12「魔装使いの一応大ボス(3)」

 ハンマーから一筋の光が、空へ向けて放たれた。直後、空は曇り始める。

更に、シルヴァンは地面を叩くと、奴の足元が隆起し、

高台に上った様な状態になった。

更に、結界の様な物まで張って身を守ってるようだった。


「ミョルニルの……力……思い知るがいい……」


奴の息が上がっていた。


 さて魔槌ミョルニルの最大の特徴は、天変地異を引き起こすと言う物。

それは、レアスキルの「気象操作」を持っているからと言われている。



スキル「気象操作」

天気を操り、様々な気象現象、時には自然災害をおこせるスキルで、

所有する物が少ないレアスキルであるが、起こせると言っても、

効果範囲は、多くの場合は、かなり小規模で、箱庭くらいの広さものに、

それこそミニチュアのような雨雲、台風、竜巻などを起こすことが出来る。




ミョルニルの場合は、スキルの効果範囲は、町一つ分くらいと言われ、

起こせる気象現象、自然災害も、その事で有名になるくらいなので、

かなり強力、その力は、雷や竜巻とかならば、魔法や、他のスキルでも、

同じ事かできるが、それらよりも、遥かに強力な物を、

発生させることができるとの事。更には魔法で防ぐことも困難とされ、

この国で、起きた災害のいくつかは、ミョルニルの仕業と言われている。

 

 さて此処に来る前に、ミョルニルに対する対策をクラウ達が考えてくれていた。

実は、「収集」で「気象操作」をクラウは持っていて、解放済みである。

だからと言って、「習得」や「収集」の様に、

「気象操作」自体は無効化はできないし、


《こっちの『気象操作』は、ミョルニルと違って、

自然災害を起こすことはできませんが、利用する事はできます》


そこで、ミョルニルの起こす自然災害を逆に利用しようと決めていて、

段取りも、教えてもらっていた。なお、この場にベルはいないが

彼女も、似たようなことが出来るとの事で、もしこの場に居れば

サポートしてくれることになっていた。


 空から「ゴロゴロ」と言う音が聞こえてきた。


《やっぱり雷ですね……》


クラウは、敵が雷を使ってくることは、予想していた。

俺は、「気象操作」を発動させつつ、事前に決めていた分担通り、

クラウを空に向けて掲げた。「ゴロゴロ」と言う音はどんどん大きくなっていって、

やがて雨も降りだし、雨に打たれながらも、俺はその時を待っていた。


 やがて、その時は訪れる、一瞬の光と物凄い轟音。そう落雷である。


「なんだと!」


シルヴァンは、驚愕の声を上げた。

その時、雷は空に向けて掲げたクラウに、雷が落ちていた。もちろん

これは、敵の「気象操作」で、俺を狙って落としてきたものだろうが。

それをクラウが、吸収していたのだ。


 もちろん、こちら側の「気象操作」の力である。

その後も、敵は何度も雷が落としてきたが、全て吸収してくれた

なお、その度に物凄い振動が俺を襲ったが、どうにか耐えた。


 敵は、こっちが雷を吸収した事が悔しかったのか


「クソっ!」


と声を上げ、地団駄を踏みながら、ハンマーを振るった。

すると、今度は風が吹き始めた。


〔次は、私ね〕


同じく決めていた通り俺は、武器をミニアに切り替え、構えた。

やがて、風はどんどん強くなり、周囲に無数の竜巻があらわれ、

こっちに向かって来る。


 俺は逃げる事無く、ミニアを構えながら、向かって行き、竜巻に接近すると、


「なっ!」


シルヴァンは、驚愕の声を上げていた。それは竜巻が消えたからだろう。

もちろん、「気象操作」で吸収したからであるが、

その後も、俺は、向かって来る残りの竜巻に、逆にこっちから向かって行く

或いは、ミニアを投擲したりして、竜巻を片っ端から吸収させていった。


 すべての竜巻を、吸収した後、敵がハンマーを振るう。すると遠くから、

聞きなれない物凄い音がした。


《マスター、洪水です》


これまた、事前に決めていたように、クラウに切り替えた後、地面に突き立てる。

やがて濁流が、こっちに向かって来る。


(鉄砲水って奴だな)


このままだと巻き込まれ、流される。逃げ場は奴がいる高台だけだろう。

だが逃げる必要はなかった。


「おお!」


その異様さに思わず声を上げてしまった。

濁流は、急に細くなって地面に突き刺したクラウへと、吸い込まれていく。

さっきまで、雷や竜巻の吸収も異様だと思うが、どれも一瞬だったので

何も感じなかったが、今回は、吸収される様が、じっくりと見えたから、

気になってしまったのである。

なお普通の流水や、魔法によって発生させたものでは、このようなことはできない。


 その後も、様々な天変地異が、俺を襲う。当たれば即死間違いなしの巨大な雹、

大量の土砂による土石流に、この近くには火山は無いはずだが、

地面からのマグマの噴出、溶岩流、火砕流など、あらゆる自然災害、

いや天変地異が、俺を襲ったが、全てクラウ又は、ミニアで吸収していった。


 さて、クラウ達の「気象操作」は、先も述べた通り、現象を発生させられないが、

既に発生している自然現象を、操ったり、吸収したりする事が出来る。

これが、自然現象か、「気象操作」で発生している現象でのみできる事。

魔法や、他のスキルで起きてる事には使えない。


 なお、今回吸収しているのは、しかるべき理由がある。クラウによれば、

やろうと思えば自然現象を、跳ね返す事はできる。しかし一部を除き、

「気象操作」で発生した自然現象は、武器自身も含め使用者に影響しない。

だから例え、雷や竜巻を跳ね返したとしても、相手には全く意味がない。

洪水とかは、影響はあるが、相手も分かっているのか、高台を作り、

対策をしている。


 しかし、吸収すれば、力は相手の手を完全に離れ、こちらの物になるから

それを撃ち返せば、相手にダメージを与えることが出来る。


《そろそろ限界ですね》


 吸収量には、限界がある。俺は予定通り、フレイに武器を切り替える

一方、高台にいるシルヴァンは、


「ああっ!もうっ!うるさい、うるさい!」


とハンマーを振り回しながら癇癪を起している。

どうやら、また魔装と揉めてるようだ。


《あの様子だと、この後は、やけくそな攻撃に移ると思いますね。急ぎましょう》


ここまで、敵が自然現象を、単体で使ってきたのは、

「気象操作」で複数の自然災害を、発生させると、コントロールが難しくなるから、

おそらく俺に狙いを定めるために、単体だったのか。

まあ、体力消費の問題もあるだろうが。


 ただクラウの言う通り、やけくそになったとすれば、

複数の自然災害を発生させて、滅茶苦茶しかねない。

そうなったら、俺も大変だし、そんな時に、結界の効果が切れたりしたら、

町が大変な事になる。


<弾を精製するわ>


 「気象操作」は、「収集」で得た能力故に、他の武器と共有して使えるが

吸収には、得手不得手があって、武器で分担していたが

フレイは、吸収が出来なかったが、彼女には大きな役目があった。

それは吸収した力を撃ち出すと言う事。力を剣や、槍に宿す事も出来るが、

敵が遠距離から、攻撃してくることを、クラウは想定していたので、

フレイに白羽の矢が立った。


 彼女が、通常弾を生成し、それに、限界までため込んだ自然災害の力を籠める。

力を籠めるため精製には、少し時間がかかる。

直ぐ撃てるように、俺は、敵に銃を向けた。

さて、限界まで力を溜めこんだのは、吸収した力を直ぐに打ち出したとしても、

相手も、同じ様に吸収して跳ね返してくる。

だがギリギリまで溜めこんだ力なら、恐らく、吸収量を凌駕するだろうから、無理に吸収すれば自壊するだろうし、また、これまでの様に弾を跳ね返そうとしても、

大ダメージになる事は間違いないらしい。


《これまで、奥義等で与えてきたダメージもありますから。

致命的なダメージになるでしょうし、例え無事でも、

揉めてるようですし、魔装が我々の力の前に、寝返る可能性も》


そう嘗てのクラウの様に。


 ここで


<弾丸の準備が出来たわ>


との声を受け、引き金に指を掛けるが


(あの結界……)


シルヴァンの周りにある防御用の結界の事が気になった。


<大丈夫よ。この弾丸の前には、あんな結界は、無意味よ>


俺の心を読んだのか、フレイがそう答えた。そして


<さっさと引き金を引きなさい。後はこっちに任せればいいから>


一方、シルヴァンは、ハンマーを空に掲げる。

おそらく、これからクラウの言う、やけくそな攻撃に移ろうとしていたのだろうが、


(グッドタイミングだ!)


俺は、引き金を引いた。かなりの衝撃で倒れそうになったが、踏ん張った。


 さて発射された弾丸は、結界を壊し「誘導」の力でミョルニルに命中したらしいが


《奴は、力を吸収しているようです》

「それじゃあ……」

《自壊は間違いないでしょう》


遠目であるが、奴が掲げている所為か、ハンマーにヒビが入っていくのが分かった。


 そしてシルヴァンが


「なに!」


と声を上げた直後、ミョルニルは砕け散り、


「ばかな!ミョルニルが!」


そして破片が変化したと思える光の玉がこっちに飛んできて

フレイに吸収されていく。


《スキル『融合』が発動、ミョルニルと一体化しました》


直後、足場が崩れ去り


「うわー!」


と落下するシルヴァン。


 近寄ると


「イテテテテテ」


とは言って、尻餅をついているが、


《大した怪我してませんよ》


との事なので、鳥もちで拘束した。


 丁度、その時、空間にひびが入り、結界が解除された。


「和樹さん!」


と声を掛け、側に来るベル、イヴもこっちに来た


「心配したんですよ。一人で敵と結界に入っちゃうんですから」


そして、鳥もちで拘束されてるシルヴァンを見て


「上手く行ったみたいですね」

「ああ、ところで……」


結界が解けた時から気づいていたが、周りにはザコたちが、屍の如く倒れていた。


「どうも連中、ここの異常を察知して、戻ってきたようで……

殺してはいませんよ。気絶しているだけで」


それは、俺の「周辺把握」で分かっている事だった。俺が結界に入っている間、

外でも一悶着あったようだ。

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