9「神々の事情とベルの決意」

 ここで突然、ジャンヌさんが、


「ちょっとデンワ、貸してくれる?」

「はい」


と言って


「ちょっとジャンヌさんに代わる」


そしてジャンヌさんに電話機を渡すと


「クロニクル卿、そして……」


俺たちの方を見て


「皆にも聞いて欲しい。私は、その冒険者に心当たりがあるわ」

「えっ!」


と俺は思わず声を上げてしまったが、彼女は続ける。


「そいつの正体は、外の世界から来た神よ」

「神?」

「この世界の外には、沢山の神がいるの」


なお世界を作れるのは、その中の一部との事だが


「どれくらいいると思う」


と聞かれて、頭に八百万の神々が浮かんで


「800万位ですか」


すると、彼女は


「正確な数は、私も知らないんだけど……」


と前置きしつつも


「人間型だけで、70億くらいよ」

「「「「え~~~~~~~~~~~~~~~!」」」」


俺を含めて、イヴ以外は、その途方もなさに思わず声を上げる。


(まるで、地球総人口並だ……)


もちろん、様々な人種で、老若男女とわずいる、

ただし神の若さや老いは見た目だけで、生まれた時から同じ姿のまま、

例えば、大人の神は、生まれた時から大人だという。

同じく性別も、見た目だけで、実際は全員、両性具有との事。

その上、彼女は人間型だけと言った。つまりは、


「それ以外も、含めたらもっといるって事ですね」

「そうよ。人型以外で私が知っているのは、スライム、蜘蛛、タコ……」


他には、ミジンコやロボット、中には実体のない神も。


「ご存じだろうけど、今でこそ肉体はあれど、光明神や暗黒神は、

元は実体のない神ね」

「光明神もですか?」


暗黒神は、聞いていたが光明神も同じらしい。


 なお人型の神は、強い神が多いが、神の強さは見た目では、推し量れない所があり

彼女が話したスライム、蜘蛛の神は、見た目では、強くは見えないが、

神としては最強クラスだそうだ。


「その全てを足したら、それこそ凄まじい数になるわね」


 ちなみに、全ての神の中で、世界を作れる神は、これも70億くらいだそうだ。

なお神は、自分にない物も創造できるとの事で、

先に述べたロボットの神も70億に含まれ、

生物のいる世界を生み出せているとの事。

ちなみに、ここまでの話をジャンヌさんから、雨宮に教えているらしい。


「そんな神の中には、悪い奴がいるの」


 ジャンヌさんの話では、その神は、人型の神であるが

自分が作った世界を、滅茶苦茶して、更には、数多の世界を巡って、

それぞれの世界を、荒らしまわっていたそうで、

しかも、それが、遊びだと言うのだから、酷い話だ。


「ソイツがファンタテーラにやって来たのは、2000年前、

以降、世界のあちこちで暗躍してたらしいわ」

「らしいって?」


言い方が、断定的でないのが気になった。


「実は私が、ソイツの事を知ったのは、結構最近なのよ。

それに2000年前は、私がまだ神になる前だし」

「神になる前?」

「私は、貴方と同じ、元人間なの」

「えっ?」

「その上、最近まで自暴自棄だったしね」


そして、彼女は、雨宮に対して


「クロニクル卿、貴方たちのおかげで、立ち直ることが出来たわ。

ありがとう」


と礼を言う。彼女の言う恩とは、その自暴自棄と関係があるようだ。


 しかし彼女は自分の話は、それ以上の事は言わず、彼女はベルの方を見て


「私、ベルさんの事を、神の領域を使って、監視してたの」

「ええっ!」


とベルは驚くが、俺は当然だろうと思った。ジャンヌさんも


「あれだけの力を持つんだから、気になったのよ」


と言った後、


「でも、時々、監視が途切れる事が有ったの、何者かの妨害でね。

神の領域を、妨害できるのは、神以外にあり得ない。

それが丁度、貴女が、謎の冒険者に会っている時なのよ」


そこから、謎の冒険者が、神であると判断したらしい。

余談であるが、今も発動中の、遠見防止の魔法は

暗黒神専用魔法であるが、神の領域には、影響を与えてないとの事。


「過去にさかのぼって、調べてみたんだけど、

同様の現象が、ここ最近は、貴方たちの周辺、

いやカズキ君を中心にして起きているの、多分、貴方はヤツに目を付けられたわ」

「でもどうして……暗黒神だからか?」

「そうでしょうね。ヤツの取っては、貴方は新しい遊び道具なのよ」

「酷い話だな」

「あと、ジムとか言う仮面の男も、いいように利用されてるんだと思う」


この神が、ジムさえも操っている真の黒幕。


「ソイツ、なんて名前なんです」

「名前なんて無いわ。」

「名前が無い?」

「珍しい事じゃないわ。むしろ名前を持ってる方が珍しい」


 神々のコミュニケーションは、テレパシーみたいのものでするらしく、

自分の考えている事を、直接伝える為、名前は必要しない。

しかし、それ以外の、主に人間が神との対話において、

名前を必要として勝手につけるそうだ。そして名前を付けられたら、

普段から、その名前を名乗る。あるいは、その名で呼ぶと言うのが、

神々のお決まりとのなっているとの事。


「おかしな名前を付けられて、不快な思いをしている神もいたわね。

あと怖い見た目の所為で、何処かの世界の悪魔の名前を付けられた神もいたわ。

本人は、ものすごく慈悲深いのに……」


強さもであるが、神様は、人間以上に、見かけによらないらしい。


 そして、黒幕の神は、どの世界でも、表立つことは無く、

常に暗躍を続けた所為か、何処かの猫の如く、名前はまだない。


 その後、ジャンヌさんは、俺に、電話機を渡し、

そして先ほどまでの話を、電話越しに聞いていた雨宮と話をした。


「なんだか、大変な事になって来たな、取り敢えず、町に戻ってから、

直接会って、今後の事を話し合うとしよう」

「俺も、出来るだけ早くそっちに、もどるよ」

「早く戻ってこい。先の戦いで注意がそっちに向いてるだろうからな」


その日は、話を終え、携帯電話をジャンヌさんに返そうとすると、


「それは預けておくわ。好きに使って」


と言った。俺は、まだ彼女に、聞きたい事が有った。

特に元人間と言うところが。


「あの……」


と俺が言いかけた所で


「そろそろ戻らないと、それじゃあ、また会いましょう」


そう言うと彼女は光に包まれ消えた。


 そして、残された俺たちは、取り敢えず食事を再開した。

しかし、ジャンヌさんの、70億柱の神とか、

黒幕の、名も無き神、勝手にナナシと呼ばしてもらうが

とにかく、信じがたい内容ではある。

ただ、俺の周辺で、良からぬものが動いているのは事実な訳で

この先も、楽できそうにないようだ。





 

 私は「絶対命令」で、先ずは、彼に危害を加えることは出来なくなりました。

まあ、危害を加える気は、サラサラありませんでしたが

信頼を無くしたと言う事です。


 あの二人にも、手を出せなくなりました。これは結構辛いです。

特に、和樹君をあんな目に合わせたミズキを、前に何もできない事が、

煮えたぎる怒りを抑え込むのは、本当に辛い。


 他にもいろんな命令をされましたが、

一番つらいのは、「『木之瀬鈴子』として接するな」と言う命令です。

彼は、私の記憶を垣間見て、私が木之瀬鈴子だと分かって、

そう、せっかく証明できたと言うのに、こう言ったのです。


「君は、『木之瀬鈴子』じゃない。従って俺の恋人でもない。」


そして、こうも言いました


「木之瀬鈴子は、もう死んだ」


この瞬間、彼の中で、『木之瀬鈴子』が永遠になったと言う気がしました。

私の所為で、彼は、壊れてしまい。過去の私に、

幸せだった日々に縋って生きていくようです。

そこに、私の入る余地はない。


 ただ、従者となった関係で、一緒に暮らせるようにはなりました。

まあ、あの連中と一緒なのは、気に食わないですが、

あとこれまで通り、仕事の際、パーティーは組んでくれるそうです。

ただ、全てそのままと言う訳には、行かないようです。

あの様な事をしたわけですから。


 でも私はあきらめません。自業自得とは言え、

「木之瀬鈴子」と言う壁は大きくなってしまい。

自分との戦いは、厳しいものとなってしまいましたが、

それでも、私は、彼を、和樹君を振り向かせて見せます。

どれだけ茨の道であっても、絶対に……。

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