5「幸せが一転」

 あの二人を捕まえるのは、少々大変でした。特にあのリリアと言う娘、

まさか、あのような力があるとは、お陰で、後始末が大変でしたが、

その分、捕まえた後の拷問には、力が入ったと言うもの。


 どんな事をしたかは、割愛させていただきます。

やってる時は、楽しいんですけど、思い出したら、

気分が悪くなってしまいますので。

しかし、あの二人、なかなか強情で、心を折ることが出来ないまま、

つい力が入りすぎて、殺してしまいました。

残念だと思いましたが、仕方ない事と思っていました。二人が蘇るまでは。


 なぜこのような事が、起きるか、二人は、話してくれませんでしたが

休憩の為、外の出かけた時、ある人と再会し、その人から興味深い事を聞きました。


 その人が言うには、二人は、暗黒神なるもの契約したとの事で

不死身で、その代償として、二人は「絶対命令」なるスキルで

支配されているそうで。

あと暗黒神というのは、私と出会った神とは、異なる存在で、

今この世界の誰かに、憑りついているのだとか。

しかも、暗黒神は、なかなかの演技力だそうです。


 殺せないというのは、これまた残念な事ですが、しかし、身体は不死身でも、

心はそうではないでしょう。

私は、二人に、蘇るたびに、きつい拷問を繰り返しました。

やってる時は、楽しくても、一休みしている時は、自分の所業が、

恐ろしく感じます。


 でも、やらずにはいられません。その心を破壊しつくすまで、

二人が廃人になって、死んだも、同然にするのが、私の望み。

それにしても、廃人となった二人を想像するだけで、興奮してしまいます。

全くもって、私としたことが、はしたない。




 家に戻ってきた俺は、壁の前にいた


(この壁の向こうにダンジョンが……)


壁を軽くたたくが、特に反応はない。

物置の中も確認したが、何も無かった。そしてクラウも


《何も感じませんね》


との事だった。


 さて、二人かいなくなった。この部屋、


(静かなもんだな)


まあ以前の状態に戻ったわけだが、

あの二人、居たらいたで、喧嘩ばかりで、うるさくて気が滅入るが

急にいなくなると、妙に寂しさを感じた。


(何、考えてるんだろうな、俺。)


一緒に暮らし始めて、そんなに経ってないのに、何でこんなこと思うのか

あの二人は居なくても、別にいいし、

ミズキは掃除担当だが、それだって自分ですればいいはずなのに。


 でも、一番の不安は、二人が突然いなくなったことだ。

裏で良からぬことが起こっている様な、確実に何か起きている。

それに、今も壁に立てかけてあるミズキの杖が、余計に俺の不安を掻き立てる


(もしかしたら、あの時のクラウが感じた視線の主が、関わっているのか)


まあ、暗黒神の力があれば、大抵の事、どうにか出来るが、

それでも、この不安感は、拭えなかった。


(今は様子見か)


結局、その日も、仕事に行く気にはなれなかった。


 そして翌日も、どうも仕事をする気にはなれなくて、家で休んでいるとイヴが


「ベル様が、いらしています」

「えっ!」


彼女は、俺の家は知らないはずだった。しかし、玄関に行くと彼女がいた。


「どうして、俺の家が?」

「ギルドの方に、尋ねたら教えてくれまして」


脳裏に、受付嬢の顔が浮かんだ。彼女じゃないかもしれないけど、

個人情報は、きちんとして欲しいなと思った。


「もう三日も、ギルドに来られてなかったので、心配で……」


言われてみれば、この三日間、ギルドに、行っていない。

そう言うのは、俺としては珍しい事ではないとは思うが、

本気で、心配そうにしているから、その事は言わなかった。


「上がっても良いですか?」


と言われて、思わず


「ああ……」


と答えてしまう。すると、ベルは少し強引な感じで、部屋に入って来た。

言っておくが、別にやましい事は、考えてはない。ただ流されただけだ。


「食の準備はまだですよね」


食事は、イヴに任せているが、彼女はまだ作っていない。


「料理、作って来たんですよ」


彼女は、収納空間から、タッパーの様なものを取り出した。

中身は


「角煮か」


俺の好物である豚の角煮。正確にはビースオークの肉だそうだが

しかも、煮卵付き。

当然、それを昼食とした。ちなみに、家には、

俺たちの世界から持ち込まれた炊飯器を元にしたマジックアイテムがあって

それで炊いたご飯があった。


 彼女の作った角煮は、雨宮ほどではないが、美味しかった。


「おいしいよ、この角煮。あと煮卵も」


すると彼女は、


「喜んでいただけで、良かったです」


嬉しそうな顔では笑顔を見せる。

こういう時は、俺もなんか料理で、お礼したいなと思うが

残念な事に、俺は、料理が出来ない。

こればかりは暗黒神の力でもどうにもならない。


 昼食後はと言うと、


「そう言えば、お掃除とか、されてます?」


言われてみれば、ミズキが居なくなったんで、三日間掃除していない。


「そういや、ここ三日間は、掃除してないな」


と答えると


「それじゃあ、お掃除しますね」

「それはさすが、悪い」

「いいんです、いいんです」


と言って、半ば強引に、掃除を始めてしまった。

流石に悪いので、俺も、手伝った。


 掃除が終わると二人で、色々と世間話をした

これまで、一緒に仕事をしてきたせいか、緊張する事もなく

話題が妙に合うので、話が弾んで、楽しい時間を過ごした。

夕方になると、彼女が夕食を作ってくれた

有り合わせの食材で作ったものであったが、美味しくて

食事の時間も、談笑したので、楽しい夕食であった。


「じゃあ、もう遅くなるんで帰りますね」


 夕食後、少し談笑した後、彼女は帰って行った。

彼女と過ごした時間は、俺の不安を、忘れ去れるほどの、

楽しい物であった。


(恋人と過ごすって、こんな感じなのかな……)


ふと、そんな事を思った。俺には最も、縁遠い話だ。


 だけど、この日がベルを、まともな目で、見る事の出来る最後の日であった。

翌日、俺は、雨宮やミニアが、危惧していた彼女の本性を、垣間見る事になるのだ。


 その日、今日はギルドに行こうと、家を出て、少し歩いて、

いつもの路地裏に向かう途中、


「うわっ!」


以前と同じ、突然、人が現れ、避けれず。思いっきりぶつかり、

二人そろって尻もちをつく。しかも、その相手も、


「リリア!」

「なんで、また……」


そんな彼女、服、普段来ているメイド服だが、それを抱えてはいたが

着てはおらず、腕には見慣れない腕輪、

そして以前と同じく、直ぐ転移で、居なくなった。


「待て!」


と声を掛けたが、もう手遅れであった。


 俺は大慌てで、interwineに向かう。そして店に着くと、丁度、客の少なく、

ちょうど雨宮の手が空いていたので、事情を説明し、雨宮の自室に移動し

例の魔法を使ってもらった。


 そして今回、モニターは二つに分割する形で映し出された。

これは、二人が、別々の場所にいるからと思われるが

片方は、ミズキの方を示しているのか、この前と同じく壁が映し出された。

問題は、もう片方、リリアの方だった


「何だこりゃ?」


映像が安定せず、とにかく目まぐるしく変化していて、

見ているだけで、目眩を起こしそうだった。


「多分、彼女が、転移を繰り返してるんだ」

「なんでまた……」

「何者から逃げてるとか」


実際、雨宮の言うとおりであった。


 やがて映像が、安定して、リリアの姿が映し出された。

その時、彼女は路地裏のような場所で、

丁度、メイド服を着終えたという感じで、そのまま、物陰に身を隠した。


「ここは……」


奇しくも、俺が、何時も鎧を着るときに使っている路地裏であった。


「ちょっと、行ってくる」

「俺も行こう」


雨宮は、魔法を解き、二人で路地裏へと向かった。






 私とした事が、少し目を離した隙にリリアと言う娘に、

逃げられてしまいました。

転移を使っているようですが、逃がしはしません。

彼女には、スキルを抑制する腕輪を付けてますが、

これが発信器の役目も果たしているのです。

まあ、これが不具合を起こして、

あろう事か、転移を使えるようになってしまったのが、逃亡の原因ですが


 しかし転移を使う為、一筋縄には行かず、暫く追いかけっこを

繰り返す事となりましたが、転移にも限界があるようです。

ある時、彼女の限界を察した私は、少し悪戯心を、抱いてしまいました。

だから、彼女を発見しても、直ぐに声を掛けず、

安心しきった所を襲おうと思いました。

そして逃げた罰として、一度死んでいただきましょう。


「みい~~~つけた……」


少し経ってから、路地裏の物陰に隠れていた彼女に声を掛けた時の

驚き用と言ったら、もう、おかしくて、おかしくて。


 しかし、これが、まさかあの様な自体を起こすとは

思いませんでした。




 路地裏の近くに来たのに、道が見つからない。


「あれ、確か、この辺のはずなのに」


雨宮も


「確かに、道があったはずだが……」


するとクラウが、


《マスター、右の壁は、幻です。》


右側を向くと、そこには、壁があって、一見、おかしなところはないが


(待てよ。ここに道があったはずだ)


雨宮も


「道は、この辺だったぞ」

「クラウも、この壁は幻だって」


俺達は、自然と、お互いに頷き、壁へと向かって行く。


 壁は、クラウの言う通り幻で、実体がなく、すり抜けることが出来た

その先で行われていたのは


「なっ!」


俺達の目の前で、剣で首を渇き切られ、血を吹き出しながら、

倒れるリリア。そして、剣を手にしていたのは


「ベル……」

「和樹君……」


更に、クラウが


《マスター、気配が変わっています。今の彼女は、

あの夜、私たちを見ていた奴の気配です》


ベルが、あの時に、俺に視線を向けていた狂気的な好意の持ち主との事だが

気配が変わってると言うのは、どういう事だろうか。


「これは、違うんですよ。ちょっとした悪ふざけと言いますか」


とベルは、この場を取り繕うとしていた。


「これは血糊で、この人も、死んでないんですよ」


彼女は焦っている様な感じだった。


 一方の俺は、何が起こってるか分からず、軽く混乱状態であった。

ここでリリアが、起き上がって、というか蘇って来た。


「ほら、生きてるでしょう」


とベルは言うが、俺達は、リリアに、駆け寄る。

なお掻き切られた首は元に戻っている。


 そして俺は


「リリアは、今日までどこに行ってた。何があった?」


と聞くと、リリアは、おびえた様子で、震える声で


「何処かは、わからねえ」


ベルを指さしながら、


「コイツが、家の中に突然現れて、アタシと無能に襲い掛かって来て、

抵抗したけど、敵わなくて、どこか分からない場所に連れてかれて」


その後、ベルに、ここに書くのも憚られるほどの

聞いていて気持ち悪くなるくらい拷問を受けた。

彼女曰く、ジムよりも強烈な物との事。

そして、捕まってる間、妙な腕輪で転移を封印されていたが

急に出来るようになったので、隙を見て、彼女だけ転移で脱出し、逃げ回っていた。


 ベルは、


「まさか、その人の話を信じるんですか?」


と言うが、


「彼女は、特別なスキルの所為で、俺の質問には、正直に答えるしかないんだ」


と俺は答える。


「特別なスキル……まさか『絶対命令』……」


と言って、ベルの表情が強張り、そして俺の方を睨みつけながら


「そうか貴方が、暗黒神……」


すると、彼女は、俺に剣を向け


「返してもらいますよ。和樹君を」

「何、言ってるんだ。君は?」


と雨宮は言うと


「雨宮君、居たんですね」


この時点まで、雨宮の事に気づいていなかったらしい。


「気を付けなさい。その人の中身は、貴方の幼なじみではありませんよ」


と言ったのち、再び怖い顔で俺を睨み、


「まあ今日の所は、引かせていただきます。色々と準備がありますからね。

あとその娘は、返しましょう。ですが、私は貴方から、必ず和樹君を取り返す!」


宣言すると、彼女は、転移を使ってその場から消え、あと、壁の幻も

彼女の仕業だったのか、一緒に消えた。


「何だったんだ」


と思わず呟くと、リリアが


「知らねーよ!」


と言い。雨宮が


「なんだか知らんが、彼女、大きな勘違いしてる気がする」

「それは何となくわかる」


同時に、彼女を、放っておいたら、不味いと言う事だけは、俺でも分かった。

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