5「邪神降臨」

 魔王ベルを、一躍、ネットの有名人にしたのが、当時ゲームで行われた

「邪神討伐」と言うイベントだった。

これは邪神とだけ呼ばれるモンスターを倒す。それだけのイベント

しかし、この邪神が、無茶苦茶な強さで、かなり話題になった。


 正確には、炎上したというべきだろう。ネットの掲示板では

攻略できなかったプレイヤーの文句であふれ、

更に邪神を倒すための強力なアイテムを求めての、

リアルマネートレードや、不正なプログラム改造など違法行為が横行し、

大勢のプレイヤーがBANされ、そいつらが逆恨みで

掲示板を、荒らすこともあり、とにかく荒れに荒れた。


 当時は、ゲームとはあまり関係ないサイトで話題となっていたり

各ゲーム雑誌では特集が組まれ、

どれもクリア不可とまで断言されていたのは、覚えている。


 一般のプレイヤーだけでなく、多くの魔王プレイヤーも挑み、

尽く失敗する中、唯一魔王ベルが、邪神を倒し、イベントは終了。

その後、運営側が、同様のイベントを二度と行わないと、

宣言したため、彼女は邪神を倒した唯一無二の存在として、

元々、彼女は強いプレイヤーとして一部では有名ではあったが、

ゲーム内はおろか、ネットの伝説となった。


 そして、このイベントには「邪神を倒す者、その力を受け継ぎ、

新たな邪神となる」と言うバックストーリーがあって、

イベントクリアの特典は、邪神への変身能力。

なお、魔王の時とは違いキャラエディットは、性別の選択と

名前のみで、彼女は、ベルゼビュートと名付けた。

しかしプレイヤブル化にあたっての調整は一切なかったので、

撃破不可とされてきたモンスターの力が

一人のプレイヤーに、ゆだねられることになったのである。


 さて、転生石って奴は、この邪神の力も再現したらしい。

見た目は、ファンアートで見た邪神そのもので

体つきは女性的であるが、何と形容しがたい禍々しさを感じる。

頭は、ヤギっぽくて、角が荒々しく、顔も厳つい、背中には羽のようなものもある。

その大きさも、具体的なサイズは分かりにくいが、

これまで見てきた巨大魔獣など比じゃない。それこそ勝利が絶望的な大きさだ。


 この邪神、ゲーム中はともかく、この世界では、どれくらいの強さかと言うと

ジャンヌさんの見立てでは、暗黒神と、つまりは、俺のフルパワーと同等だと。


 彼女との戦いが短期決戦でなければいけないのは、

邪神になる前に倒す必要があった。なんせ邪神の力なんか使われたら、

いくら丈夫とは言っても、ダンジョンが持たない可能性があるからだ。

まあ今は、外で人気のない場所だから、問題は無いと言えばないが、

正直、戦いたくは無かった。


 そして邪神は、攻撃を開始した。右手をこっちに向け、

ドラグキリングを、大量に撃って来た。


「!」


既に「習得」発動しているので、それに身を任せ

短距離転移と飛行魔法を駆使し、攻撃を避けつつ、バーストブレイズを撃った。

鎧のスキル「連動」の影響で、強化されていて、

見た目的には攻撃範囲が広がっている。おそらく威力も上がっていて

加えて、魔法強化も最大。

しかし向こうも、強いから、効果はそれなりに思えた。

まあ使い慣れてるから、撃ちまくったが。


 そして、敵の攻撃は、ダクドサンダー、エクサダークネス、

アグレッシブトレジャーと、どんどん増えてくる。いろんな攻撃の雨あられ、

正にメキドレインのような状態で、転移が使えるとはいえ避けるのは大変


 接近すると、同じく「連動」で強化されたクラウに

スキルで炎を纏わせ、「斬撃」を最大にして切り付ける


「キシャアアアアアアアアアアアアアアアア!」


と言う咆哮が挙げた。どうやら効果は抜群のようだった。

あとゲーム通りなら、剣戟などの接近戦は、1つ大きな利点がある。

ただ、敵の身体から触手が飛び出してきて、俺に巻き付き、締め上げてきた。


「グッ……」


不意だったので、転移で、逃げることは出来ず、

俺と同等であるが故に、手間はかかったが


「ウオリャ!」


どうにか引きちぎって、一旦、間合いを取り、バーストブレイズを撃った。


(そういや掲示板で、邪神に接近したら触手にやられたとか書かれてたな)


 その後も、熾烈になっていく敵の攻撃を避けつつも、

バーストブレイズを撃ちつつも、時折、近づき、クラウで切りつけ

触手の回避の為、間合いを取ると言う事を繰り返し、

そしてある攻撃を転移で避けた直後


「なに!」


俺の体は、邪神の巨大な手に捕まれていた。敵の転移によるものらしく


《マスター、敵が転移を!》


とクラウが叫んでたようだが、手遅れだった。


 そして相手は、俺を握りつぶそうと力を入れてくる


「ウグッ!」


身体が、締め付けられ、転移で逃げようとしてもできないし、

当然かなり苦しい。骨まで軋んでいる様な気がした。

しかし、あるところまで来ると、力が入っては来なかった。


(生殺しのつもりか……)


死にはしないだろうが、かなり苦しい。


 しばらくこの状態が続いたと思うと、思いっきり地面に投げつけられた


「うわあああああああああああああああああああ!」


地面に叩きつけられ、ものすごい音がしたように思う。体に痛みが走り


「グハ!」


吐血し、口の中に血の味が広がった。


《マスター、大丈夫ですか》


「ああ……」


正直、少し辛かったが、大丈夫の範疇な気がした。

なお地面には、俺を中心に、大きなクレータが出来ている。

あと「修復」は働いているようだが、いまいち効果が薄かった。


 あと邪神は、俺を投げ飛ばしたと思われる格好を維持したまま

こっちを、睨みつけてるように見え、

なんだかすごく悔しそうにしているように思えた。


(もしかして生殺しじゃなくて、潰すに潰せなかったのか?)


考えてみれば体格差はあれど、俺と邪神は同等、

それ故か、容易に捻り潰すことは出来ない様だった。

しかし、容易にどうこう出来ないのは、俺も同じ事。


 その後も、こっちが攻撃を仕掛けていると、


《マスター、危な……》


とクラウが言い終わる前に、巨大な何かに当たって来て

吹き飛ばされる俺、どうも、さっきの様に邪神が転移でやって来て、

今度は平手打ちを受けたようだった。その巨体故にダメージは全身に来るし

地面に激突時の痛みもある。


「イテテテテテ……」


更に、


《マスター、追撃が来ます!》


直ぐに転移を使った。そして移動先で、複数の魔法攻撃が

俺が、さっきまで居た場所に、降り注ぐのを見た。


《すいません、最初の攻撃、私がもっと早く気づいていれば……》


と申し訳なさげに言うので


「良いんだ、気づいたところで、どうこうできる相手じゃないんだから」


それに、相手は巨体である故に、接近戦でも攻撃範囲が大きい。

加えて、転移まで使ってくるとなれば

こっちも転移が使えるとはいえ、避けきれない。

あと、魔法攻撃の雨あられに、気を取られてると言う事もある。


「それに、追撃に気づいただけでも十分だ」

《そう言ってもらえれば恐縮です》


 しかし、同等と言うか、フルパワーでも、このダメージ、普通の状態なら、

間違いなく即死である。


(そういや、ゲームじゃ、邪神の攻撃は、全て即死だったな……)


なお魔王ベルは、無傷で邪神を倒している。

まあ全て即死である関係上、無傷での撃破以外になく、

当然、当時、ネット掲示板では


「運営は、クリアさせる気がねえだろ」

「人間技では、攻略不可だ」


と言われ、叩かれていた。あとクリア特典が無茶苦茶なのは、

クリアできる人間が居ないと高を括った所為じゃないかともいわれている。


 さて、以降も攻撃場所を変えつつも、同じ攻撃方法を続けていた俺であるが


<アンタさぁ、同じ事、繰り返してないで、

ちょっとは、戦い方を変えたらどう?例えばアタシを使うとか>


するとミニアが


〔あ~ズルい~!〕


と声を上げつつも


〔でも、戦い方を変えるのは、私も同感。鎧には、

他にも専用魔法が有るはずだし、他の魔法を使ってみては、いかが?

ねえ、ご主人様〕


他にも、暗黒神専用の攻撃魔法もあるし、二人の意見もごもっともだが

俺が、同じ攻撃をしているのは、使い慣れていると言う事だけでなく

もう一つ、理由がある。ここでちょうどそれが飛んできた。

それは、小さな炎の魔法弾で、転移で避けたが、着弾した瞬間、

巨大な炎になる。


<これって、アンタが使ってた>

「そうバーストブレイズだ」


敵の攻撃に、バーストブレイズが加わる


《この魔法は、『漆黒騎士の鎧』の専用魔法のはず、何故》


俺は、敵の攻撃を転移で回避しながら、説明した。


「邪神は、受けた攻撃を、覚えて、自分の攻撃として使って来るんだ」


これが、邪神の最も恐ろしいところである。攻撃を受ければ受けるほど

攻撃のレパートリーが増えて行く事になる。

その事を話すと、クラウは


《まるで、アルティメットドラゴン……》


邪神と似たような性質を持つ、ドラゴンがいるらしい

なお覚えるのは魔法攻撃の他、飛び道具も含まれる。


「だから、フレイは使いづらいんだ。向こうが撃ち返してくるだろうからな」


攻撃方法を変えられないのも、相手の手数を増やさないため。

もし、手数が増える様な事が有れば、当然、こっちが不利になるからだ。

だからと言って、何もしないわけにはいかないから

コピーされるのを覚悟で、使い慣れているバーストブレイズのみ使っていた。


 ちなみに、拳や剣と言った。接近戦での攻撃は例外、

そうこれが剣による攻撃の利点である。

だからと言って、接近戦は、触手があるから、それ一辺倒と言う訳にはいかない。

あと、接近戦でも、強力な一部の技、コピーできるらしく、

多分、魔装の必殺技も該当するだろう。だから止めでしか使えない。


〔接近戦が、問題ないならさあ~、私を使ってよぉ~〕


とミニアが色っぽい口調で言って来るが


「お前は、気が散るからダメ!」


と断り、以降も、接近戦はクラウを使った。


 その後も、代わり映えのしない戦いが続いたが、

それでも、邪神に確実にダメージを与えてはいた。

しかし問題が発生した。それは、


(まずい、人が来る……)


周辺把握で、こっちに人が数人ほど向かってきている事に気づいた。

「遠見」を防止する魔法でも、暗黒神の気配は消せないのだから、

ベルとダンジョンの外に出ると決めた時から、

気配を追って、人が集まってくることは、予測できていた。


 ただ俺としては、直ぐに終わらせるつもりだったし、

まあ、もしもの事態を考えて、人に見られても大丈夫なように

ダンジョン以来、普段は着ない「白銀騎士の鎧」に着替えてはいた。

実際、その事態、邪神との戦闘が起きてしまっているのだが。


(どうする?)


 向かってきているのは、恐らく異端審問官か、暗黒教団、

あるいは、怖いもの見たさの野次馬か、

まだ遠方だから、到着までは時間的に余裕はある。

ただ今のままでは、到着までに邪神を倒して、

立ち去る事は、出来そうになかった。

もし、このまま、人が来たら、見られる事はともかく

巻き添えは、間違いないし、そうなったら、暗黒教団ならともかく

そのほかの人達は、流石に申し訳ない。


(移動するしかないな)


 俺は、飛行魔法と転移を併用して移動を開始した。

相手も、俺の気配は察知できてるだろうから、

迷わず後を追って来るだろうと思い、おびき寄せると言うよりかは、

半ばに逃げるような形になっていた。


(追って来てるな……)


周辺把握で、確認したら、案の定であったが、何故か徒歩である。

あと、ある程度、距離が離れると、俺が攻撃範囲から外れた所為か

攻撃はやめていた。


 ただ、何度か、転移で一気に接近し、叩き落そうとしてきて

転移でどうにか避けると言う事が有った。

しかし、途中からそれも無くなった。


(転移が使える割には、あまり……そう言えば)


ここで、思い出したのだが、邪神は、転移の回数に制限があって

一定回数、転移を使うと、暫く使ってこないという。

この点も、再現されているから、転移を控えめにしていたんだろう。


(まあ、それがどうしたって所だけどな……)


転移が使えなくなったからと言って、邪神が劇的の弱くなるわけじゃないのだ。


 やがて俺はある場所に、たどり着いた。


「ここは、ログエスの森か……」


かつて、俺が、この世界に来た時にいた森、そしてミズキと出会った場所。

人気のない場所を目指していたら、偶然にもここに来ていた。

更に森には、巨大な何かが通ったかのように、

木々が倒され、地面が抉れている場所が、道の様に続いていた。


(もしかして、俺が、通った跡か?)


それは森の奥から、丁度、クレーターあった方に続いている。

雨宮から、光明教団の人間の話として、

森に移動の痕跡があったと聞いたので、多分それだろう。


 俺は、思わずそれを辿っていた。どうせ行先は同じなのだから、

そして、岩山に辿りついた。そうミズキの隠れ家。

俺が殺された場所だ。

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