5「犯人の目星」

 墓の下に、死体がない事を知った俺は雨宮に、例の携帯で連絡を取り


「なあ、斬撃の魔女って、人間を甦らせる事は出来るか?」

「まともな形じゃないがな、やった事はある」


まともじゃないって事は、化け物になって復活って所だろう。

そして俺は、ラインハルトの墓の話をした。


「本当に死体が消えたのか!」

「直に、墓を暴いて確認したわけじゃないんだけど」


ただ彼女は、息子の復活を望んでいた。暗黒神の借りようとしてまで、


「もし彼女が、斬撃の魔女から、復活を打診されたら」

「確実の受け入れるだろうな」


そして息子は復活したのだろう。だから死体が無い。


 しかし、クラウによれば、ルミナさんは後悔している。

だから俺は、ある仮説が頭に浮かんだ。それを雨宮に話すと、


「あり得る話だが、証拠が無いな」

「俺さあ、ルミナさんに会いに行こうと思ってる」

「どうしてお前が?そう言えば、どうして息子さんのお墓に居たんだ?」


その事は、まだ話していなかったので、説明した。


「俺が関わるべき事じゃないのかもしれないけどさ、どうにもこうにも、

気になってさあ……」

「だったら、俺も行くよ」

「お前が行ったら、引かれないか。お前有名人なんだから」

「俺も、無関係とは言えなくなっているからな」


ここで、ミニアが


〔行くなら、今すぐ行った方が良いわよ。もしかしたら自殺してるかも〕


ミニアの女の勘だそうだが、ここまで、当たって来てるので、

雨宮にミニアの言った事を話す。

俺が教える形で雨宮もミニアの勘がよく当たる事を知っているので


「じゃあ今すぐ行こう」


と雨宮も言うが、


「そう言えば、お前、ルミナさんの居場所って、知ってるのか?」

「借用の儀で得られた情報に職場と家の住所もあったから……」


そんな訳で、途中で、雨宮と落ち合いつつ、

ルミナさんの職場へと向かおうとしたが、ミニアの言葉が気になって、

先に家の方へ向かった。なお雨宮と落ち合う前にミズキは、家に帰った。

言うまでもないが、彼女は雨宮の顔が見たくないからである。


 ルミナさんの家は、小さな一軒家だった。雨宮がドアを叩き


「ごめんください」


と声を掛けるが返事はない。クラウを僅かに抜く事で、

家の中を確認させる。


《まずいですマスター、自殺しようとしています》


「「えっ!」」


その言葉に、俺と、同じくクラウの声が聞こえるベルが、

思わず声を上げ、


「どうした?」


と言う雨宮にその事を伝えると、雨宮も血相を変え、

玄関ドアに手を掛けると、扉は鍵がかかってなかった。

俺たちが中に入ると、丁度首を吊ったところだったので、


「ウィンドカッター!」


と雨宮が、魔法を使い、ロープを切って自殺を阻止した。

更に別の魔法で、彼女の体をゆっくりと、地面に着地させた。

とにかくミニアの女の勘がまたしても当たっていた。


 ルミナさんは、地面に着地すると、


「クロニクル卿……どうしてここに?」

「貴女に、話があってきました。それよりも、何やってるんですか!

自殺なんて……」


すると、ルミナさんは、


「お願いです。死なせてください!」

「何を言ってるんですか!」

「もう限界なんです」


と言って泣き崩れる。それを宥める雨宮。


「一体何があったんですか?」


泣きじゃくるばかりで、話にならなかった。

ここで俺は、彼女の書いた遺書らしきものを見つけ、

勝手ながら封を開けて読ませてもらった。

もちろん、読めるのは翻訳スキルのお陰だ。


「思った通りだな……」


俺の仮説は当たっていた。そして、雨宮にも遺書を見せた。


「なんてことを……」


と言うも、以前の事があるから。あまり驚いては居ないようだ。


 遺書には、墓参りをしていた時に、

赤毛で仮面を着け、刀を持った女と出会った事。

名乗りもせず、ルミナさんも名を聞かなかったとの事だが、

斬撃の魔女に間違いない様だった。

そして、彼女から、息子の復活を打診されたと言う。

息子の復活を望んでいたルミナさんは、それを彼女に頼んでしまった。

ただ、注意事項として、亜神、両性具有になる事と、

以前と別人になってしまう事を聞かされていた。

場合に寄ったら凶暴な人間になる事もあると、

それでも彼女は復活を望んだのだ。


 ルミナさんは、息子の復活の際に、立ち会っていたとの事だが、

斬撃の魔女は、彼女には理解できない事をしていたらしく、

詳しい内容は書いていない。

とにかく、息子は復活し、見た目は変わってしまったものの、

ルミナさんの事を母親と認識した。

そして彼女は、見た目の変わった息子に新しい名前を付けた。

その名は


「ライラ……」


そう、あのライラが、ルミナさんの復活した息子だと言うのだ。

しかし見た目は変わってしまっていても、

息子が帰っていた事は嬉しく、最初の内は良かったらしい。

そう、最初の内は。


 日が経つにつれ、様子がおかしくなり始めた。家では大人しいらしいが

外では、問題を起こすようになっていた。

どういう事をしでかしたかは、俺も知っている。

ライラのしでかす悪事は、町じゃ有名だからからな。


 ルミナさんは、もちろんライラを咎めたが、言う事を聞きはしなかった。

幸いと言っていいのかは分からないが、不思議な事にライラは、

家で暴れたり、ルミナさんに暴力をふるうことは無かったと言う。

しかし言う事は聞かない。


 そして強盗事件が起きる。遺書にはそれが、

ライラの仕業に違いないと書かれていた。事件が起きた夜は

貴金属類を多く持ってきたと言う。

もちろんそれが証拠になるだろうが、ルミナさんに、

それを確認する術は無いし、本人に問いただしても、何もいわない。

ただ、息子を蘇らせた女性。つまりは斬撃の魔女から、

息子が複数の魔獣の力を付与していると聞いていたから、

もしやと言う思いがあると書いている。


 そして、よくある「こんなはずじゃなかった」と言う思いが募り、

加えて、ライラのしでかした事への責任を取るとして、

自殺する旨が書かれてた。


「はぁ……」


ここまで読んで、俺は、思わずため息をついていた。


「どうした?」

「何と言うか俺のしたことが、全部無駄に終わったと思うと

なんだかなって気分がして」


結局、結果は変わらなかった。


「でも、お前は間違った事はしていない。

それにうまくやれば、ライ君の名誉は守られる。」

「それってどういう?」


雨宮は、それには答えず。


「取り敢えず、衛兵と、審問官も呼んでくるから、

二人で、彼女の様子を見ていてくれるか?」

「分かった……」


雨宮は、その場を去り、俺たちはルミナさんが、

再度自殺しない様に、見張る事となった。

雨宮が戻ってるまでの間、ミズキが居なくてよかったと思った。


(アイツが、この場に居たら、人間の愚かしさを延々と語るんだろうな……)


しかしながら、大十字絡みからの経験だが、

人間の愚かしさを語る奴ほど、一人芝居やってるみたいで、

作り物っぽいのは何故だろうか。


 さて、雨宮が戻ってくるまでの間、特に何事もなかった。

雨宮に連れてこられる形で衛兵やら審問官やらが、やって来た。

連中は、俺たちの事を聞いていたが、雨宮は、ルミナさんに用があったのは自分で、

俺達は、知り合いではあるが、偶然通りかかっただけで、

人を呼んでくる間、見張りを頼んだが、この件には特に関係ないと言ってくれた。

雨宮がルミナさんに会いに来た理由は、


「彼女は以前、俺の元に、押しかけてきた事があって、

久々に見かけたら、様子がおかしかったんで、気になって、家を訪ねたんです」


と話した。雨宮が俺達は無関係と言ってくれたおかげで、

特に事情聴取を受ける事も無かった。

そして後々面倒な事にならない様に、配慮してくれた雨宮に感謝したが、

同時に、申し訳なくも感じた。


 その後、雨宮から携帯で連絡を受けた。

ルミナさんの家のかつてライ君が暮らしていた部屋から、

盗まれた貴金属の一部が見つかったらしい。


「あと一部は、換金してたとか、動機は、おそらくだが、

遊ぶ金欲しさのようだ」

「何かよくある話だな」


そして斬撃の魔女の関与が確認されたため、強盗事件の捜査には

審問官も関わるとの事。


「ルミナさんは、しばらくは衛兵所の方で身柄の確保と言う形になる。

とにかく自殺しない様に、気を付けてくれるそうだ」

「そうか……」


なおライラの所在は、不明らしい。家に帰って来るだろうと

見張りは立てているそうだ。


「これで、後はライラを捕まえれば、事件解決だな」


と雨宮は言ったが、


「けどライラは、すでにお尋ね者だろ。でもまだ捕まってないよな?」

「まあ、今回は殺人だし、しかも審問官案件でもあるから

これまで以上の捜査になるはずだ」


後は時を待つだけとの事だった。

 

 翌日仕事を探しにギルドに行くと、ライラの手配書があった。


「こんな顔をしていたんだな」


確かに美人だったが、しかしライ君とは、

性別が変わっているとはいえ似ても似つかない顔だった。馴染みの受付嬢は、


「犯人はライラって人でしたが、まあ彼女の悪名は聞いてましたから、

驚きはしませんね。しかし犯人の目星がついたからには、

あとは時間が解決してくれますよ」


と言っていたが、俺はモヤっとした気持ちを抱えていた。

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