第1話「おしまい」

1「気が付けば、どこかの森」

 気づくと俺は、地面に倒れていた。


「一体、何が……」


体は少しだるかった、とにかく俺は、体を起こし、立ち上がったところで、

気づいた。


「ここは……どこだ……」


 さっきまで、街中にいたはずだ。だが今は、周りを見渡すと、

辺りは木々が立ち並んでいて

明らかに俺は森の中にいる。あと携帯電話は圏外だった。


「そういえば、大十字は……」


再び周りを見渡すが、彼女の姿はない。

それ以前、何が起こっているのか分からない。

しかしゆっくりと考える時間は、無かった。

なぜなら突如、物陰からそいつらは現れたからだ。


「蜘蛛?」


現れたのは無数の蜘蛛、種類としてはタランチュラのようだ、ただ問題なのは、


「デケエ……」


大きさが大型の獣くらいだという事、映画でてくる人食い蜘蛛そのもの。


 昔、大十字が、こいつと似たのと戦っているのを見たことがある。

大きさはあっちの方が上だったが。

ともかく危険を感じた俺は反対方向に逃げようとしたが


「ゲッ!」


背後にも巨大蜘蛛の群れがいた。右にも左にも


「最悪だ……」


 完全に囲まれ、逃げ場はない。蜘蛛たちは、明らかに俺を狙って近づいてくる。

もちろん抵抗したかったが武器はない、それに変わるものもない。

それに俺は大十字と違って超能力もない。


(どうにかならないのかよ……)


この絶望的状況下で、助かる方法を考えるが思いつかない。

その間にも、蜘蛛たちは近づいてきて、その一匹が、直ぐ近くまで来た瞬間


(もうダメだ……)


俺は、死を覚悟した。


 だが


「ファイヤー・エクスプロージョン!」


と言う女性の掛け声が聞こえたかと思うと、風船が破裂するような音がして、

蜘蛛たちが一斉に燃え上がった。炎はほかに燃え移ることなく、蜘蛛だけを燃やし、

火が消えると、周りには、灰だけが残された。


(まるで大十字のパイロキネシスだ)


 そして


「大丈夫ですか?」


さっきの掛け声の主と思える女性が声をかけてきた。

その女性は、きれいで整った黒の長髪、顔の方も整っていて、

なんか旧家のお嬢様って感じの美人。着物が似合いそう。

ただ、彼女が着ているのは、ブラウンのローブと、さらに手には、杖を持っていて、もろに魔法使いと言ったいで立ちだ。そんな彼女の呼びかけに答えようとしたんだが


「〇▽□×△!」


 うまく返事ができず、訳の分からないことを口走っていた。

なんせ俺は家族と親戚、学校の先生、店員、そして大十字以外で、

女性と話したことがないもんで、ものすごく緊張しちまったからだ


「あの?」


女性は、困惑してるみたいだったから


「大丈夫!大丈夫だから、」


と言いつつ、確認した


「それより、こいつらが燃えたのは、君が?」

「はい、私の魔法ですが」

「魔法?」


 確かにさっきの状況、昔見たファンタジー系作品の魔法って感じだった。


 彼女の格好も魔法使いそのものだし、それに超能力があるくらいだから、

直に見たことがないものの魔法もあっても、おかしくないとは思ってはいた。

昔、魔法少女の噂も聞いたことがあるし、それでも引っ掛かりを覚えた。


「どうかしましたか?」

「いや、何でもない、それより助けてくれてありがとな」

「当然のことをしただけですよ」


ここで、緊張が和らいできた俺は、女性に質問をした


「とっ、ところでここは?」

「ここは、ログエスの森ですが」

「ログエス?」


 聞いたことのない地名だった。海外か、それ以前に日本にいたはずの俺が、

なんで海外にいるのか、まるでテレポート。

超能力者の大十字でさえ、テレポーテーションはできないのに


「どうかしましたか?」


 心配そうに女性は声をかけてきた。そこで俺はこうも思った。

この女性は、格好こそ魔法使いだが、顔立ち、言葉、そのイントネーションも

日本人そのものだから、ここは日本なのかも、それでも周りを見たところ、

さっきまで自分がいた場所とは違うんだから、テレポートの可能性が、

いや、それ以前に考え方が現実離れしてる。


 まあ大十字と一緒にいて現実離れしたものを見すぎた影響だろうな。


 ただ、自分がなぜここにいるかは、ともかくとして、すべきことがあった。


「森を出たいんだけど、どう行けばいいのかな?」


すると女性は東の方角を指さしながら、


「この方向をまっすぐ行けば、森を抜けて街に出ることができます」


そして俺は、彼女が指さした方を向き


「助けてくれて、本当にありがとう。それじゃあ」


再度、礼を言い、立ち去ろうとすると


「ちょっと待ってください」


と呼び止められた。


「今からだと、明日の朝までかかりますよ」

「えっ?」

「それに夜は、今以上に魔獣がでます」


 『魔獣』と聞いて、さっきの蜘蛛の事だろうなとは、思い、恐怖は感じた。

だがそれ以上は、感じなかった。本来なら『魔獣』とは何か、

疑問を抱くべきなのだろうが、大十字絡みで現実離れしたものの見すぎて麻痺してる

ここ15年はご無沙汰とはいえ、影響は、今も残っているんだろう。

まったく慣れというのは恐ろしい。


「見たところ、あなた……」


ここで、一度、彼女は言葉を詰まらせた後


「……丸腰ですよね。それでは、生きてこの森を出ることは、できないでしょう」


さっきの間は、少し気になるが、それよりも彼女は、かなり物騒なことを言った。


「そんなに危険な場所なのか、ここは?」

「はい、ですから今日の所は、私の家に来ませんか?そして一晩泊まって、

明日、街に行きましょう。私も用事がありますし」

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