封印開放した女神から世界滅亡を防ぐために俺だけ過去に戻ってやり直す

@tatibanaseiran0825

第一話 女神封印開放そして明かされる事実

「ベリル、私、貴方のことが、だい、すき、だよ…」

オルバースを支配しようとしていた冥魔王アビスと刺し違えた、幼馴染であり勇者であるセレス・ライトは最後の力を振り絞り生命の灯火を消した。

旅立ちから共に過ごしてきたベリル・メテウスの腕の中で。

「嘘だろ、セレス。お前まで逝ってしまうのかよ! なんで皆俺を置いていくんだよ!」

だが、セレスは何も答えない。

ここまで来るまでに仲間たちが先に死んでいった。

そして残されたのはベリル一人だけ。

自分たちの住むオルバースから遠く離れた冥魔界にある冥魔王城にただ、ベリルの絶叫が響く。

はずだった。

「な、なんだ!? セポネの刻印が、光って…!」

勇者の証である、右頬に刻まれた刻印が光を放ちそしてセレスの体を暖かく包み込む。

「セポネ様の奇跡、奇跡なんだよな! そうか、そうに決まっている! セポネ様を封印していたアビスを倒したから、アビスが奪ったものを元に…!」

アビスが倒されたことで封印により力の弱まっていた創造神セポネが力を取り戻し、そして失ったもの、たった今気持ちを通じ会えたセレスを取り戻すことができる。

そう、ベリルが安堵したその瞬間だった。


「アッハッハ! ようやく、ようやくボクは自由になれたんだ! オモチャ風情がボクを待たせすぎなんだよ!」

光りに包まれていたセレスの口から、セレスの声でありつつもセレスではない別の何かが喋り始めたのだ。

「せ、セレス…? どうしたんだ、急に」

「セレス? 違うよ、ボクはセポネ。君たちオモチャが女神様と崇めるセポネさ! アビスのやつに封印されていていたせいで、ボクのやりたかったことができなかったけど、オマエ達がアビスを殺してくれたから感謝してるよ」

自分の知っている女神セポネとは違い、随分と砕けた口調にベリルは面を喰らうも自分たちの目的だった女神セポネの開放が叶った喜びと言葉にできない不安を感じていた。

「せ、セポネ様。ご復活おめでとうございます。冥魔王アビスが倒された今、貴方様の力でアビスによって苦しめられたオルバースに平穏を取り戻していただけないでしょうか」

オルバースの平穏。

それを取り戻すということはセレスを生き返らせる、ということを含む。

創造神である女神セポネにそのようなことはお湯を沸かすくらいに簡単なことだろう。

しかし、セレスの体を借りたセポネは可笑しそうに笑い始めた。

「なんで? なんでボクがオルバースのために動かないと行けないのさ」

「え…?」

予想もしていなかった言葉にベリルは声を失う。

自分を含む勇者セレス一行は、どれほど辛くとも、女神セポネを復活させることで

オルバースに平穏を取り戻すことができると信じていたのだ。

「あっれー? もしかしてオマエ気づいていないの? アビスがボクを封印したのってボクがオルバースを支配してオモチャにしようとしたのを止めたかったからだよ? 

むしろ、アビスは君たちオルバースを守っていたんだよ? それも知らないでアビスを殺しっちゃったんだね!」

「アビスが、俺たちを守っていた…? そんな、馬鹿な、ことが…」

セレス、いや女神セポネから距離を置くようにベリルは後ずさる。

「女神セポネは嘘が大嫌い。えっと、なんだっけ。君たちの言葉でいうとセポネ福音書だっけ? この言葉って確かその本に書いてあるはずの言葉だけど、キミなら、意味わかるよね?」

ケラケラとおかしそうに笑う女神セポネを見て、ベリルは目の前の存在が嘘を言っていないこと、そして真の意味での諸悪の根源だと確信した。

そして、アビス戦で使い切った生命力、魔力全てを右手の拳に込め、

「何のために、何のために、俺は、俺たちは、戦ってきたんだぁぁぁ!!」

セポネにベリルは殴りかかる。

だが、その拳をセポネは受け止めそれどころか笑顔を浮かべたまま拳を握り潰す。

「ぐあああああっっ!!」

「いきなり殴ってくるなんて、人間はホント愚かだね。だからこそオモチャとして遊びがいがあるんだけどさ」

「オモチャ、だと…! 俺たち人間が!」

「そうだよ、だって封印されているボクからのメッセージ、キミたちにとっては啓示を受けただけでボクの思うように動くものをオモチャ以外のなんていうのさ! 犬でも命令がおかしかったら考えるのに、キミたち人間は疑いもせずにボクの思うように動いて、ボクの封印を解くために何万年も頑張って、ようやくここまで来れたじゃないか! 何万年もボクの思い通りに動くのがオモチャじゃないならなんなんだろうね?」

ベリルの砕かれた拳の痛みは恐怖に塗りつぶされ、言葉を失ってしまう。

「でも、封印を解いてくれたキミ達にご褒美をあげないといけないよね。大丈夫大丈夫。

ボクもそこまで性格悪くないよ!」

これからオルバースを大きなおもちゃ箱にしようとしている存在の性格が悪くないわけがない。

だが、ここで口答えをしても何も変わらないだろう。

口答えをすれば今も痛む右拳のように頭を握りつぶされかねない。

「ご褒美って、一体何をくれるんだよ…」

「さっきと違って、口の利き方がなってないなぁ。ホラホラ、セポネ様って呼んでくれないの?」

「…‥セポネ様、私にどのような褒美をいただけるのでしょうか?」

「ちょぉぉっと気になるところはあるけど、心優しいセポネ様は教えてあげよう! それはね、キミのお願いをボクが叶えてあげるんだ、一つだけね!」

ならば、オルバースの救済もできるのではないか。

そうベリルが思ったときだった。

「あ、でも他の人を巻き込むようなことはダメだよ。キミだけのご褒美なんだから。何もしていない連中にご褒美をあげたらつけあがるだけでしょ? ご褒美があるからしつけは効果が出るんだよ?」

考えていることを先に否定されてしまい、ベリルは他の願いを考えなければならなくなってしまう。

「シンキングタイムは3分でーす!今決めました! だってボク早くオモチャで遊びたいし! キミと遊ぶのもそろそろ飽きてきちゃった!」

3分。

それがベリルに与えられた最後の希望。

オルバースにいる人達も救い、セポネの復活を阻止し、そしてセレスの気持ちに答える方法。

(そんなものが本当にあるのか? 俺だけのための願いなら叶えてくれるとこいつは言った。だが、ここでもしも願いを叶えてもすぐにこいつは俺を殺すだろう…)

その光景は容易に想像がベリルにはついた。

願いが叶った喜びの顔を絶望に染めること。

その行為をセポネが好きだろうとこの時間で察することはできる。

「1分経過―! 残り2分だよー!」

「質問してもいいか?」

オモチャの完成を待つ子供のようにウキウキして時間をカウントするセポネにベリルは浮かんだ疑問を投げかける。

「もっちろーん! でもその間もキミの持ち時間は減っていくよ?」

「構わない。その願いにおま、セポネ様は干渉できるのか?」

「できないよ! だってキミのための願いだもん。ボクは叶えるだけ! これでいいかな? じゃあ残り1分! 59、58…」

(やっぱり、これしかないか。今のこの時間の人たちを救う方法も見つかるかもしれない。)

「残り10秒!」

「決めた! 今の俺を過去に送ってくれ!」

「今のキミを過去に? オッケー! どれくらいの過去に送ればいいのかな? 赤ちゃんの頃? それとも初恋の頃?」

セポネの軽口に乗らないよう、ベリルは深呼吸をし、そして

「セレスがお前からの啓示を受ける前の時間だ」

ベリルの指定した時間を聞いてセポネの浮かべていた笑顔が固まる。

「まさか、お前…!」

セポネが時間をカウント。

これがベリルの思いついた願いのきっかけだった。

「残念だが、この願いを止めることも拒否することもお前はできないよな? この願いは俺だけのものなんだから」

「そうだね、確かにボクは言ってしまったからね。でも過去に戻ってどうするんだい? 過去のボクを出し抜くのかな?」

「さぁな。ただ少なくとも今本当に叶えたい願いの一つは叶えることができるはずさ。感謝していますよ。セポネ様」

感謝の欠片もこもっていない言葉にセポネの顔が怒りに歪む。

が、すぐにこれまでのような笑顔に戻り、

「じゃあ、今すぐ過去に送ってあげるね! キミの指定した時間に! 受取人はいないけど、大丈夫かなー?」

「元払いで送ってくれ」

「女神様に代金を支払わせるなんて、バチ当たりだね! じゃあサービスでその右手の怪我を治して送ってあげる! グッドラック!」

セポネが指を鳴らすと同時に、激痛に包まれていた右手の痛みは引き、そしてベリルの体は空間に突如現れた渦に飲み込まれ、女神セポネだけが主を失ったばかりの冥魔城に残されるのだった。


「精々、過去のボクとやりあうがいいさ。さって、新しいオモチャが出来上がるまで、今あるオモチャでどうやって遊ぼうかなー! 戦争ごっこかな、お医者さんごっこもいいなー!」



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