4「閑話」

 一旦、アパートに戻った後、少し落ち着いてから、

例の携帯で雨宮に連絡を入れ、ルドかもしれない奴の事を話した。


「ソイツは、本当にルドって奴なのか」

「確証はねえよ。何となくそう思ったって感じだし、

本人は認めていた。クラウの感知では嘘はついてないんだが

でもナナシが、関わっていたら、当てにならないだろうし……」


もちろん、ナナシが関与しているかは分からない。

赤毛の女が、斬撃の魔女かどうかも分からない。ここで雨宮は神妙な声で、


「悪魔が滅びれば、契約者も滅びる。それは、絶対的だ。

でもその絶対を破れるかもしれない者がいるんだ……」

「まさか、それが斬撃の魔女だと」


と俺は言うと、


「もちろん可能性の話だ。けどあの女ならあり得るんだよ。

ヤツはこれまでも、常識を覆して来た。

もちろんその為に多くの者を犠牲にしてきたがな」


常識を覆すと言えば、大十字も同じだった。彼女は超能力を持って、

幾度となく、常識を覆して来た。雨宮も、


「あの女は、久美と似ている。でも決定的に違うのは、

久美は正義感だけど、あの女は自分の欲望の為だ」


と言った。俺は、


「ナナシと同じって事か」

「そうだな、ただ皮肉な事に、あの女がしでかした事が、

時に世界を救う事があるがな」


と言った後、


「それに、これは彼女に限った事じゃない。『転生石』の転生者は、

みんな途轍もない力を持っている。それが味方である内は良い。

でもそれが敵となればいかに厄介か身に染みてるだろ」


ベルの一件が正にそれだ。


「とにかく、もしお前を襲ったのがルドと言う奴で、彼を助けたのが、

斬撃の魔女だとする。いや彼女は、亜神に妙なこだわりがあるから、

亜神化という点でも、彼女の可能性が高いんだがな」


とは言え、本人が亜神になったと言うだけで、

俺自身、確かめたわけじゃないし、クラウも感知じゃ分からないらしい。


「これが斬撃の魔女の実験だとすると、

ルドが、強盗じゃないと言うのもうなずける。彼女に実験は、

男女一組で行うからな」


つまり女性の実験体。ルドと同じ能力を持つ奴がもう一人いる。

ソイツが強盗と言う事になる。


「実験じゃなければ、確立した技術を気まぐれで使ったと言う事になる。

そして、ルドが本当のことを言っていたら、同じ事をした人間がもう一人いる」


この場合だと、そいつが強盗と言うのは同じだが、女性とは限らない。


「まあ、両性具有化してる関係上、元は男性であったとして、

見た目的には女性なんだろが」


実際の所、目撃されているのは、女性だしな。


 そして、雨宮は


「強盗の事はともかく、お前は今後、気を付けた方が良いな。

あの村の件が関わってるとなると、衛兵には頼れないし」


あまり目立ちたくないから、あの村での一件は秘密にしている。

公式では村人たちの死は、悪魔との契約の末の死となっているが

悪魔の連動した死とはなっていない。


「まあお前は襲われても、大丈夫だろうが、場合に寄ったら、

暗黒神である事が露見する原因にもなりかねないからな。

それに、ナナシが関与して無いとも言えないし……」

「暫くベルが、俺と行動を共にするって」

「でも、それっていつもの事じゃ……」

「ああ、でもすごく嬉しそうにするから、俺もちょっと考えたよ」


ベルを悦ばせて、おかしな勘違いをされると困るので、一計を案じていた。


「まあいずれにしても、案の定、とんだ置き土産を置いていったようだ」


俺も、そうだが、雨宮も俺の事だけでなく、

相談を受けているから強盗の事も含め、今後の事で頭が痛いようだった。


 さて仕事の時は、ベルと一緒だが、出来だけ別行動を取らないように

動き、休みの日も外に出かける時は、一緒に行動しているのだが、


「………」


不機嫌そうに何か言いたげな様子のベル、


「何か言いたいことでも?」


と俺が言うと、


「なんで、コイツが付いて来るんです?」


この時、リリアが一緒であった。


「アタシだって、ベッド以外で、コイツと一緒に居たくないよ。

でも、金くれるって言うから……」


リリアは、金に弱い。まあ「絶対命令」で、金で裏切ることは無いが、

それ以外だったら、金でいう事を聞く。

我ながらゲスな事をしている気がするが、「絶対命令」よりかはマシだろう。


「デートだと思われたくないからな。それに一人より二人の方が良いだろ?」

「だったら、せめてイヴちゃんに……」

「それじゃあ、デート感覚が抜けないだろ」


そういう訳で、休みの日の外出はベルだけでなく、リリアかミズキを同行させてる。

ちなみにミズキは金で釣る事は出来ないので、

もっとゲスな条件で、同行させているが、詳しくは記さない。

ただし「絶対命令」ではないのであしからず。


 そして、ある休日、ベルとミズキで行動を共にしていたが


「何で、私はこんな髪形をしなければいけないのですか?」


いま彼女は、ポニーテールの髪型をしている。

外出の時に、この髪型をするように「絶対命令」を使った。

この前、ルイズが家に来て以来、外で審問官が彼女の見かけたことを考えて、

この様にした。彼女は、普段はストレートだが、

ポニーテールにすると印象が、大きく変わるからだ。

あと俺が、ポニーテール萌えと言う事もある。


「その姿なら、知り合いとばったり会ったって、分からないだろう」


ちなみにメイド姿と言うだけでも、だいぶ雰囲気が変わるが。


 彼女は、鼻で笑いつつも、


「小手先ですね」


そんな事は、俺自身、分かっていた。


「そんな事をしなくても、認識阻害の魔法を使ってます」


その手の魔法は、既に存在するが、多くは姿を見せなくするというもの、

彼女のは、既存の魔法を基に根源分析を使って生み出した彼女専用の魔法だという。

根源分析は、「絶対命令」で多用出来ないようにしているが、

今回は、許容範囲になるらしい。


 そして彼女の、認識阻害の魔法は、他のとは違い、彼女の姿は見えている。

だが、どこの誰かが認識できないというもの。

例えば、彼女の手配書と彼女自身が、並んでいたとする。

そして、この魔法を使えば、彼女自身を手配書の人間だと認識できない。

また彼女の知り合いが、彼女を見たとしても、

彼女がミズキ・ラジエルとしてみることができない。


 彼女は、この前、審問官が来たことをきっかけに、この魔法を作ったという。


「もちろん、貴方の為じゃないですよ。私が審問官に見つかった時や、

教団の信者たちに、この姿を見せられないからです」


ただし、俺と他の契約者、つまりベルやリリアには、効かないらしい。

あと、大魔導士クラスも聞かないかもという事で、

雨宮にも効かない可能性があるという。


「とにかく、この髪型をやめたいのですが」


と彼女は言う。彼女がこの髪型を嫌うのは、リリアがポニーテールである事。

要は、彼女とおそろいなのが、我慢ならないという事だ。


 俺は、ポニーテールが好きなのと、彼女が嫌がってるなら、

それはそれでいいと思い。


「当分はそのままでな」


と言うと、彼女は悔しそうな顔をした。一方ベルは


「私は、転生石の影響でしょうか。髪型を変えようとしても、

変えられないんですよね。出来る事なら私もポニーテールにしたいのですが」


とこっちも悔しそうにした。ベルの転生石の願いは、ゲームキャラでの復活だから、

その姿での固定だと思われる。


 俺が一人でいる事が少ない所為か、クラウによれば、

奴は近くまで来ることはあっても、複数人だと分が悪いと思っているのか、

直ぐに、どこかに行ってしまうらしい。とにかく襲撃はないが、

諦めては無いようだった。


(諦めてくれないだろうな)


と俺は思う。ただクラウが、奴が来ることを、

かなり遠い場所から、感知できるという事は、

もしかしたら、ナナシの関与はないのかもしれない。

あの村での、襲撃の際は、奴の力で、

近くに来るまで気づかなかったのだから。


 俺の方は、特に何もない状況は続いているが、

強盗事件は、続いていた。町では話題で嫌でも耳に入って来る。

被害者が上位の冒険者や、大きな商会。どちらも、金品が盗まれているから、

確実に金目当てである。

商会はもちろんの事、上位の冒険者も、金を持っているからだ。


 そしてinterwineに行って、食事をしながら、

雨宮と話してる時も、強盗の話題となった。雨宮によれば、


「犯人の目星は、未だにつかないらしい。犯行も夜だからな。

ただ、寝ている人間を殺すという事まではしないようだ」


以前の、商会の時、子供たちが無事だったのは、寝てたから、

その後の上位冒険者の場合は、冒険者が殺されはしたが、

家族は無事であった。冒険者以外、全員寝ていたからだ。


「死人が出た場合は、殺され方が特殊だから、同一人物となるが

もし、死人が出なかった場合。つまり家人が気づかなかった場合は

ただの窃盗となるから、もしかしたら被害はもっと多いのかもな」


ここまで、話を聞いて、ふと思った事があった。


「どうでもいい事だけど、犯人は集めた金、どうしてるんだろ?」

「ため込んでるか。もしかしたパアっと使っているか。

まあ、衛兵たちもそっちの線で捜査してるみたいだけど」


強盗の件は俺にとっては、無関係な世間話的な物だが、

雨宮にとっては相談を受けた以上、関係ないとは言えないようだった。


 しかし、この強盗の件に俺は関わる事になるのだ。

丁度、この話をした直後、店を出て、帰路についた。

この時は、ベルとリリアと一緒である。

家に帰る途中で、ルミナ・ローランドを見かけた。

ふと気になった俺は、離れた位置にいたので、

クラウの刃を少しだけ出して、彼女の事を確認する。


《相当追い詰められてますね。よっぽど後悔している事があるようです》


「借用の儀」の事もあるから、どうも彼女の事が気になってしまった。


 翌日、俺はベルとミズキと一緒に、彼女の息子の墓に向かった。

借用の儀で得られた情報に、息子の墓の場所の事が載っていた。

墓参りに行くわけじゃない。息子の名前を確認したかったのだ。

情報には、墓の事は載っていて、名前は載っていない。

雨宮が常連客から、話を聞いた際に名前も聞いていたみたいだが

明らかにニックネームのようだった。


 なぜ名前を知りたいかと言うと、ルミナさんに接触する際に

息子の知り合いを名乗るつもりだったからだ。

ニックネームでもいいかもしれないが、やはり本名を知っとくべきと

思ったからだ。そして、お墓を見つけて、名前を確認する。


「ラインハルト・ローランドか……」


雨宮が聞いた名前も「ライ君」だった。


 名前も確認したし、墓から立ち去ろうとする。


《マスター、ちょっと待ってください。少しでいいですから、

鞘を抜いてくれませんか》

「どうかしたのか?」

《少し気になる事が》


そして、クラウを僅かに抜くと、


《やっぱり……》

「どうしたんだ?」

《マスター、お墓の下に死体がありません》

「「えっ?」」


俺と、側に居たベルが声を上げる。

《しかも掘り返した痕跡もあります》

「どういう事だ?」

《誰かが死体を持ち去ったとしか思えませんが》


息子の復活を望んでいたルミナさん、そして息子の死体が消える。

そして、後悔している彼女、ルドの一件もあって、

俺の中で、ある仮説が思いついていた。

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