9「最後の戦い」

 殺人鬼共、先ほどと変わらず


「キャハハハハハハハハ!」

「………」

「ウフフフフフフフフ」


一人を除き、笑いながら、襲い掛かって来る。俺は、銃を構えたが


<待って、『誘導』がおかしくなってる!これじゃ、当てられない>

「えっ!」


直後、三人の攻撃、鉈と斧の攻撃は、運良く避けられたが、剣は避けきれず、

腕で受け止め、押し返した。


 理由は不明、おおかたミラーカが何かしてるんだろうが、

「誘導」が駄目となると、弾が当たらないので、武器をクラウに切り替え、

あと「燃焼」を使う。なお引き続き「魔力吸収」により魔法は使えない。


 基本的に、敵の動きは、三人そろって攻撃は素早いが、

武器を適当に振り回してるだけで、こっちは、クラウの「習得」によって得た剣技や

体術が使えるというか、勝手に繰り出されるアクロバティックな動きで、

敵の攻撃を軽々と避けつつも時折、繰り出される剣技で、三人相手でも、

上手く渡り合う。それに「自動調整」のお陰で、防御力が上がってるから、

相手の攻撃を受け止める事も出来るし、あと、ミラーカの話を、信じるなら、

さっきまでとは違い、容赦する必要は無い訳で。


《癪な話ですが、嘘はついてないと思いますよ。

こっちの事を、馬鹿にはしてますけど》


 そんな中、何度か敵の体を切り裂いたが、出血は見られないし、

服も切れてもいないし、燃えてもいない。一応攻撃が当たると


「キャッ!」


とか


「グッ……」


と言う様に、悲鳴や唸り声は上げるし、何よりが、手ごたえもある。

しかし怯むことは無いので、ダメージが通っているのか、疑問を感じた。


《順調に、攻撃は与えています。》


との事だが、いまいち実感がない。相手が幽霊故かも知れないが、

でも他の階の亡霊たちは、実感があった。


(何だか、ゲームで体力ゲージの無いボスと戦ってるみたいだ)


 とにかく、クラウの言う事を信じて、攻撃を続けた。

上手く渡り合ってるとは言え、三対一だと、攻撃が分散してしまうので

ふと思い立って「風撃」で相手を二人吹き飛ばし、

一対一に持ち込むという事を、思い付き実行に移した。


 空気の砲弾は、思ったとおり、敵を二人吹き飛ばした。

戻ってくるまでの間、敵の一人に攻撃を集中、ただ、すぐ戻って来るので

その度に、敵を吹き飛ばした。


 ただ敵の素早さもあって、吹き飛ばす二人を、うまく狙えず、

結果、吹き飛ぶ敵は、毎回変わる事となり、特定の相手に、

攻撃をずっと集中させると言う事が出来なかった。


《マスター、たった今、『風撃』が成長しました。

他の属性系スキルと組み合わせが出来ます》


ダンジョンで、クラウが言っていた事が出来るようになったようだ。


(だったら……)


吹き飛ばした二人、この時は、剣と斧の少女たちだったが、

戻ってきた時に、「風撃」に「氷結」を組み合わせて使った。

すると、衝撃波に冷気がくわり、吹き飛んだ二人、

先に引き続き、斧の少女と、今回は鉈の女性が凍り付き、動きが緩慢になったので、

一対一となる時間が増え、攻撃を集中させることが出来た。


「キャハハハハハハハハ!」


 しかし、剣の少女の不気味な笑顔と、その笑い声だけは、どうにかして欲しいが

同時、うらやましくも思った。彼女の様に笑いながら戦えれば、

こっちがもっと有利になるのだから。


 さて、相手を順不同で変えながら、一対一の戦いに持ち込み戦っていたが、

突然、剣の少女の目が光ったかと思うと


「痛っ!」


肩に、太い針の注射でも打たれたような痛みがした。


《スキル『投擲』による素早い貫通性の攻撃です。》




スキル「投擲」

弓矢、投石などの飛び道具を、威力の増加の他

命中率を上げることが出来るが、威力強化が主体なので

「誘導」には劣る。

あと、自分の生命エネルギーを、無属性の攻撃として打ち出すことが出来る。




フレイでも、特定の弾丸を使う時のみ、使用可能なスキルである。


 剣の少女の「投擲」による攻撃は、鎧を貫通したようだが、

大した怪我じゃないし、「修復」で治っているが地味に痛い。

 

「キャハハハハハハハハ!」


と少女は笑ったかと思うと、その目が再び光り、今度、脇腹の辺りに

針の様な物が刺さる痛み。


《攻撃は、目から発射されているようです》


目から出るビーム攻撃みたいな物か。更に


「アチッ!」


突如、炎が俺を襲った。鎧越しであるが、熱さが伝わる。


「ウフフフフフフフフ」


炎が飛んできた方には、鉈の女性。そして彼女は、口を大きく開き、

そこから、炎を発した。


「!」


見た感じ、俺じゃなかったら、大火傷と言うか焼死は間違いなさそう。

さっきの状況から俺の場合は当たっても、たいした事は無いようだが、

身体は勝手に避けた。


 殺人鬼たちは、これまで使ってこなかった攻撃を使用してくるようになった。

更に、斧の少女に至っては


「………」


彼女は、こっちに手をかざすと、小さな光弾を数発、飛ばしてきた。

俺は、避けたが、それらは着弾と同時に、巨大な光弾となっていた


(まさかバーストブレイズ!)


見た感じは、炎属性ではなさそうだったが、バーストブレイズによく似ていた。


《あれは、魔法ではなく、スキルの様です》


何のスキルかは、クラウでも分からないとの事だが


《確かに、あれはバーストブレイズを再現したものです》。


 「魔力吸収」が有るから、こいつらには使っていない。

ただ、一階で多用したから、それがこいつらに伝わったか、

それとも、俺から得た力、与えられてるからだろうか。


(そういや、時間が経つと、こいつらは強くなるって言ってたな)


 単純に力が強くなるだけじゃなく、動きも変わってくるようで

新たな攻撃の他、動きも洗練されてきていると言うか、

攻撃が的確になってきているし、攻撃を避けられることも多くなってきた。

特に「風撃」が避けられることも多く、結果、一対一に持ち込めなくなってきた。


《こっちだって、負けてはいませんよ》


時間経過とともに、こっちも、これまで使った事のない、

この瞬間まで知らない技と言うか、奥義が出るようになってきた。


「紫電一閃!」


勝手に、言葉が口から出て、技が発動した。素早く強力な斬撃で

三人を、切り裂き、更に追い打ちとして


「紫電風轟斬!」


「風撃」よりも強力な風による攻撃で、三人は吹っ飛んだ。

更に、


「剛煌斬!」


剣を振るうと、三日月様な形をした気弾が飛び出し、三人への追撃となった。

これらは、今回は連続で出たが、その後は、時々出るような形になった。

あと極斬嵐と同様に、女性剣士が使っていた技との事。ただ極斬嵐とは違い、

勝手に出る上、口が勝手に技名を叫ぶので、恥ずかしくはあった。


 技だけじゃない。俺の動き自体も、変わってきて、

相手の動きが洗練されてくるようにこっち動きも洗練され、

より早く、それでいて複雑、そして激しく。


(なんだか俺であって、俺じゃない気がするな)


槍の時と同じく、そんな事を感じた。まあ勝手に敵を倒していくのは楽でいいから、

深くは考えず、流されっぱなしであるが。


 とにかく戦いは、熾烈になって来るが、相手に何度攻撃をしても、

強くなってきても、弱っている感じが、全くないので、


(クラウは順調と言ってたけど)


やはり攻撃が効いているのか不安は、感じた。まあ攻撃に関しては強くなっていても防御の方は、手応えとしては、強くなってる感じはない。


 俺の思いを読んだのか


《大丈夫ですよ。もう少しで……》


と言いかけて、急に切羽詰まったような声で


《大変です。敵の力が急に増大しています》

「えっ!」


ここで敵の動きが一瞬だけだが止まった。そして次の瞬間、

衝撃波ともに、三人の服が吹き飛んだ。


 三人とも服の下にも、衣装は着ていたが


「えっ!」

《なっ、なんて破廉恥な!》


三人は、革製のかなり際どい格好をしていた。女性は、ギリOKと言っていいのか、分からないが、ただ、二人の少女、特に剣の少女に至っては、アウトである。

その上、三人とも背中にコウモリの様な羽、更に頭部には、

ヤギの様な角まで生えて来た。ゲームで言うなら、

ボスの第二形態への変身と言ったところだが、その姿に


「サキュバス……」


と思わず、口にしていた。


 三人は、空中に浮かび上がると、周囲に魔法陣が現れる。

つまり魔法攻撃が始まる。


「キャハハハハハハハハ!」


剣の少女は、炎魔法で、魔法陣から火炎弾が飛んでくる。

もちろん目からの、貫通攻撃も、合わせてくる。


「………」


斧の少女は、土魔法なのか、魔法陣から、岩が飛んでくる

加えて、手からバーストブレイズもどきも撃って来る。


「ウフフフフフフフフ」


鉈の女性は、魔法陣から、雷が落ちてくる。つまりは雷魔法。

あと、火炎放射も使って来る。


 三者三葉の攻撃に対し、こっちも「習得」で自然と体が動き

応対していく、敵の攻撃を素早く避けるのはもちろん、

時に、土魔法の岩を利用し、足場にして登っていき、

宙に浮かぶ敵に攻撃を仕掛ける事もあった。


 攻撃は、魔法厳禁なので、引き続き、スキルと奥義を駆使して、

敵に攻撃を仕掛けていく、敵が空中に居るので、主な攻撃は「風撃」や

剛煌斬などの、遠距離攻撃で、時折、空中に先と同じ方法で、登って行って、

接近攻撃、それに、三人とも、ずっと空中にいるわけではなく

時々、急降下で、攻撃を仕掛けた後、地上戦に移行する。


 急降下による攻撃を、避けつつも、剣技で、応戦となるが、

全員が、地上戦になる訳じゃないので、敵の援護射撃の中での、戦いとなった。


 一応、「自動調整」で、攻撃が当たっても、たいしたことは無いんだろうが、

怖いし、そもそも身体は、勝手に避けるから、なかなか攻撃を当てられないし

例え、当てたとしても、これまで通り、敵の体に傷らしきものが出来ないので

ダメージを与えてるか不安。


《まずいですね。これまではゆっくりでしたが、ここに来て、

敵の力は急激に上がっています。このままだと、今は、大丈夫ですが、

直に、マスターが本気を出さなければ勝てない程になるかもしれません》


 しかし、ここでフルパワーなると、一定時間、無防備なる。

その間、守ってくれるはずのイヴは、いないから、奴らに嬲られるのがオチだ。


(こうなったら……)。


 俺はクラウに


「なあ、必殺技を使ったらどうなる?」

《今なら、2発ほどで倒せると思いますが……》


本来なら、もう少しで、三人とも一発で倒せるほど、体力だったそうだが

さっきの変身で、体力が回復してしまったらしい。

なお、2発と言えば。ちょうど「生体タンク」に残されたストックと同じだ。

しかし、この後はミラーカとの戦いが待っているはずで、そうなると、

後に残しておきたいと言う、思いが生まれてしまう。


 だがここで、三人が全員、空中に浮かび上がると、その周囲に、

複数の魔法陣が一瞬、現れたかと思うと、周囲に火炎弾、氷塊、岩、光の弾、

黒い球、そして透明な球が現れた。


「これって!」

《メキドレインです。きます!》


俺の体は、回避行動を始め、手際よく、攻撃は回避していったが、途中、肩に被弾、


「いて!」


鎧越しだったが、肩に硬式野球のボールが、思いっきりぶつけられたような、

痛みがした。傷は、「修復」で、治っているが、

この時、敵の力の高まりを強く感じた。


 残りの攻撃は、避けきったが、


「やるしかないか……」


今後の事も、考えると、早く倒さなければと思い、

必殺技の準備をしようとした時。ミニアが突然、


〔こいつ等、親、姉妹揃って、なんて格好をしてるんだか。露出狂の変態家族ね〕


ミニアの唐突な一言、本人曰く、ふと思いついた事を口にしたとの事。

彼女の言葉を聞いて、俺は、


「フフフフフ、ハハハハハ!」


思わず笑ってしまう。


「変態家族って……ハハハハハ!」


下ネタだが、ツボにはまってしまった。


 この後の事は、ひたすら笑っていたと言う事以外あまり覚えていない。

後に、クラウから聞いた話では、「習得」の力で、笑いながらであるが

これまで通りの戦いをしていた。

ただ、俺が笑い出した影響で、敵の力が急激に下がって行ったそうで、


《聞いてはいましたが、笑いの力がここまでの効果があるとは、

ただ、連中を強くしていたのは、元はマスターの感情から、

出たものだからかもしれませんが》。


 大十字からも聞いた事が有るが感情から出た力は、本人の手を離れていても、

連動する事はあるそうだ。つまり俺が笑い出した事で、連中に力を与えていたものが

一気に毒に、置き変わってしまったと思われる。


 奴らの弱体化は、力だけではなく、動きにも現れたらしく、

俺は笑っていたから覚えてないが、クラウによると力だけではなく

動きもどんどん悪くなって、最後の方は、武器も満足に、

振るえなくなっていたと言う。

ただ、その状態で、俺が攻撃を仕掛けてるわけだから


<後の方は、アンタが奴らの様になってたわよ>


と言われた。


「三連……ミサキ……切り……」


気が付くと、奥義を使っていた。そして三人は、各自、7回切られ、


「キャハハハハハハ……」

「………」

「ウフフフフフフ……」


苦しむようなそぶりも見せず、奴らは消えていった。こっちの勝利であるが


「あ~~~腹いてえ……」


勝ったと言うよりも、よく笑ったと言う感じしかない。


(あれ、俺さっき、ミサキ切り使わなかったけ、まあいいか)


笑いの余韻で、物事を深く考えられなかった。


 なお大十字によると笑いの力が、有効だと分かっていても、

怨霊屋敷では、雰囲気で笑えないだろうし、同行者がいた場合、

一人の笑いが、逆に不快感を読んで、逆効果だったりするらしいから、

笑いの力で解決する何てことは、滅多に無いらしい。



 

 隣の部屋にて、一連の戦いを、透視のようなもので見ていたミラーカは、


(この状況で、あそこまで笑えるとは、運がいい奴ね

お陰で、力がだいぶ削がれたわ)


彼女の表情から、余裕が失われつつあった。


(まあいいわ、まだ奴を倒せるだけの余裕もあるし

もし奴が、彼女と同じ、不老不死だとしても、暗黒神様の力をお借りすれば)


彼女は、「借用の儀」のやり方を知っていた。

しかし相手が、その暗黒神だとは気づいていない。


 丁度その時、弄っていた箱が開いた。同時に壁が開き、

和樹のいる隣の部屋に繋がる出入口が現れた。


(こんな時に、中身は後でゆっくり確認しましょう)


彼女は、箱を一旦、机の上に置き、和樹のもとに向かっていくが、

実は、この瞬間、既に彼女の敗北が決定した。そう彼女は、和樹と戦うことなく、

負けるのだ。

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