11「心の闇」

 とにかく、戦いは最初の状態に戻り、楽になった。

その後も、これまで通りの戦い方をしていて、ついに、


《マスター、今なら、必殺技で倒せますよ》


と言われたが、丁度俺は、テンペストパルムで、

再び、サタニキアの足をふき飛ばしたところであった。

それは、尾を引く衝動に駆られての事だった。敵が倒れ、


《チャンスですよ。今のうちに必殺技の準備を》


と言うクラウを無視し、俺は、敵の元に向かい、倒れている体によじ登った。


《マスター……》


クラウの心配そうな声が聞こえたが、俺は聞き流していた。


(剣じゃ、弱いな)


俺は、トールに切り替えた。


[アタシの必殺技、使ってくれるんすか]


必殺技を使う気はなかった。生体タンクには、

あと二回は、使えるだけのストックはあったが、あえて使わない。


(ひと思いに死なせてなるものか)


この時俺の中のどす黒い感情はピークに達していた。

 

 奴の胸のあたりに来たところで、奴の体に、思いっきり振り下ろした。


「グォ!」


と言う悲鳴を上げる。そして俺はその後も叩きつける。


「この!この!この!この!この!」


この時、俺は村人たちが、神と称したこの悪魔を、

嬲り殺しにしたいという衝動に駆られていた。そしてハンマーを振り降ろすたびに、

奴が苦悶の声を上げるたびに、快感のような物を感じた。


「死ね!死ね!死ね!死ね!死ね!」


と自然と声を上げていた。


《マスター落ち着いて!》

<ちょっとアンタ、どうしちゃったのよ!>

[ご主人、怖いっすよ……]


と言う魔装たちの声が聞こえたが、無視した。そんな中ミニアだけは、


〔ああ……サディスティックなご主人様も素敵〕


と言っていた。


 確かに俺は、サディスティックだった。

相手をいたぶって、快感を得ていたのだから、

正気の沙汰じゃない。しかしそんな俺を正気に戻したのは、


「暗……黒神……様……お許しを……」


と言う悪魔の声だった。弱弱しく、許しを請う声。


「気づか……なかった……とは……いえ……このような……無礼を……」


皮肉にも、この声が、俺の中のどす黒い衝動を、吹き飛ばしてしまった。


(何やってるんだよ、俺!)


俺は思わず、悪魔の体から降りて、武器はクラウに切り替え、その場から離れる。


《大丈夫ですか?マスター》

「わかんねぇ……」

〔悪魔は、くたばりそうだけど、一休みする?〕

「ああ……」

<あの状態なら、向こうもすぐには動けないわ>

[元気になったら、止めを刺すっすよ。ご主人]

「止めを刺す……」


この時、俺は思った。


(アイツを倒したら、村人たちは死ぬ……)


もちろん死ぬのは、悪魔に心を売った連中だ。

子供たちや、ランドルフさんには、関係ない。

でも大勢の人間が、死ぬと思うと急に怖くなってきた。

さっきまでは連中の死を望んでいたのに。


 ここで、


「和樹さん!」


ベルがやって来た。イヴの一緒だ。


「どうしてここに……」


彼女の話では、二人はナナシに、この農場の物置に閉じ込められていたらしい。

どうにか、縄を引きちぎって、更にイヴを起こして、

外に出て、俺の姿を見つけたという。


「和樹さんの方は」


俺も事情を説明する。


「やはり、和樹さん生贄にしようとしたんですね。許せない」


その後、倒れているサタニキアの方を見て、


「サタニキアはまだ生きてるようですね。倒してしまいましょう」

「………」

「和樹さん?」

「俺にはできない……」

「どうしたんです?」

「あいつが死ねは、大勢の人間が死ぬ」

「何、言ってるんです。どうせ悪魔に魂を売った連中ですよ。

その上、和樹さんを殺そうとしたんでしょう」

「だけど!」


俺は自然と、声を荒げていた。


「俺にはできない……」

「和樹さん……」


 すると、


「やっぱり、善人はつまらない。いつも寸前で踏みとどまる」


声の方には鎧姿の奴がいた。


「やあ、暗黒神、地味な名前をありがとう」


更にベルが声を上げる。


「コイツですよ。コイツが……」


彼女が言う前に俺は、その名を呼んでいた。


「ナナシ……」


そう、ついに俺は、奴と相まみえたのだ。ここで奴は、サタニキアに手をかざし、


「君がやらないなら、こっちで始末させてもらうよ」

「待て!」


次の瞬間、サタニキアの体がはじけた。そして奴は、笑い声交じりな声で、


「これで悪魔崇拝者共は全滅したねぇ~」

「お前!」


思わず俺は詰め寄っていた。


「何を怒ってるんだい。さっきまで君が望んでいた事じゃないか」

「………!」


俺は何も言えなくなった。


「まあ、その変わり身も、面白くて好きだけどね」

「テメェ!」


俺は、思わず剣を振るっていた。だがヤツは姿を消した。転移だ

そして別の方向から


「早くここから移動した方が良いよ」


その方向を向くとナナシがいて


「結界が消えたら、審問官どもやって来るからね。

奴らが来たら、色々面倒だと思うよ」


ここでベルが、剣で攻撃を仕掛けるが転移で避けられる。


「これからも楽しませてもらうよ。じゃあね」

「待て、ルイズ!」


するとヤツの動きが止まるが、直ぐに、ヤツは消えてしまった。

この反応、どう判断していいか分からない。


 この直後、「周辺把握」が治り、


《感知が戻りました。人が来ます》

「こっちでも確認している」


どうやら奴の言う結界の所為だったらしい。


「どうします?」


奴の言う通り、この状況で、審問官と話をするには面倒な気がするので、


「取り敢えずこの場を離れよう」

「分かりました」


とベルは言い、この場を離れ、村の方には審問官がいるので

避けるために、俺たちは森に入った。

 

 そして森に入り移動していると、魔獣が地中にいる場所に来たのだが


《あの……エビルフォレストが定着期に入ります》

「こんな時にかよ……」


地中から、エビルフォレストが姿を見せた。

もう依頼は破棄されたような物だが、ただこのまま放っても置けず。

結局退治する事に、ベルだけでなく、

戦闘モードのイヴも加わった事で、魔獣はあっさり倒されたが、

倒した際に、物凄い咆哮を上げたため、


《人がこっちに向かってきますよ》


恐らく審問官だろう、直ぐにその場から立ち去る羽目となった。



 その後、適当な場所を探してキャッスルトランクを取り出した。

カオスセイバーⅡでは、場所的に難しかったから、魔獣のいた場所は良かったが、

人が集まって来るからダメだし、置ける場所を探す気力が無かったのである。

取り敢えず俺たちは、中に入って、俺は鎧を脱ごうとして、


「!」


下が裸である事を思い出す。


「どうしました?鎧は脱がれないのですか?」

「今、この下、裸なんだ」

「奴らに脱がされたんですね」


裸にされることは予想していた事だから、着ていたのは、

いつもの服ではなく、「創造」の設計図から新調した同型の服である。

あと貴重品も、全て宝物庫に入れていた。


「別に私は、気にしませんよ」


とは言われたが、俺は気になるので、丁度風呂に入りたかったこともあり、

風呂に向かってから鎧を脱いだ。

キャッスルトランク内の風呂も、露天風呂はないが、大浴場だった。

この時、ここを使えばよかったと思ったが、もう後の祭り。


 湯船に使っていると、


「私もよろしいですか?」


と言ってベルが風呂に入って来たが


「ああ……」


この時は、彼女の事が気にならなかった。

風呂を上がると、そのまま、寝室に向かい、寝た。


 朝、目を覚ますとベルから、


「調子はいかがです?」


と言われた。気分は幾分が楽になっていた。

その後、いつもの服を宝物庫から取り出し、着替えて。

備蓄していた食糧を朝食とした後、このまま、村を去る事にした。

キャッスルトランクを出て、森を抜けて、街道に出たら、

そこからは、カオスセイバーⅡで、移動する。

村の様子は、確認するつもりはなかった。正直怖かったのだ。



 でもランドルフさんには、会っていくことにした。

俺たちの事を気にかけてくれていたから、無事を伝えたかったのだ。

そのランドルフさんは家の前に座っていて、

気落ちしているように見えた。俺が声を掛けると


「お前ら無事だったのか……」

「ええ、これから、帰るつもりです。あと魔獣は倒しました」

「そうか……」


しかし、ランドルフさんの事が気になったので、


「どうか、されたんですか?」

「お前ら、村の事は?」

「見ました……」


もちろん嘘だったが、思わずそう答えていた。


「村の奴らは、悪魔に心を売ったんだ……」


 そして、悪魔と契約するに至る話をする。

既に日記を盗み読んで知っていた事だが、知らぬことにして話しを聞いた。


「儂はこの瞬間を待っていた。村人たちが身を亡ぼす瞬間をな」


なんでも、昨夜、騒ぎを聞きつけて、村に行き、

人々が死ぬ瞬間を見てきたとの事。

そして審問官の簡単な取り調べを受けた後、家に戻ったとの事で、

この後も、審問官から詳しい取り調べがあると言う。


「だが、今思い浮かぶのは、昔の情景だ。悪魔と契約する前の、

いくら大変だったとはいえ、

何でこんな事になってしまったんだろうな。

皆、あの一家が、悪魔との契約で身を亡ぼすのを見ていたのにな」


俺は、その事には何も言えなかった。俺自身理解できない事だから。


 あと気になる事は、


「この後、子供たちは?」

「審問官たちが一旦保護して、引き取り手を探すらしい」

「そうですか……」


この後、審問官が来る前にランドルフさんに、別れを告げ、立ち去った。

その後は、予定通り森を抜け、街道に出たあたりで、

宝物庫から車を取り出し、それに乗って、ナアザの街に戻った。

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