3「そして現在」

 さて、冒険者となった俺だが、アリバイ作りのために始めた事

と言う事もあって、ほとんど、仕事はせず、グータラ生活なのは、御存じの通り。


 まあ、簡単な仕事は少々受けていたのだが、

イヴの一件の所為で多くの仕事を受けたせいなのか、

少ないながら以前からの事もあるのかは分からないが

いつの間にか、俺は黒騎士と呼ばれるようになった。


 由来は、あの鎧の所為だが、バカにしたような言い方される。

文字に起こすなら、黒騎士(笑)と言うところか

見た目、と言うか鎧は立派な割には、初心者向けの依頼しかしないからだそうだ。

話を聞いた時は


(一応、俺は初心者なんだから、別にいいじゃないか)


と思った。


 ただ、そんな依頼でも、依頼者からすれば切実だからか

俺の仕事で、関わった近隣の村人たちは敬意を込めて呼んでくれる。

雨宮も、その辺の事情が分かるのか、バカにはしない。褒めてくれる

でも俺の頑張りじゃないから、褒められると心苦しい。


「もっと難度の高い依頼を受けてみてはいかがです。この前みたいに」


と一仕事終えて、書類を提出した際に、登録の時から馴染みの受付から言われた。

ディードラゴンの一件の事を言っているようだ。

ちなみにあれから一か月たっている。


「あれは特別、と言うか俺、全然活躍してないし」

「でも、これまでのご活躍を見る限り、十分いけると思いますけどね。

それに、このままじゃランクは上がりませんよ」


「冒険者ランキング」

ギルドが、冒険者の実績を基に、ランキング付けし

上位の冒険者を、大々的に公表する事。


 上位になれば冒険者の名が売れると言う事。

そうなれば、冒険者指名での依頼が来るようになり

中には貴族と言った有力者から依頼も、そこからお抱えになったり

更には、近衛兵のスカウト、そこから王族との繋がりができる事も。


 冒険者のランクを上げる事は、正に立身出世の道。

でも俺には、そんな気はない。そもそもアリバイ作りなんだし、

何かと面倒だから、出世も望んでない。


「そう言えば『デモスゴート』が近隣に現れたそうですよ」


最近、冒険者の間で話題になってる魔獣


「貴方もアレを狙ってみては、賞金も出ますし、ランクもグンと上がりますよ」

「興味ない。それじゃ」


そう言って、その場を立ち去ろうとすると


「待ってください」


と受付に呼び止められた


「すいません。忘れるところでした。貴方に指名依頼が来ていますよ」

「えっ?」


 依頼人は、この前の村の村長。別の魔獣が現れ、

困っているんで、俺にもう一度、依頼したいと。


「この前のゴブリン退治を、かなり評価してるみたいで」


 今回の依頼も、低難度だし、それに頼られると言うのも悪くはないので

仕事を受けた。ただ受付から


「良かったですね。御指名なんて、高ランクの冒険者位しかありませんから

よっぽどいい仕事したんですね」


 実際は、俺と言うよりもクラウのおかげなんだから、褒められると心苦しい


 さて翌日仕事に行くとして、その日の夜は「interwine」で

今日もカウンター席に座り仕事について、

雨宮に話をすると、受付嬢と同じことを言われ、

心苦しい思いをしたが、その後、ふと思い立って


「そういや七魔装って、知ってるか?」

「ああ、知ってるけど、どうしてそんな事を?」

「ギルドで、ちょっと小耳にはさんで」


 小耳に挟んだのは、嘘。実際はクラウから話を聞いたのだが、

雨宮からも、話を聞いてみたかった。

ゴブリンの様に、クラウが知らなくて、雨宮が知っている事もあるからだ。

実際、以前聞いた時、クラウはこう言った。


《実は、私、創造主から他の七魔装の情報は教えてもらってないんですよ》


 その所為で、クラウが知っているのは、

人から人に渡っていく中で、聞いた情報のみで、

実物を見たことが無い。でも気配は覚えているので

会えば一発でわかるそうだ。

それと、「書き換え」で得られた情報にも他の魔装の情報はない。


 一方、雨宮から、話を聞いたのであるが、内容はクラウと同じだった。

更には、


「七魔装とは言うけど、分かってるのは、六つで七つ目は謎なんだよな」


 ここも、クラウの話と同じで、七魔装の構成は

剣、即ちクラウと槍と斧とハンマーとグローブとチャクラムの

六つ目までは分かっているが、最後の一つが、謎だという。


 七つ目についてクラウは知らなくても、雨宮は知ってるかなと思ったけど

そうじゃなかったから、少し残念ではあったけど。

ちょっと気になった程度なので、それ以上、話題は続かず、更に割り込みが入った。


「カズキさん」

「君は、ギルドの」


馴染みの受付嬢がいた。


「隣、いいですか?」

「ああ」


彼女は、横の席に座り、メニューを読み始めた。

 

 彼女の前では、あまり緊張しない。

ギルドで会うときは、仕事だから、と思っていたが

今はプライベートな場、でも緊張しなかった。


「知り合いか?」


雨宮が聞いてきたので


「冒険者ギルドの受付」


とだけ答えた。そして、彼女が料理を注文すると

雨宮は、準備の為、厨房の奥へと向かった。


 直後、彼女が


「そう言えば、クロニクル卿の審問官試験での逸話を、御存じですか?」

「いいや」


雨宮の逸話は、色々聞いたが、その話は聞いたことが無い。


 彼女の話によると、試験は筆記、実技、面接と、行われる

雨宮は、スカウトなので、筆記は免除、実技は、高評価

面接は形だけだったが、評価は酷かった。


 そして最終試験、これは今はやっていないとの事だが、

封印されている暗黒神に、あえて触れさせ、

その誘惑に耐えれるか見るそうだ。

 

 暗黒神は、封印されていても、その力に触れる事で出来るとの事。


「暗黒神の力に触れたクロニクル卿は、皆の前で嘔吐したそうです」

「えっ!」

「暗黒神の力が生理的に駄目だったようで、」


耐える耐えられない以前に、生理的に駄目。

故に、魅せられ、裏切ることは無いとして

合格したそうだ。


 それと最終試験には、視察と言う事、当時の王女が立ち会っていた。


「王女様、後の女王様なんですが、この人が高名な予言者から、

『王女様の前で嘔吐する異界人は英雄となり国を救う』

と言う予言を受けていたらしくて、

それでクロニクル卿の後ろ盾になってくれたんです。

予言が的中したのは言うまでもありませんね」


 その話が本当だとしたら結果的に、雨宮にとって、

立身出世の切っ掛けだったんだろうが、はっきりって、醜聞だ。

だから俺は


「へぇ~そうなんだ」


と言ったきりで、それ以上、深くは聞かなかったし、

話を続けたくはなかった。アイツの醜聞をこれ以上話題にしたくなかった。

雨宮にとっても、話題にされたくないだろうし。

 

 俺の気持ちを察したのか、彼女は、それ以上話を続けなかった。

しかし、俺にとって気になったのは、雨宮が、暗黒神の力が

生理的に、駄目だと言う事。

もし俺が、暗黒神だったら、受け入れてくれない可能性が

濃厚だと言う事を意味していた。


 家に帰った俺は、床に入って、その事を考えていたが


(まあ、まだ俺が暗黒神だって決まったわけじゃないし)


それ以前に、俺の体の事を話す踏ん切りも、ついていない。

明日のこともあったから、それ以上の事は考えなかった。


 翌日、今回の相手は、昼行性の魔獣で、巣に戻る夜に討伐に向かった。

場所は、何の因果か同じ洞窟、場所を知ってたのと、夜って事で

俺一人で行った。


 そしてクラウのおかげで、手早く魔獣を倒し、

仕事を、終えた俺は、洞窟から出てくると、大きなヤギがいた。

周辺把握で、洞窟内にいた頃からいるのは、分かっていたのだが

俺が出て来るまで微動だにせず。

まるで、待ち伏せしているようだった


「何だ、コイツ……」


するとクラウが


《マスターに殺気を向けています》


確かに、コイツは俺の事を睨んでいるみたいだった。

 

 そして、ヤギは口を開くと、何かを飛ばしてきた


「!」


まだ、クラウは抜いた状態で「習得」が機能していたから、素早く避けれたが

それでも、幾つか当たった。鎧のおかげで、怪我はしなかった。

普段でも、「自動調整」で大した怪我はしないだろうが。


 鎧に当たり、ヤギが飛ばしてきたものが地面に落ちた。


「これは!」


それは、潰れてはいるが間違いなく銃弾だった。昔、大十字絡みで、銃撃された時

彼女が、超能力で弾を防いだが、その時に潰れた弾によく似ていた。

 この世界には、銃は存在しているが一般的じゃないし弾も球形で、

ヤギが飛ばしてきたのとは異なる。


 ここで、クラウが


《マスター、七魔装です》

「えっ?」

《今のは、七魔装による攻撃です》


今の弾に、七魔装の気配を感じたとの事


《このヤギは、七魔装を飲み込んで……》


次の瞬間、クラウが切羽詰まった声で


《いえ、ヤギじゃありません、マスター、本気を出してください!》

「どういう事だ」

《こいつは、デモスゴートです》

「あのデモスゴート?」


 俺は、話を聞いただけで実物を見たことが無いから、

何とも言えなかったが、クラウの話では

デモスゴートはヤギに擬態できるらしく、

そして擬態中は、クラウの「感知」でもすぐに分からない。

更に、擬態時は、攻撃力こそ下がるが、防御力はそのままで

それがかなり強靭なものだと言う


「つまり、フルパワーじゃなきゃ、倒せないって事か」

《はい……逃げるにしても転移を使わないと》


 デモスゴートは敏捷、擬態時も変わらずで、

狙われると、逃げるのは容易ではない。


 倒すにせよ倒すにせよ、逃げるにせよフルパワーでなければいけない、

しかしこの時。戦わないと言う選択肢はない。なぜなら七魔装を飲み込んでいる。

つまり相手は「引寄せ」でここに来てる可能性が高い。

そうなれば、この場を回避したとして、後々、俺を狙ってやってくる。


 俺は、その場から走り出した。


《マスター?》

「ここじゃだめだ」


もちろん逃げるためじゃない。フルパワーで戦えば、

何が起こるか分からないからだ。

距離はあるとはいえ、村に迷惑をかける可能性だってある

 

 俺は、「周辺把握」で周りの状況を確認しつつ、森の更に奥に向かっていった。

当然、ヤギは付いてきている。


 そして森の奥でありながら、木々が少ない、荒野のような場所にでた。

場所的にも、距離的にも、暴れても大丈夫そうだと思った俺は

振り返り、ヤギと対峙した。

「能力調整」は解除した。しかしフルパワーになるには

少し時間がかかる。


 ヤギは再び口から銃弾を撃ってきた。

俺は、「習得」による体術で素早く避けていく。


《まずいですね……》

「どうした?」

《雲が晴れてきました。このままでは月が見えてしまいます

そうなれば、ヤツは擬態を解くでしょう》


 クラウの話によるとデモスゴートが、擬態を解くには

二つの月が出ていなければいけないと言う。

この時はちょうど片方だけが雲に隠れていたが、それも晴れてきた。


《マスター、まだ本気には……》


と急かすが、こればかりはどうしようもない。


 やがて雲が晴れてきて、二つの月が夜空に輝く

そしてヤギに異変が起きた。その体はドンドン大きくなり

立ち上がって、二足歩行になり、前足は、人間の手の様なものに変わり

筋肉は隆々、更に毛深くなっていく。


「こいつが、デモスゴートか」


 俺の目の前に、ヤギの頭をして、毛深い巨人が姿を見せた。

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