13「後始末と魔装たちの夜」

 念のため、気絶しているザコたちを鳥もちで拘束した。


「後は……」


町にはまだザコが残っているので、そいつらの相手もしなけりゃいけない。

するとここで、拘束されているシルヴァンは


「俺を捕まえたからって、いい気になるなよ。」


ホント、最初の時の紳士的な口調は、何処へやらな感じの粗暴な口調で、


「お前らと戦う前に、三人の仲間たちに、連絡を入れてるんだ

そいつらは、もう直ぐ此処に来る。奴らが、お前らを血祭りにしてくれる」


それを聞いた俺は、思わず、


「はぁ?」


と声を上げてしまった。


「ハッタリじゃないぞ、通信で、連絡したんだ」


とご丁寧に説明もしてくれた。俺は、ふと思い立って聞いてみた。


「なあ、連絡した際に、返事はあったか?」

「何を言って」

「どうなんだ?」


と俺が言うと、


「一方的に呼びかけただけだ。返事は聞いてない」

「そりゃそうだろうな、槍使いのシュウヴィオ、剣士のジークハルト、

射手のレベッカだったか?」


三人の名前を出すと、相手は驚いたように、


「何で三人の事を、まさか……」

「三人とも、お前と同じ状況だよ」

「そんな、バカな……」


と言ってシルヴァンは、悔しそうな顔をした。


 この直後だった。鳥もちからはみ出ている奴の手に、

見た事のあるものが浮かび上がったのは、


「これは、生贄の印!」

「そんな、何で俺に!」


向こうも、何も知らないのか、驚いた顔をする。


「和樹さん。上……」


とベルの声で、上を向くと、またあの魔法陣があった。

洞窟の一件の時に見た魔法陣である。


(結局、また、こうなるのか……)


この魔方陣を止める術は、俺にはない。生かしてはおいたが、

結局、無意味になりそうだった。


 だがここで、ベルが片手を上に向けて、呪文を唱えた。


「ベル?」


次の瞬間、彼女の手から、一筋の光が放たれ、それは魔方陣に命中し、

そして魔法陣は、崩れるように消えていった。


「言ったでしょ、私なら、あの魔法をどうにか出来るって」


とベルが言った後、


「まあ、私は、こんな奴らどうなっても、いいんですが、

和樹さんの想いを無駄には、したくなかったですから」


そして、シルヴァンは、


「ジムの奴、まさか俺にまで生贄の印を」


と怒りに満ちた声でいった。


「ジムって、ジム・ブレイドの事か?」

「そうだよ。奴が……」


この後、シルヴァンが、怒りに任せて、話を始めた。

それによると、ジムが、軍団の設立者との事、

奴はフライクーゲルの事を知っているから、その名が出た時から、

もしかしてとは思っていた。なおミョルニルを含め、魔装は奴が、

どこからか調達して来たもの。そして俺たちとの戦いで、

使っていた変化する魔装や、人型も奴が転移で送って来たもの。


 あと、ザコたちには、生贄の印が刻まれていて、死と同時に発動し、

その身が、暗黒神の生贄となるとの事だが、まさか自分にまで、刻まれているとは、

思いもしなかったとの事、「生贄の印」が殺されたザコ共の死体が、

無かった理由であるが、


(生贄って、何も貰ってないぞ)


ふとそんな事を、思ってしまったが、生贄は、暗黒神ではなく、

ジムの手に落ちたんだろう。洞窟の連中や、アステリオスの炉心の様に。


 ここで、思い立って聞いた。


「何で、この町を狙った?」

「この町が、審問官と所縁があるからさ。」


この町は、多くの審問官に排出していて、

引退後、女将さんの様にこの地で余生を送る審問官たちも多い。

故に、この町は、暗黒教団の襲撃が多い町の一つで、

今回の、襲撃も、いつもの事と言ったところ。


「言っとくが、手薄を狙ったわけじゃないからな」


やってきたら、丁度、手薄な状態だった。つまりは幸運と言う事である。


 話を聞いて、もう聞くことは無いと思った俺は、ベルに、

さっきと同じ様に、銃撃で、傷だらけのなったこの場の修復を頼み、

彼女は、快く引き受けてくれ、それが終わると、その場を離れ、

残りのザコを倒しに、行こうとした。ここで、


「これで勝ったと思うなよ。暗黒神様は、既に降臨された。

いずれお前たちは、暗黒神様に滅ぼされるのだ!」


とシルヴァンは負け惜しみを言ったが、この言葉に、ついに限界が来て、

つい吹き出してしまい。


「何が可笑しい!」


と奴は怒号を上げるが、


「だってさあ……」


思わず俺は、自分の正体を明かしそうになったが、そこは堪えた。


「笑ってられるのも今の内だぞ!」


とも言われたが、その言葉が余計に、滑稽で、ますます笑いが止まらなかった。


「何なんだよ。お前……」


奴は、困惑しているようだったが、俺は落ち着きを取り戻した後、

そんな奴を尻目に、その場を離れた。残されたザコの掃討を行った。


 さて、「分身」を使うと、二丁拳銃だから、弾数も二倍になるが、

代わりに、使える弾丸が制限される。だが鳥もちは使えた。

そして鳥もちの弾数が二倍なった影響で、弾切れの心配がなくなり

ザコたちを倒しては、鳥もちで拘束していき、

「周辺把握」のお陰で、敵を逃がす事も無い。


「これで良し……」


ザコは、全員片付けた。魔装は破壊し、例によってベルが残骸を回収した。


(さてと、女将さんに、終わった事を伝えようか……)


ちょうどその時だった。「周辺把握」で、その女将さんが、

外に出てきたのを確認した。多分、外の状況に気づいて、出てきたのだろうか。


《どうします?》


女将さんは、中ボス共と大ボス、シルヴァンの様子を確認しようとしているのか、

俺たちの足跡を追う様に、動いていた。


 この様子だと、伝えに行く必要は無いと思い、その旨をベルに伝え、


「一旦町を出よう」

「そうしましょう」


お礼はするとは言われたが、気を使わせて悪いし、

それに、色々面倒な気もしたので、「周辺把握」で、

町の外にいる住民達に気づかれない様に、町からでた。


 その後、人気のない場所に移動し、宝物庫からカオスセイバーⅡを取り出して、

ボックスホームで、一休みした後、俺とベルは、普段の格好で様子見の為、

もう一度、町へ向かった。


 町では、女将さんが状況を伝えたのか、住民達が戻っていて、後始末をしていた。

住民たちの会話から、小耳に挟んだが。魔装軍団は、住民達によって、鳥もちごと、

衛兵所の牢屋に、ぶち込まれたらしい。その関係者も同様との事。

勝手にやった事であるが、町に残っていた衛兵が、全滅した以上、

許可も取れないし、かと言って他に、閉じ込めておける場所が無いようなので、

仕方ないとの事だった。


 その後、様子見の為、車を人気のない場所に停め、その日を含めて、

三日ほど過ごした。なぜ三日かと言うと、翌日には冒険者や衛兵が戻って来て、

その次の日に、審問官がやって来て、もう大丈夫と思ったからである。


 翌日、衛兵たちが戻って来て、処理してくれてるからか、

町は、落ち着きを取り戻し始めていた。


「あれ、アンタ、前にウチの宿に泊まってた」


様子見で、ベルと二人で町を歩いていると、バッタリ女将さんと会った。


「お久しぶりです」


昨日、会ったばかりだが、その事には触れなかった。色々面倒な気がしたから。


「いやぁ、大変だったんだよ……」


町が、占拠された事を話してくれた。知ってはいたが、知らぬふりをして、

話を聞く。そこで、女将さんは自分を助けてくれた鎧の人物、まあ俺の事なんだが、

俺がその本人とは気づかず話した。その際に、


「あの人は、間違いなく白騎士様だよ。事が終わったら、

黙っていなくなるところなんか、正にそうだよ」

「白騎士様?」

「知らないのかい?光明神様が遣わす白き騎士様だよ」

「そんな話があるんですか……」


この時、俺は白騎士伝説を知らなかった。その事を、詳しく知るのは、

この少し後である。


「暗黒神が復活したって噂だから、光明神様が遣わせてくれたんだよ」


その後、色々話を聞いた後に、


「また、ウチの宿に泊まっておくれよ」


と言って、女将さんは去って行った。





 

 暗黒教団のとある拠点にて、ジムたちは、鏡の様な物で状況を見ていた。

「遠見」は、妨害されていて映らないので、代わりに、

転送した自動人形から映像を得ている。

この時は丁度、和樹たちが、立ち去った直後、


「木之瀬鈴子……まさか生贄魔法を無力化できるとは」


とジムが驚愕していると、ナナシが、


「どうするもう一回、印を付けに行く?」

「面倒ですから、辞めておきます」


と言った後、


「そもそも、奴と鈴子は、仲違いさせたんじゃないんですか?」

「そうだったんだけど、どうも嘘がバレたみたいで、その上、契約したようだから、君の世界で言う、雨降って地固まるって奴になっちゃって」

「これは、少し厄介ですね」


と言って頭を抱えるジム。


「なに、これまで通り、利用してやればいい事」


とナナシは言った後、


「それにしても、君は奴に取られてばかりだな。色々と」


すると、ジムは不機嫌そうな声で、


「全部取り返して見せますよ……まあ鈴子は、もういりませんが、

まさか、あんなヤバい女だったとは……」


と言った。






 軍団と戦った日の夜、寝室でクラウをミョルニルに切り替え、

じっくりと見ていた。


(大きさはともかく、見た目は普通のハンマーだな)


ただ不気味な紋章が刻まれていたので、ここだけを書き換える事にした。

そんな時、女性の声がした。


[我が名は、魔槌ミョルニル……新たなる主よ。我が力を存分に使うがいい]


とダーインスレイヴだった頃のクラウと似たような話し方だったが、直ぐに


[なーんつって、理想のご主人を前に、もう演技の必要はないっすね]

「それがお前、本来の……」


すると元気のいい声で


[そうっす。これが本来のアタシっすよ]


何というか、体育系の美少女って感じがした。この後、紋章を削除して、

新しい名前を付けた。


「今日からお前は、トールハンマーだ。トールって呼ばしてもらう」


ミョルニルと言えば、北欧神話に出てくる武器で、

刃条はそこから名を取ったのだろうが、トールと言う神様の武器なので、

別名としてトールハンマーとも呼ばれているから、そこから名を取った。


[いい名前っすね、ご主人。気に入ったっすよ]


彼女の声を聞いていると何となくだが、おかっぱ頭で、巨乳で体操服を着ている少女の姿が思い浮かんだ。


[ご主人、これからもよろしくっす]


 とにかく、魔装の処置が終わり、二日後の夜。町に審問官が来たのを見届け、

その晩は一泊し、翌朝、出発する予定で、ボックスホームの寝室で、

早めに寝たのだが、


「あれ?」


気づくと、アパートの自分の部屋にいた。


「さっきまで、ボックスホームにいたはずじゃ……」


直ぐに、


「これは夢か……」


その時、


「そう、これは、マスターの夢の世界です」


とクラウの声がしたが、何かいつもと違う。

声の方を向くと、そこにはブロンドのショートカットで

顔は美人で、何処か真面目な雰囲気がする女性がいた。

服は、長袖のシャツに、スカートと言うよう格好をしている。


「お前、クラウか?」

「はい」


それは、俺がクラウの声から、イメージしていた少女の姿だった。


「私は、今、スキルで、マスターの夢に介入しています」


確かに彼女には、そう言うスキルがあって、初めて会った頃、

それを使って、俺の夢に介入しようとしていた。


「初めて会った時は、上手く行きませんでした。でも今は違うようです」

「でも、どうして俺の夢に……」


と聞くと、笑顔で、


「私のわがままに、付き合ってくれたお礼がしたくて……」


と言って、近づいてくる。

俺は彼女の言うお礼が、何であるか容易に想像がついた。

彼女は自分の服に手を掛けながら、


「ここは、夢の世界。気兼ねなんていらないのですよ」


と言った。


 だが次の瞬間、


「ちょっと待った!」


部屋に、ツインテールの髪型で、勝気な雰囲気のする美少女が乱入して来た。

服はシャツに、ブレザーとスカートで、何処かの学生の様だ。


「お前、フレイか?」


それは、フレイの声からイメージしていた少女だった。もちろん声も同じ


「抜け駆けは、許さないんだから!」


と言って、クラウに掴みかかった。


「抜け駆けって……」


するとフレイは、顔を赤くして、


「別にアンタが好きって訳じゃないんだから、ただアタシは一番でいたいだけ、

そう一番に、お礼がしたいだけなんだから、勘違いしないでよね!」

「貴女、マスターに向かって、なんて口の利き方!」


と言ってクラウは怒るが、俺には、フレイがツンデレに思えた。


「ご主人様……」


俺のすぐ横からミニアの声、横を向くと、以前ミラーカの館で、

ミニアの幻惑で見せてきた妖艶な女性がいた。言うまでもないが


「ミニア……」

「お礼をしに来たわよ」


と言って、抱き着いてきた。


「ちょっと!」

「何してんの、アンタ!」


一旦、争うをやめ、声を上げる二人。するとミニアは、色気のある声で、


「もめてないで、皆で楽しみましょう」


と二人に言った後、俺の耳元で


「ねえ、ご主人様?」


と言った。更に、


「なんだか、楽しそうっすね。アタシもまざるっすよ」


おかっぱ頭で、巨乳で、ご丁寧に「トール」と名前の入った体操服の少女、

即ちトールも乱入して来た。


 このゲームか、漫画の一場面の様なハーレム状態に俺は、


(もう好きにしろよ……)


と思いつつも、その夜は、良い夢を見させてもらった。

これが、予知夢の様な物であったことを知るのは、直ぐの事であった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る