9「悪魔の降臨」

 一旦宿に戻ると、キャッスルトランクを取り出し、

その中で、下準備をした。宿の部屋とは言え、

見られている可能性があるからだ。そして準備を終えた俺は、

装備を整え、二人を宿に残して、一人出かけた。奴らを誘き寄せるためだ。


 儀式を滅茶苦茶にしてやると意気込んだものの、不安な事はあった。

先ず、雨宮に連絡が取れない事である。森から戻る際に

ベルから、何処か悔し気に、


「雨宮君に連絡して、相談した方が……」


と言われ、それもそうだなと思い、例の携帯で連絡を入れたものの

通じなかったのである。


《通信障害でしょうか》


何だかの理由で、スキル「通信」が使えないと言う事はあるらしい。

ただ、イヴとの連絡は付く事は確認できたので、

遠距離の連絡が付かないと言う事らしい。

とにかく雨宮と連絡が付かないわけだから、アイツに相談する事もできない。


 そしてもう一つの懸案事項は、ナナシの存在。

奴がこの件に、関わってるとして、動機は、言うまでもなく遊びなんだろう。

目的も、おおかた俺に対する嫌がらせだろう。

多分、俺が、サモンドールと関わった事を知って、軽い感じで思いついたんだろう。

俺は大十字絡みで、遊びでとんでもない悪事を、犯す奴を何人か見てきた。

ヤツも、そんな感じなんだろう。


 しかし、油断ならない相手ではある。だから気を付けなければいけないのと、


(やはり、ルイズなのだろうか)


ルイズは、審問官故に、サモンドールと関わった事を知っている。

ただ、あの現場には大勢人が居たから、俺が人形を手にしている姿は、

大勢の人が見ているし、衛兵に話してるから、

そっちの方面にも知っている人間は多いから、

それだけで彼女と思うのは、早計だろうが。


(それに、俺が、サモンドールと関わったからとも限らないし)


 村を歩いてみて思ったが、大人たちの顔色こそ悪いが

村は活気があって平和だった。その平和も終わりかも知れない。

なお契約しているのは村だからと言って、村人は何も知らない訳じゃない。

日記にも、賛同したというし、それ以前に顔色の悪さだ。


 クラウによると、顔色の悪さ恩恵の代償。しかし恩恵を受けるには、

大人である事と、全てを知って受け入れる事。

ランドルフさんは、村と距離を取っただけでなく、受け入れなかったから、

問題が無いのである。つまりこの村の大人たちは、全てを知って、受け入れている。

即ち、悪魔と心中が決定している。


(でも子供たちが……)


 村で楽しそうに遊ぶ子供たちの姿が目に付いた。

俺がやろうとしている事は、この子達から親を奪う事かも知れない。

ただ日記にあった通り、子供たちが穢れていくことは、

避けねばならない。長い目で見れば、

それが、子供たちの幸せにつながるのだから。


(それに俺が手を下さなくても、審問官が来れば、結果は同じだ)


この時の俺は、どす黒い感情に支配されていた。

ある意味、闇落ちしていたのかも、そしてこの瞬間だけ

ミズキの望む暗黒神となっていたのかもしれない。


 しかし村をうろついても、特に動きは無かった。

その代わりなのか、宿にもどると、二人の姿が無かった。

部屋が荒らされたような感じが無かったから、

ちょっと出かけただけなのかとも思って、待ってみたが、帰ってくる気配はなく、

通信でイヴに連絡を試みるが、返事はない。


(まさか拉致されたのか?)


しかし彼女たちは、生贄の要件は満たしてはいない。

イヴに至っては自動人形だし、村人たちも知っている。


(人質にして俺を呼び寄せるつもりなのか、そんな事をしなくても、

行ってやったけどな)


まあ、二人とも契約の関係で不老不死だから、大丈夫だとは思うが、

でも通信スキルが使えないからイヴの方が気になった。

先も述べたが、彼女と連絡が付くのは、確認済み。

それが急に出来なくなったのは、イヴの身に、何か起きてると言う事。

まあ通信障害が、酷くなったと言う事もあるが、

名前は忘れたけど、自動人形を眠らせるマジックアイテムを使った可能性がある。


(とにかく、動き出したと言う事だな。来るなら来い。その時が、お前らの最後だ)


俺はどす黒い衝動にかられながら、そんな事を思った。






 物置の様な場所でベルは目を覚ました。


「ここは?宿の部屋にいた筈なのに……」


体はロープのような物で拘束されている。

周りを見渡すと、イヴの姿があった。彼女は、機能を停止しているようだが、

彼女は拘束されてはいなかった。


「イヴちゃん!」


と呼びかけるベル。そこに、


「やあ、目が覚めたかい?」

「お前は!」

「久しぶりだねベルちゃん」


そこにいるのは鎧姿の冒険者。


「ナナシ……」

「何だいそれ?」

「和樹さんが付けたアンタの名前ですよ」

「へぇ~、他に誰かその名で呼んでる?」

「ジャンヌさんも、雨宮君も使ってるわ」

「アマミヤ?クロニクル卿の事か、契約者や光明神はともかく

彼が使ったとなれば確定だな。」


神々の名前は、神とその契約者が言っている場合は、確定ではない。

しかし神と契約していない人間が、使って初めて正式名称となる

つまり、雨宮ショウが使った段階で、ナナシと名が確定したのだ。


 ベルはナナシを睨みつけながら、


「よくも騙したわね!」


しかしナナシは悪びれる様子もなく。


「でも結果として愛しの彼と契約と出来たんだから、良かったじゃないか」

「良くないわ、私は彼にあんなひどい事を」


そしてナナシは、


「君と暗黒神をぶつけたら、どうなるか見て見たかった。

まあ気まぐれで渡した復活アイテムの所為で、こんな結果になる事は

予想できなかったけど」


と何処か楽しげに言い。


「そうそう、君たちの仲違いは、ジムの願いでもあるよ」

「ジム・ブレイド……」

「そうだよ、君の事を話したら、君と暗黒神が繋がる事を危惧してね

まあ、結局、彼にとって最悪な結末になったけど

こっちとしては、楽しいけどね。予想外な展開ってのはね」


と言って笑い声をあげた。


 ナナシの話し方、笑い声に苛立ちを感じつつも、ベルは問う。


「アンタの目的はなんなんです?」

「ただの、お遊びさ、なんせジムが、最近相手をしてくれなくてさあ

君たちが、魔装軍団を潰したせいだよ。アレで忙しくなっちゃって、

おかげでこっちは暇してて、さあ」


つまりはただの暇つぶしなのだ。


「暗黒神が、サモンドールと接触したのを知って、思いついたのさ。

あのサモンドールが、この村の物だって知ってたからね。

まあ自分が、ここに持ち込んだからだけど」

「じゃあ、アンタが元凶」

「最初に、滅びた一家に関しては、そう言われても仕方ないけど、

この村に関しては違うよ。こっちは何もしていない。連中が勝手に手を出したのさ」


そしてナナシは、


「滑稽だねえ、その危険性を目の当たりにしたにもかかわらず、

契約しちゃうんだから」


と言って笑う。


ベルは余計に苛立つも、さらに問う。


「私たちをどうするつもりです」

「なに、君らがいると、あっさりと事が解決しすぎて、

面白くないからね。事が終わるまで、大人しくしてもらおうと思ってね」


ナナシは、二人を拉致し、ベルを特製のロープで拘束。

イヴを、マジックドール・スリーパーで眠らせた。

そう持ってないというのは嘘であった。


「まあ、そのロープは、君の力なら、そのうち解けるよ。

まあその時には事は終わってるだろうけどね。」


兜の下で笑ってる様なので、苛立ちを覚えつつも、

ロープをどうにかしようと藻掻く。

ベルの目の前に、マジックドール・スリーパーを置き


「これを停止させたら、イヴちゃんは目を覚ますから」


と言った後


「それじゃあ、頑張ってね」


と言ってナナシは出ていこうとするが、ベルは


「ルイズ・サーファー!」


と呼びかけると、ナナシは、立ち止まる。


「貴女、ルイズ・サーファーではありませんか?」


だがナナシは何も言わずに出ていった。






 夕方、宿にいると、使いの者はやって来た。

食事をしながら現状を話してほしいとの事で、村長の家に呼ばれた。

いよいよ来たかと思った。

さて村長宅で、使用人に武器を預け、食堂に案内される。

村長代理の小太りの男が居て、


「お連れの方は?」


と聞かれたので、


「急にいなくなったんですよ。それで困ってるんです」

「それは、大変ですねえ」


俺は、白々しいと思いながらも、食事の席に着く。そして状況を聞かれ、


「まだ魔獣の動きはありません。いつ動き出してもおかしくないのですが

動きださなければ、こちらも対処できませんし。」


「そうですか、冷めないうちのどうぞ」


と料理を勧めるが、どうも食べる気にはなれない


「すいません、食欲が無くて……」


と言うと、


「ワインはいかがです」

「酒は飲めないので」


と言って断り、ふと俺は思い立って揺さぶりをかける。


「サモンドールはどこです」

「何の話ですか……」


男は、あからさまに動揺した。

更に揺さぶりをかける


「サタニキアのサモンドールですよ。どこなんです?」


次の瞬間、首筋に何かが刺さるような痛みがして、

そして意識が遠のき始めた。そして朦朧とする中。筒の様な物を持った

鎧姿の奴を見た


「吹き矢……ナナシ……」


実際に会ったことは無いが、鎧姿だったからそんな事を口にしていた。

まあ能力調整下とは言え、暗黒神を昏倒させることができるのは、

同じ神であるナナシくらいだろうか。そして俺は、意識を失った。


 気が付くと、周りが騒がしかった。意識がはっきりしてくると

ここが洞窟なのが分かった。そして体が柱のような物に縛り付けられている。

前方には、祭壇の様な物があって、あのサモンドールが置かれていて、

病気で倒れた筈の村長が呪文のような物を唱えながら、祈りを捧げていた。

どうやらあの話は嘘だったようだ。あとルドもいる。


「!」


ここで俺は、自分が全裸である事に気づいた。

まあ予想できたことだ、生贄を裸にするのはよくある話だから。

それでも疑問が残るが。


 そして村長が、こっちを向いた。


「おや、目を覚まされましたか?」


その顔には、邪悪な笑みを浮かべていた。かつての刃条やミズキと同じだ。


「苦しくはありません一瞬で済みますから」


と言った後、俺の体をまじまじと見つめ、


「しかしもったいないですなあ、美しいお体なのに」


舌なめずりした。


「気持ち悪いぜ。このエロジジイ!

つーか!一々裸にする必要あるのかよハゲ!」


エロかハゲか分からないが、村長は気にしているのか、


「うるさい!これよりサタニキア様の生贄になる貴女には、関係のない事だ!」


顔を真っ赤にしてきつい口調で言った。


 この直後、サモンドールが怪しげな光と共に靄の様な物を吐きだし始めた。

そして村長は像の方を向き


「おぉ!」


と声を上げた。同じような声が、周りから聞こえる。

俺のいる位置からは、分からないが周囲には村人たちもいるのだろう。

さて吐き出された靄は、塊となる。


「我等の神の降臨だ」


と叫び跪く村長。


(神じゃなくて悪魔だろうが)


やがて、塊は、徐々に形を変えていき、サモンドールと同じデザインの、

ヤギの頭に、黒い羽根の人型の魔物が現れる。

ソイツは姿を見せると、言葉を発した


「我はサタニキア」


すると村長は、狂気的な笑みを浮かべながら


「サタニキア様、この度は、アシンの生贄を用意いたしました。

お納めください!そして我らに、さらなるご加護を!」

「ウム……」


と言ってその魔物、即ちサタニキアがこっちを向いた。


 丁度その時だった。


「大変だぁ!」


一人の男が駆け込んできた。


「儀式の最中だぞ。何事だ!」


と一喝する村長であるが、その男は


「審問官が、乗り込んで来たんです!」


村長は


「なに!」


と声を上げた。


(妙なタイミングだな)


と思いつつも、迫るサタニキアを前にして、

俺は体に、力を入れロープを引きちぎった。

そう、俺の体は自動調整で、いつでも引きちぎれたのだ。

まあ、拘束されることは予想していたから、手は考えていたが

力任せで行けるとは思わなかった。


「何だと!」


とサタニキアが声を上げ、村長もこっちの様子に気づき


「なっ!」


と声を上げた。


 俺は、宝物庫から、白銀騎士の鎧をブレスレット形体で

取り出し、ブレスレットは自動的に着用されて、その状態で鎧を着た。

審問官が来たから、見られた時の事を考え、こっちを選んだのだが


「白騎士だと!」


と驚愕したような声を上げる村長。どうやら勘違いしている様子。


 更に俺は、宝物庫から、クラウを取り出した。

実は、敵に装備が没収されることは予想がついたから。

クラウや鎧を、宝物庫に仕舞っていたのだ。

館で預けた武器は、ベルが回収し、収納空間に、

入れっぱなしだった魔装の残骸の一部を貰い。

相手を油断させるために、創造で作った偽物である。

残骸をベースにした分、楽に作れた。因みにただの剣である。


 剣を抜き、サタニキアと対峙する俺


《気を付けてください。サタニキアの力は強大です。

まあ本気を出さぬとも、対応は可能ですが》


俺自身も強くて不快な気配を感じていた。そしてサタニキアは言った


「我と戦うか、イイだろう。貴様を殺し、その魂をくらってやる!」

「やれるものならやって見ろよ!」


と俺は叫んで、戦闘を開始した。

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