6「始まりの森で」
ミズキの隠れ家に、前には、無かった巨大な穴があった。おそらく、
俺がここを出る時に、開けた物だろう。俺は、ふと思い立って
着地し、そこから洞窟に入った。なお歩くたびに、足が地面にめり込んだ。
(何だろう、忌まわしい場所なのに、懐かしさも感じるな。
そんなに経ってないけど……)
中は、滅茶苦茶になっていた。ちなみに、雨宮が光明教団の関係者から、
聞いた話よると、クレーターの場所から、
移動の痕跡を辿って、光明教団の連中も、ここにたどり着いたそうだ。
その時には、既にこの状態との事で、たぶん俺の仕業だろう。
(そういや、俺の死体はどうなったんだろう?)
雨宮の話では、死体らしきものは無かったらしい。
なお、ミズキの隠れ家の話を聞いたのは、ジャンヌさんから、
俺の事を、聞かされた後との事。なおミズキには、まだ聞いていない。
あと雨宮は、死体は、俺がショックで暴走した際に、
消してしまったんじゃないかと、推測している。確かにありえなくもない。
ふと思い立って、周辺把握を使って、死体を探してみたが、見つからず
代わりに壁の中に隠された手のひらサイズの鉄の箱のような物を見つけた。
好奇心から、岩壁を破壊し取り出す。
「あっ……」
この時うっかり手でつかんだものの、連動スキルがあるのか、
それとも、かなり丈夫なのか、分からないものの、壊れる事は無かった。
「ふぅ~~~」
その事に安堵したが
(つーか、これミズキの持ち物だよな。)
借用の儀から得た情報の中に、この箱の事もあった。
(なんで、アイツの物に気を使わなきゃいけない)
と思いつつも、あとで届けてやろうと一旦、宝物庫に仕舞った。
(大事な物だろうから、借りになるだろうし……)
この箱が彼女にとって、大きな存在であると言う情報はあったが
具体的にどう言う物なのかは、記されてなかった。
ここでクラウが
《あのマスター、ここは一体?》
とクラウが訪ねてきたので
「全てが始まった場所だ」
あの時、ミズキに会わなければ、ここでアイツのコーヒーを飲まなければ
今、こんな事にはならなかったんだろうな。
まあミズキと会わなければ、俺は森で魔獣に食われてただろうし、
雨宮に、再開する事も無かった訳だから、
結果的に良かったのかもしれないが、アイツに感謝する気には、なれない。
(アイツのコーヒーの事を思い出すと、喉が渇いてきたな)
俺は、ドリームボトルを取り出す。コイツには「連動」が付いているから
フルパワーで手にしても、壊れることは無い。
あとスキルで、中のジュースは、新鮮なまま保たれている。
邪神が、来るまでまだ時間があるから、一息つこうと思ったが、
ボトルを取り出した時、閃いた。
(そうだ、これを使えば……でも、コイツもコピーされる可能性が……)
同時に、もし倒せなかったらという不安もよぎる。
その時は、俺が、窮地に陥る。結局、このままでと思ったが、
しかし、人が集まってきているわけで、取り敢えず移動はしたが、
いつまでも、この状況を続けるわけにもいかない。
(こうなったら、勝負に出るか)
とにかく、人がやって来る前に、早期に決着を付けなければいけない。
一旦、ジュースを一杯飲み、俺は腹をくくって、外に出た。
すると邪神は、大分、近づいてきていて、攻撃が再開された。
さっきと同じ様に、転移で回避しつつも、今度は暗黒神専用の攻撃魔法を使った。
どの魔法も、長ったらしいので、名前は割愛させていただく。
先ずは、火炎弾、冷凍弾、投石、真空刃、光弾、暗黒弾と
各種魔法属性による砲撃の組み合わせ、つまりはメテオレインだ。
そしてバーストブレイズも忘れない。
邪神は、巨体故に攻撃判定も広いが、当たり判定も広く
その上、転移が出来ないと言う事もあって、こっちの攻撃が、
見事なくらい命中する。暗黒神専用とは言え、どれも弱めの魔法だが、
「キシャアアアアアアアアアアアアアアアア!」
と苦しそうな咆哮を上げるので、効果はあるようだが
喜んではいられない。すぐに倍返しとなるからだ。
実際、この状況をしばらく続けていたが、途中から、
邪神の攻撃に、俺の攻撃をコピーしたものが加わって来る。
(次に移行だ)
更に強めの魔法を使う。火炎放射、ウォータージェット、
敵の足元への溶岩噴出、竜巻、雷撃、
ベルが使っていたエクサダークネス似た闇の攻撃など、
どれも、敵の攻撃を打ち消しながら、敵に命中し、効果も絶大の様だ。
邪神は、攻撃をすぐにコピーするとは限らないらしい。
実際、バーストブレイズは、時間がかかっているし、
さっきまでの攻撃だって、直ぐには返してこなかった。
しかし、コピーに掛かる時間は、はっきりしていない。
攻撃の威力の強弱で、強いほど遅いという傾向があるが、
必ずしも、そうじゃない所がある。
最初から強力な攻撃を使ってコピーされてはたまらないので、
弱い攻撃から始まって、だんだん強くしていくと言う事にしていた。
強くするタイミングは、相手がコピーして、使ってくるあたり、理由は特にない。
とにかく、人が来る前なので、事を終わらせる必要があったので、
とにかく、出し惜しみの無い戦いである。
暗黒神だけでなく、同じく普段あまり使わない鎧専用魔法もバンバン使う。
ただ向こうも、同じようで、魔王の時に使ってこなかった攻撃も、
どんどん使って来て、その応酬で、戦いは激化していく、
これは、もはや戦争だ。ここの最前線の戦場、体格差はあるが、
たった二人の戦争だ。
そして、戦いが続き、時間が経てば経つほど、
こっちの攻撃がコピーされて、手数が増えていき、
「グアッ」
増えていく攻撃の前に転移でも避けきれず、敵の攻撃が被弾し、
地面に叩きつけられた。もちろん一度や二度ではない。
「やばっ!」
叩きつけらえれば、必ず追撃がやって来る。毎回、転移で避ける。
「ク……」
そして身体のあちこちに痛みが走る。
鎧が原形を保っている割には、ダメージを防ぎきれていない上に、
「修復」が間に合ってない。
ただ向こうも、こっちの攻撃で、見たところボロボロになっていて
「周辺把握」で確認したところ、弱まってるのは、確かだったか、
止めを刺せる段階かは分からない。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」
ダメージの所為で息も荒くなる。それは邪神も同じか、肩で息をしているようだ。
こんな戦いは、初めてな気がする。デモスゴードの時は辛かったが、
プルパワーになってからは、直ぐだったし、ダンジョンの時は、
仲間がいた。今回は一人な上、フルパワーで、この状態
(もう俺には、後がない……)
そんな気がした。
(決着をつける……)
そう決めた俺は、更に強力な、専用魔法の中でも上位魔法を発動させる。
俺の周辺に、炎のワイバーン、水の龍、溶岩の巨人、風の巨鳥、闇の悪魔
光の天使が現れる。疑似生物魔法って奴らしい。
「疑似生物魔法」
疑似的な生物を生み出し使役する魔法
生物は、ある程度、自立起動はするが、使用者の言う事を聞くロボットのような物で
その体も、魔力で構成されているので、長くは存在することは出来ない。
見た目的には、巨人以外は、それぞれの属性のエネルギー体が
生き物の形をしているという感じか、巨人だけは溶岩である。
そいつらは、邪神の攻撃をもろともせず、向かっていき、
ワイバーンは口から炎、龍は水色の光線、
巨人と悪魔は、徒手空拳、巨鳥は、真空刃、天使はレーザー光線で、
一斉に攻撃を開始。あとこいつらは、身体に触れるだけでも、
ダメージを与えることが出来るらしい。
これに加えて、ベルが使ったのと似ている空から降り注ぐ光魔法と、
巨大な闇の魔法弾。そして強大な火球など、強力な魔法を、どんどん使いまくった。
そしてコピーされたからと言って、効かなくなるわけじゃないので、
これまで通りの攻撃を行う。とにかく総力戦で、畳みかけるつもりだった。
「!」
もちろん、現実は甘くない。邪神も強力な攻撃を仕掛けてくる上、
即座ではないが、かなり早い段階で、上位魔法がコピーされ、
俺が作ったのと同じ疑似生物が現れ、俺のとぶつかり合って、相打ちとなった。
そして、コピーされた上位魔法が次々と、俺に襲い掛かって来た。
これまでコピーされた分と、邪神自身の魔法も加わり、
向こうも総力を挙げて来て正に倍返し。
こっちの魔法でも、打ち消しきれず、転移でも避けきれず、またしても被弾
「グギャアアアアアアアアアアア!」
これまで、被弾から、地面に落下は、何度もあったが、
今回は特にひどく、強烈な衝撃と痛みが走り、俺の視界が真っ白になって、
その後は覚えていない。
《マスター!マスター!》
気づくとクラウの声がしていて、俺は地面に倒れていた。
どうも気絶していたようだ。そしてクラウは、地面に刺さる形で、側にあった。
《大丈夫ですか》
「ああ……」
と言いかけたが、
「痛っ!」
起き上がろうとすると、身体に痛みが走った。鎧もボロボロで
どうにか原型を保っているという感じだ。
《マスター!》
「大丈夫……」
辛いが、どうにか堪えて立ち上がり、クラウを手にし身体を支える。
「ところで、俺はどうなって?」
《丁度、15分ほど、気絶していました》
「邪神は?」
《マスターが、被弾された後は、攻撃をやめて、大人しくしています。
どうも向こうも、向こうで辛いようですね》
「辛いか……」
見た目でも、邪神の体がボロボロなのは、分かった。
(もしかしたら、行けるかも)
俺は、宝物庫から、ドリームボトルを取り出した。
《私も、行けると思います》
とクラウは、賛同しつつも
《ただ、念のため……》
クラウはある提案をし、俺は、それに乗った。
その後、「周辺把握」で、確認したが、こっち向かってる奴らは、
やっぱり、光明教団と暗黒教団の関係者だったようで、
途中で揉めていて、ここからずっと離れた場所で足止め状態となっている。
(巻き込むことは無いよな……)
初めて行う事だから、少し不安は残るものの、俺は右手にクラウを装備し、
左手に、ドリームボトルを持ち、空に掲げた。
(オープンパンドラ……)
空に、青く輝く球体のようなものが、現れ、大きくなっていく。
「オープンパンドラ」
ドリームボトルが持つ超強力な攻撃スキル。
無属性の巨大な魔力弾で、防御や攻撃系の魔法、
スキルを無力化する性質もあり、
従って防御や、攻撃による打ち消しは不可能である。
ただオープンパンドラ同士がぶつかり合った場合は例外。
なお、ダンジョン内で使用すると、魔獣は倒すが
ダンジョン自体は、破壊することは無い。
「連動」の影響で、強化され、かなりの威力となるだろうが
能力調整下でも、アステリオスを一撃で倒せるほどの威力があって
しかも、ダンジョンに影響がないのを、後になって知って、少し後悔した。
なお、発動に当たっては、
専用魔法と異なり、ボトル自体のスキルゆえに、体力消費は無い。
ただ回数制限があり、一回限りで、一度使うと、一年は使えない。
(そういや、ベルが邪神を倒したのも、レアアイテムの専用攻撃で、
『ドガドガバンバン』だっけ)
ゲーム中最大の威力を誇る攻撃だが、随分ふざけた名前だというのは覚えている。
なお、ベルは、これで止めを刺したが、同じ攻撃を使ったプレイヤーは、
他にもいて、彼女以外、敗北しているから、この攻撃があったから、
勝てたという訳ではない。
オープンパンドラは、強力なので発動までに時間はかかる。
そして、邪神がこっちの状況に気づいて、攻撃を仕掛けてきたが
準備中は、強力な防御結界は張ってくれる。
しかも、「連動」で強化されているので、邪神の攻撃を、見事に防いでくれた。
すると、諦めたのか、直ぐに攻撃が止んだ。
だがヤツは胸のあたりで、似たようなもの作り出す。
「あれは!」
《こっちの攻撃スキルと、同質の物です》
邪神も、オープンパンドラの様な物が使えるようだった。
「まずいなあ。」
オープンパンドラは、オープンパンドラで対抗できるからだ
正確には、別物なのだろうが、同質となると油断は出来ない。
不安が、脳裏をよぎったが、幸い発射準備は、こっちの方が、早く。
準備完了と共に、慌てながらも、ドリームボトルを振り下ろす。
すると、オープンパンドラが、発射されたと言うか消えた。
オープンパンドラの移動は、転移で次の瞬間には、
邪神に命中し、巨大な爆発が起き、目の前が真っ白のなって、
物凄い音が聞こえる。なお防御結界が、
爆発から使用者を守ってくれているので、俺には影響はない。
爆発が収まると、防御結界が消える。
「やったか」
爆発の影響か、「周辺把握」がうまく働かない。
ただ、遠方にいる人間は、爆発が届かなかったので無事なのが
確認は出来たが、肝心の邪神は、ノイズがかかったみたいになって
分からなかったが
「まだ生きてる……」
邪神は、無事とは言い難いが、まだ生きていた。
《おそらく、先ほどのオープンパンドラもどきで、
威力を一部相殺したと思われます》
とクラウが説明した後、
《マスター!》
「ああ、分かってる」
俺は、転移で接近、そして、邪神を切り付けると、再び目の前が真っ白になった。
そう、オープンパンドラの発動と共に、クラウの助言で、
光刃絶斬も発動させていた。そう倒せなかった時の保険であったが、
功を奏し、光が消えると邪神の姿は無かった。
今度は「周辺把握」は働いていて、邪神の消失を確認した。
「やったか……」
勝利の喜びみたいなものはない。あるのは脱力感だけ、クラウを鞘に納めた後、
このまま、地面に座り込みたかったが、
同時に、遠くにいる連中も、揉め事を終え、こっちに向かってきていた。
連中が、来る前に、この場から離れなければいけない。
俺は直ぐ、「能力調整」を使い、
その後、宝物庫から車形態のカオスセイバーⅡを取り出し、
ボロボロになった鎧をブレスレットに変えた後、車に乗り込み。
クラウは助手席に置き、発進させた。
行き先は、考えずに、とにかく、遠くを目指して、車を走らせた。
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