う。

そんな目で見られると俺としては、気まずい気持ちになる。

なんせ俺は、本腰を入れて冒険者をしていないのだから、


「だから頑張って上級冒険者に成ってください!」


と言われ、何とも気まずい思いをするのだった。


 そして、少しして彼女と別れたが、何とも言えない気分を抱える事になった。

そんな中、クラウが


《マスター、剣をお抜きください》


と言い出した。


(どうしたんだ急に)

《七魔装の気配です》

(七魔装!)


気配は感じたものの、鞘に入っているので、「感知」が鈍く、

何処に居るか分からないらしい。

しかし、町中で大勢の人が居るので、鞘から僅かに刃を出す


《敵は、おそらく魔輪センリとエイリです》


それは、二つで一つと言う扱いの武器で、円形の投擲武器、所謂チャクラムらしい。

使い手の意思で自由自在に動くと言う。

そして、二つで一つと言う点や、人の手を離れて動くと言う特製ゆえに、

直接遭遇せずとも、分かると言う。と言っても実際に見た事がないから、

推測らしい。


《私達を捕捉してるようで、真っすぐとこっちへ向かって、高速で接近中です。

遠見妨害の魔法を使えば逃げれますが》


 ここで逃げたところで、またやって来るだろうし、

それに無差別に人を襲いかねないから、そうなったら心苦しいから、

戦わないといけないようだった。


「はぁ~」


そうは思っても俺は、うんざりした気分で、思わずため息が出る。

ただ、その時いた場所は、人が多いので、巻き添えにしたら悪いから、

急ぎ足で移動した。


《付いてきています》


との事で、とにかく人気のない場所を目指した。

そして辿りついたのは、この前、ルドと戦った場所の近くであった。

この辺も人気は無い。


 俺は、鎧を身に纏い剣を抜く。


《来ます!》


周囲には木々があったが、それらをなぎ倒されていく。

そして、30cmほどの金属製の輪が二つで、物凄いスピードで飛んできた。


「くっ!」


クラウで受け止め、弾く。


「全く面倒くさい」


と思わず愚痴を言いつつも、二つの魔輪との戦いは始まった。

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