3「復讐者襲来」

 襲い掛かって来る白い仮面の女。相手の動きは素早く、

一応「習得」に身を任せているおかげで、上手く避ける事が出来たが、

クラウの言う通り中々の手練れである為、ギリギリと言う感じ。


(コイツは、あの村の関係者なのか……)


しかし、俺の事を知っている村人は、サモンドールと運命を共にした。

生き残ったのは、関係のない子供たちと、ランドルフさんだけだが、

あの人が、刺客を送って来るとは思えない。


 そして俺は、剣を振るうが、向こうもナイフで応戦する。

リーチに差があり、こっちの方が有利の筈だが、

向こうのナイフ捌きなかなか上手く、互角の戦いとなった。

そんな中で、俺は思った。


(でも、あの村の事なのか)


相手は村とだけしか言わないから、仕事で、色んな村に関わっているから、

必ずしも、悪魔崇拝のあの村とは限らない。

ただ、恨みを買うような事をした村は、あそこしかない。

でも、先も述べたが恨みを抱きそうな奴は、全滅したはずだ。


「白騎士、お前がサタニキアを倒したから、俺は、すべてを失った!」


と恨み節を言って来る。俺がサタニキアを倒すところは、

第三者には見られてないはずだが、白騎士と言ってる所から、儀式の現場にいた事になる。第三者に見られたとしたら、あの時しかないのだから。


《私は、宝物庫から出た際に、瞬時に、あの場にいた人間の気配を覚えましたけど、

その中に、この人の気配はありませんでしたよ》


とクラウは言う。


 ここで一旦、間合いを取り、


「お前は誰だ?」


と聞く。もしあの場にいたとしたら、サタニキアの崇拝者であるから、

サタニキアと運命を共にしたはずだ。


「うるせぇ!俺はもう、俺じゃあなくなった」


と叫ぶだけで答えてはくれない。


「どういう事だ!」

「黙れ!」


と叫びながら、また飛びかかって来て、俺も応戦し、その後も戦いを続ける。


 お互い互角に渡り合うが、決定打がなく、膠着状態になる。

後で思えば、剣で戦うよりも、ぶん殴った方が、意外と早いと思うのだが、「習得」の影響なのか、そこまで頭が回らず、この状態が続いた所為か、


「紫電一閃!」


勝手に奥義が出た。敵にダメージを与えられなかったが、

のナイフが吹き飛び、更に、衝撃で仮面が取れた。

仮面の下は、若い女で何処かで見た顔であったが思い出せない。


(村人の一人だったか?)


あの儀式の場で顔を見ていたんだろうが、村人Aみたいな感じで、

対して気にも留めてない存在。


(物語ならモブ的な存在だったのだろうか)


 しかし、俺がサタニキアを倒した事を責めたと言う事は、

サタニキアの崇拝者と言う事になるが、先も述べた通り、サタニキアの崇拝者なら、

サタニキアと運命を共にしたはず、


「お前は一体、誰だ。つーか、何で生きている!」

「うるせぇ!」


と叫び、右の拳を振りかざしながら向かって来たが、


「何!」


その拳が、岩のような物に変化した。

俺は敵の攻撃を回避し間合いを取るが、相手は勢い余って、

地面にそれを叩きつけ、クレーターのような物が出来る。


「この力は使いたくなかったぜ……」

「何だその腕」

《あれは、ナチュラゴーレムの腕です》




「ナチュラゴーレム」

前進を岩のように見える硬い殻で覆った人型魔獣。

見た目が魔法により作られる動く土人形ゴーレムに似ているので

そう呼ばれている。




しかし、なぜ彼女の手が、その魔獣の手になったのか、


《彼女は擬獣人で、部分的な変身だと思いますが……》


との事だったが、この後、彼女はこっちの方を向き、

今度は左拳を振りかざし、襲って来るが、そっちは毛深くムキムキの腕に変わる。


「!」


こっちも避けたが、さっきと同じく、勢い余って、

彼女は地面にたたきつけ、クレーターのような物が出来る。


「避けんじゃねぇ!」


と彼女は声を上げた。


 一方、クラウは、驚いたように


《あれは、ミノタウロスの腕です!》

「じゃあ、アイツは『捕食』を持ってるのか?」

《いえ『捕食』の気配は感じません。複数の魔獣の姿に変身できる

擬獣人としか、思えません》

「それってまさか!」


俺は、アイツに向かって言った。


「お前が、冒険者や商会を襲った強盗か!」


しかし帰って来たのは、


「はぁ、何の話だ?」

「だから、お前が冒険者の家や商会を襲った強盗かって聞いてるんだ!」


だが彼女の返答は、


「強盗?そんなのしてねぇよ、俺の狙いはお前だけだ!」


と言って襲って来る。


《彼女は、嘘は言ってません》


つまり、例の強盗ではないらしい。


 ここで再び、右拳即ち、ナチュラゴーレムの腕による攻撃を一旦避けると、


「ちょこまかしやがって!」


するとローブの下から、複数の木の枝のような物が伸びて来た。


《あれは、エビルフォレストの枝です》


それは、俺に巻き付いてきたが、自動調整で腕力が強化されていて


「ふん!」


と引きちぎり、そして、引き続き襲い掛かってくる枝を、剣で片っ端から切り裂き、


「ミサキ切り!」


自然と出た奥義で、一気にズタズタにする。しかし、服の下から、

枝が飛びだしてきたので、思わず。


「お前、その下、どんな体してんだ!」


すると奴は


「お前と一緒だよ……」

「えっ?」

「俺も、お前と同じアシンにされたんだよ!」


この言葉と、先の「俺は俺じゃなくなった」という言葉から、

何者かによってアシン体を変えられた。と言うか、

複数の魔獣の力を使うのも、元々のものではなく、

何者かによって、押し付けられた力と言う事になる。



 奴は、その後も


「お前の所為だ!」


と言いながら、ゴーレムの腕か、ミノタウロスの腕で、襲い掛かってくる。

俺は、思わず武器をトールに切り替え、応戦する。

ゴーレムの腕、又はミノタウロスの腕が、巨大なハンマーとぶつかる。


[こいつは、強いっすね。でもご主人、負けないっすよ]


ここからは、ハンマーでの打ち合いとなる。

自動調整で防御力は強化されてはいるものの、パンチは結構重く感じた。

そして、ミノタウロスの腕が攻撃してきた時。それに合わせて


「雷撃滅煌打!」


とハンマーに雷を宿し叩きつける技で、自然と出た奥義だったが、


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!」


と奴は悲鳴を上げる。どうやら効果は抜群の様だ。


「ふざけやがって!」


 奴は怒号を上げ、ゴーレムの腕で襲い掛かってくる。

俺は、少し前に、クラウからナチュラゴーレムへの対処法を、

聞いていた。その所為か、勝手に、その技が出る。


「烈火滅煌打!」


炎を宿したハンマーでぶん殴る。


「グッ……」


少し苦しそうな表情を見せるが、


「この程度で!」


再びゴーレムの腕を打ち付けてくる。先に俺が使った奥義があってか、

警戒して、ミノタウロスの腕は使ってこない。


 そして次に俺は


「氷牙滅煌打!」


今度は、冷気を纏ったハンマーで殴りつける。これも勝手に出た技だ。


「!」


奴はゴーレムの腕で、受け止める。わずかに苦しそうな表情を浮かべるが、


「まだまだぁ!」


どうやら、敵はまだ余裕の様だ。


 この後も、烈火滅煌打と氷牙滅煌打を交互に使い続ける。

やがて、ゴーレムの腕にひびが入って来た。


「なにが……」


どうやら奴は、ナチュラゴーレムの弱点を知らないようだった。

まあ俺も、ついさっきクラウに聞くまで知らなかったけど、

その後も、烈火滅煌打と氷牙滅煌打を交互に繰り出しつつ、

遂に、表面が割れ、筋肉のような物がむき出しとなった。


「なんだと!」


と奴は声を上げる。そこに俺は、


「雷撃滅煌打!」


と一撃食らわせた。


「ギャアアアアアアアアアアアアアアアア!」


と奴は悲鳴を上げた。


 なおここまでの闘いは、俺にとっては無意識と言うか、

勝手に出たような感じ、ただクラウから、ナチュラゴーレムの対処法、

正確には、その殻を破壊する方法、

それは鉄の焼入れの如く、熱した後、冷却する事、

こうすれば、殻がもろくなって砕け、

大ダメージを与えられるという話を聞いたので、

その影響でこうなったものと思われる。


 かなりのダメージを与えたが、奴はまだ戦えるようで、怒りに満ちた顔で


「クソが!」


と声を上げた。だが俺は、その時の顔に


「えっ……」


ある人物の顔が重なり思わず、


「お前ルドか?村長の孫の」


と俺が言うと、怖い顔をしているが、意外だというような感じで、


「よくわかったな……」


と言った。


《えっ!》


とクラウの驚いた声がする。同時に、


〔やっぱりねぇ〕


とミニアが言った。また女の勘だろう。そしてクラウが、


《そんな馬鹿な、確かに似ているところはありましたが、完全に別人の気配ですよ》


と言っている。そして俺は、先と同じことを聞く。


「お前、どうして生きてるんだ?」


さっきは、どこの誰だか分らなかったが、分かってみると、

謎は深まる。ルドは顔色が悪かったから、間違いなく、

サタニキアと運命を共にしたはずだ。


「赤い髪の女に助けてもらったのさ。そして魔獣どもの力を得た。

まあ体がアシンになっちまったがな」


赤い髪と言えば、


「斬撃の魔女か?」

「誰だそいつ?」


ルドは、斬撃の魔女の事は知らないようだ。


「そいつは、オッドアイじゃなかったか?」


なおオッドアイと言う言葉は、この世界でも通じるが、


「わかんねえな。目に仮面を付けてたからな」


斬撃の魔女もバイザーみたいなものを付けていた。


「あの女が何者かは、どうでもいい。大切なのは、テメェへの復讐だ!」


と言って、俺を睨みつけて来る。


 また何か手を打ってくると、警戒していると


「うわああああああ!」


という声と共に、どういう訳かリリアとミズキが現れた。

しかも少々高い位置なので、落下して尻餅をついていた。

恐らく、リリアの転移なのだが、何でかミズキも一緒なのである。


「全く、やい無能、テメエの所為で変な所に飛んじまったじゃねぇか!」

「だから、もう無能じゃないって言ってるでしょう!」


と口喧嘩を始め、この場の雰囲気が、おかしくなっていく。


「お前ら何やってるんだ?」


するとミズキが、


「ちょっと聞いてくださいよ。彼女ったら掃除サボるんですよ」


するとリリアが、


「だってよお、使い魔、二人も手伝わせてるんだぜ。

アタシの手を借りる必要は無いだろうが」


ちなみに使い魔と言うのは、ミラーカとラウラである。

そしてリリアは、部屋を抜け出そうとしたらミズキに捕まって、

無理に転移で逃げようとして、揃ってここに転移してしまったらしい。

以前の時もそうだが、慌てて転移すると、俺の元に飛ばされると言う。


 ここで


「ウグっ!」

「何だか知らねえけど、お前の関係者みたいだな」


リリアは、ルドに捕まった。


「誰だよ、コイツは」

「余計な事はするなよ。コイツの命が惜しいだろ!」


リリアを人質乗ったみたいだが、


「フフフ」


と笑いだすミズキ。


「何が、おかしい!」

「いえ、その子は人質にはなりませんよ。だってその子は不死身ですもの」

「はぁ?冗談言ってんじゃねぇ、この娘殺すぞ!」


するとリリアは、


「こっちこそ、冗談じゃねえ!」


リリアは変身して、拘束を解こうとする。不死身とは言え、痛いのは嫌なのだ。


「うわっ!」


ルドは、変身の際に、吹き飛ばされる。


「アイアンナチュラゴーレムだと!」


ナチュラゴーレムの上位種で、殻が金属並みに硬いらしい。

ちなみに、リリアが生まれながら変身できる魔獣の一つ。


 更に


「和樹さーん!大丈夫ですか!」


遠見で分かったのか、ベルがイヴと共にやって来た。

そして、どんどん人が集まって来たからか。


「くそっ!」


次の瞬間、ルドは落ちていた仮面を拾い顔に付けると、その背中に羽が生えた。


《小さいですがワイバーンの羽です》


「今日はこの辺にしといてやる!」


と負け惜しみに似たような事を言うと、飛翔し、飛び去った。


 ルドが去った後、元の姿に戻ったリリアは


「何だったんだ。アイツは?」

「悪魔を崇めていた村の生き残りだ」


するとベルが、遠見で状況を知ったのか、


「本当に奴が、村長の息子なんですか」


まあ本人が言ってるだけで確証はない。もしナナシが関与してれば

クラウの感知も、当てにはならない。

でも、まだあの村の一件が尾を引いているのは確かな様だった。

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