4「消えた二人」

 事の発端は、アイツらバカなイタズラから始まった。

いつも通り、目を覚ます俺、部屋にかけてあるカレンダーを確認する。

この世界では、俺たちの世界から持ち込まれたグレゴリオ暦が、広く使われている。


「土曜か」


 ベルと組むようになってから、仕事の量が、増えた気がするが

それでも仕事は、不定期で、週の半分を休むこともあるが、

決まって、土日は休むことにしていて、ギルドにも足を運ばない。

これは冒険者は、この前のダンジョンの様にイベント的な物がない限りは

土日働かない、働く奴もいるが少ないという事に便乗したのである。

と言っても、最近話を聞いて、そういう風にしただけであるが。


(今日も、適当に過ごすか)


なお昨日も、仕事は無かった。


 時間を確認すると、朝の八時で、朝食は出来てる頃で、朝に弱いリリア以外は、

皆起きてる時間。俺はベッドから起き上がり、パジャマ姿のまま、

リビングと一続きになってる食堂に向かった。


「おはよう、パパ」

「〇△◇!」


 驚きのあまり、自分でも訳の分からない声が出た。

そこには普段は寝てるはずの、リリアがいた。その事には別に、驚かない。

朝が弱い奴でも、早起きする事はある。

そして彼女は、いつもの様に栗色の髪を、短めのポニーテールにした髪型であったが

問題は、彼女の格好にあった。


「異界でも、こう言うのを男の夢って言うんだろ」


なお、リリアには俺が異界人である事も、元男である事も知られている

そして、彼女は俺の前で一回転する。思わず、目を背ける俺に


「いいねえ、その仕草、あんな事、言ってても、やっぱ、てめえは、うぶだな」


彼女の方を一瞥すると、意地の悪い笑みを浮かべていた。

俺は、彼女から、目を背けると、テーブルに向かう。

 

 テーブルには、手を付けていない朝食と、空の皿が二つ、

ミズキとリリアの分で、既に朝食を食べ終えたようであった。

俺は、朝食の前、いつも座ってる席だが、そこに座る。

そして、テーブルを挟んで、ミズキが座っていたのだが

彼女は不機嫌そうな顔で、顔を赤くして


「お前もか」

「私だって不本意ですよ。でもあの女が、貴方が、うぶだから、

この格好すれば、目のやり場に、困って辛いだろうって……」


確かにその通りで、俺は二人から、目を背けながらも、朝食を食べ終わる。


「お下げしてよろしいですか?」


とイヴが、声を掛けてきたので


「ああ……」


と返事をしつつ、彼女の方を見ると


「なんで、イヴまで……」


彼女も、同じ格好をしていた。


「リリアさまが、ご主人様は、このような格好が、お好きだと……」

「おかしいって、思わなかったのか」


彼女は、淡々とした口調で


「過去の主人の中には、この姿を好んだ方が、男女問わず居ましたので、

ご主人様も、そうかと……」


ここで、リリアが


「ホントは、うれしいくせに、」


とバカにしたような口調で言って来た。確かに、強く否定できない。


「最初は、変態かと思ったけど、一緒に暮らしてきて、分かったよ

てめえは、異性を知らない、うぶだってな」

「だったら、何なんだ!」


顔が火照っているのを感じる。多分、俺の顏、真っ赤なってる。


「そう、怒るなって」


と言いつつも、意地の悪い笑みを浮かべている。


 ここで、ミズキが


「ああ、もう!」


と声を上げて、彼女は、どこから衣装を、取り出し

俺に突き出しながら


「貴方も、着てください」

「はぁ?」

「貴方だけ、ズルいです!さあ!」


物凄い剣幕で言ってきたので、後で思えば、絶対命令で、突っぱねる事も出来たが

この時は、その考えに至らず、押し切られてしまい。

着替える羽目に、


(恥ずかしい上に、男の俺が、こんな格好すると、なんか痛々しいな)


と思いながら着替え、


「どうだ、これで満足か!」


と二人に見せつけると、押し付けてきたミズキは、

顔を余計に赤くし、目を背ける。一方、リリアが、急に悔しそうな顔で


「ずるいぞ、てめぇ、何でそんなに、かわいいんだよ!元男の癖に!」


ここで、俺は、正確には両性具有だが、

見た目的には女性の姿をしている事を思い出す。


「くそ、負けた……」


と彼女が悔しがる姿に、溜飲が下がったが、

それ以上に、恥ずかしさが、込み上げて来て


「もう、いいだろ。全員、着替えてこい」


イヴは、すんなりと従うが、二人は、そうもいかないと思うから

従わなければ、絶対命令を使うつもりだったが、

二人とも、すんなり従い、着替えの為、各自の部屋に戻った。


 俺も、自室に戻り、普段の格好に着替え、

何とも言えない気分のまま、その日を過ごし、翌日も余韻が残っていたが

これが騒動に切っ掛けとなるのであった。






 何てこと、あの二人、和樹君を、あのような姿で誘惑して、あまつさえ、

あの様な格好をさせるとはなんて羨ましい……いえ、汚らわしい。

まあ、イヴちゃんは、目の保養でしたが、


 それにしても、和樹君も、ああ言うのが、好きなのでしょうか、

表向きは、拒んでいましたが、私と和樹君が、結ばれた暁には

試してみましょうか、その際はイヴちゃんも一緒に、

あと、和樹君にも、着せてみるのもいいでしょう。


 とにかく、和樹君の前で、あのような姿を見せていいのは

私と、ついでにイヴちゃんだけ、

そして和樹君に、あのような姿をさせていいのも、私だけなんです。

どす黒い感情が、私の中で膨れ上がっていくのを感じます。

あの二人は、許せません。

いずれ、辞めてもらうつもりでしたが、もう我慢ならないのです。

今すぐ、彼の前から消えてもらいます。


 ですが、ただ消えてもらうだけでは、私の気が済みません

あの二人には、地獄の苦痛を味わってもらいましょう。

それこそ、死にも勝る苦痛です。

苦痛の果てに、後悔にまみれながらの死、

ああ、何という事でしょう。奴らの、その姿を想像するだけ、

私とした事が、興奮してしまいます。


 さて準備に取り掛かるとしましょう。あの二人に、ふさわしい地獄の準備を。




 月曜日を迎えて、その日は、ギルドには、ベルの姿は無く、

その日は、近場で、難度の低い仕事を見つけ、その日のうちに、

仕事を済ませた。そして家に帰ってくると、二人の姿が無かった。

この時間帯的には、いつも家にいるのだが、


(ちょっと出かけてるだけだろう) 


そう思ったが、その日は、帰ってこなくて、イヴに聞いた所、

二人は、イヴが昼過ぎに食糧の買い出しに出かけた時は、

居たが帰ってきた時には、居なかったとの事。

あとなぜか居間に、壁にミズキの杖が立てかけられていた。


 翌日、雨宮に相談したうえで、一旦、様子見をしていたが、

仕事に行く気にはなれず、家に一日いたが、その日も帰ってこなかった。

あの二人は、絶対命令で、日帰りまでの外出は出来るが

それ以上の、外泊を伴うものは、俺の許可なしではできないし

当然、家出もできない。


 つまり、あの二人が、家に帰ってこないと言う事は、

本人の意思では、どうにもできない状況にあると言う事だ。

更に翌日、再度、雨宮の元に、相談に行った。

人前で話せない内容に、なるかもしれないから、雨宮の自室で、話をした。


「お前から、話を聞いた後、光明教団に、探りを入れてみたが、何も無かった。

リリアはともかく、ミズキの方は、審問官が捕まえたと言う事は、なさそうだ」


 あの二人は、俺のと契約で不死身であるから、

その身の安全は、全く心配ないし、そもそも心配する義理も無い。

ただ、彼女たちを介して、俺が暗黒神だと、ばれるのが心配な訳である。


「まあ、もし心配なら、例の魔法を使ってみるか?」

「お前の娘が作った新しい魔法か?」


 そう、契約の従者から、主人を割り出す魔法だ。正式名は長ったらしいから、

割愛させてもらうが、これを主人に使うと、逆に従者の位置がわかるという。

この魔法は、教団の元で秘匿されていて、いざ使う際に、

教えると言う事になっていたが、最近になって、練習名目で、

雨宮を含めた信頼のできる大魔導士に開示された。

 

 それを聞いた時には


「もっと早く開示してくれよ」


と愚痴ってしまった。開示が早ければ、もっと楽に事が進んだかもしれない。

まあ、ミズキが早く見つかったからって、

暗黒教団とやり合わなかったかと言うと、そうでもないだろうし

リリアの事だって、結局、ダンジョン行きって事になっただろう。


 早速試してみる事に、と言っても、俺は何もしなくていいらしい。

雨宮は、俺に手をかざし、強力な魔法なので、呪文の詠唱を行う

そして魔法が、発動する。すると、宙にモニターの様なものが浮かび上がる。

ここに結果が映し出される。


 まずは、国の全景と思えるものが映り、拡大され、

ナアザの町の全景が表示された。どうやら二人は、まだこの町にいるようだった。

その後は、更に拡大され、ある建物が映し出されるが


「ここ、俺の住んでるアパートじゃ」


やがて、俺の住んでる部屋が映し出され、

そして、各自の寝室等に通じる廊下が、映り、最後に壁が映って、

それ以上は変化が無かった。


「失敗だ……」

「えっ?」

「これ以上先には追跡できない。」


そして、映像は消えた。


「どうも、まだ慣れてないからな。すまん」


と雨宮は、申し訳なさげにするが、

最後の映像が壁と言うのが不気味だった。


 そして、雨宮は


「この魔法を、伝えに来た教団の関係者が言ってたな、

出来たばかりの魔法だから、防ぐ方法は無いんだが、

ダンジョンに入られると、それ以上には追跡できないそうだ」

「まさか、あの壁の向こうにダンジョンがあるなんて言うじゃあ」


場所的に、あの壁の向こうは物置のはずで、

しかも、宝物庫があるから、何も置いていない。


「他国じゃ、家の中にダンジョンが出来たってケースはある」

「そんなのあるのか?」

「まあダンジョンなら、入り口があるはずだ。

この魔法は、入り口までは追跡するらしいし、やっぱり慣れてないんだな」


 その後、店が忙しくなって、雨宮の手が必要になるまで、

練習も兼ねる形で、何度も魔法を使ったしかし結果は同じで

不気味な気分だけが残った。

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