第66話 エピローグ、そして…

 先ほどまでご主人様が必死にどうにかしようと奮闘していた巨大な機械から無情にも火柱のような超高純度の魔力で練られたレーザーが放たれた。


 横にいる私と命の取り合いをしていた初老の男性が心の底からうれしそうな顔をしていることからご主人様は止めることができなかったのでしょう。


 そもそも今のご主人様に何ができるとも思えなかったし、私も説得ができなかったからシズクたちが何とかしてくれているのを願うばかりだがどうしようもない絶望感がどんどん心を蝕んでいく。


 そんな中だった。

 あの人の声が轟音がとどろくこの最終決戦の地に響いたのは。


「乗っ取り《ジャック》成功。俺たちの勝ちだ」


 そして次に聞こえてきたのは別の男の声だった。


「どうして、どうしてはじけない!? ど、どうなっているのです!!!」


 その声に従いもう一度まじまじと機械が出すレーザーを注視するとただひたすら空に向いそのエネルギーが果てるまで上空に伸び続けているのが見えた。


 行く当てもなくただただ自由な空を目指して。


「な、なぜ・・・。なぜエルフに向かってはじけない!!」


「俺が設定を変えたからです」


 ただただ呆然とその火柱を眺めていた男性の呟きに、ゆっくりと近づいてきたご主人様がそう答えた。


「設定を変えた・・・ですと?」


「はい。この機械にかけられていた『すべてのエルフを探知する魔法』には、この部屋が除外されるように設定されていました。それはもちろん、ヴェルがいるから。除外しないとここにまでエネルギー弾が降ってきてしまいますからね。だから俺はこの魔法の構造を書き換えて、この王国すべてが除外範囲になるよう設定したんです」


「なっ!? で、でもどうやって!? あの魔法を作ったのは過去のあなただ!! 今のあなたではどうにもできないのではなかったのですか!?」


「・・・できました。どうやら俺にはちゃんと過去の俺の能力が備わっていたらしいです。といってもほんの数分しかまだ使えませんけど」


「そ、そんな・・・・」


「だからこれで終わりです。このレーザーがエルフに降り注ぐことはありません」


 ご主人様がそう言うとスミスさんはガクッと膝から崩れ落ちてうなだれた。

 どうやら本当にこれで終わったようだ。

 ように思えた。


「・・・どこまでも、どこまでもあなたは私のすべてを奪うのですね!!!!!」


「っ! ご主人様!!!」


「ならばあなたの命だけでももらいましょう!!! それが私の最後の革命だ!!!」


 スミスさんが懐からもう一丁の銃を取り出し銃口をご主人様に向ける。

 何とか反応しようと私も足に力を込めたが先ほど負った傷に激痛が走り足を取られてしまう。


 だが銃口のその先にいるご主人様はいつもと違う。いや、言うなれば昔の『奴隷』を見るような悲しい顔でスミスさんのことを見つめていた。


「ヴェル、君は何もしないでくれ。・・・スミスさん、それであなたの心が晴れるのなら俺は甘んじて受け止めます。だけど一度だけ、俺にチャンスをいただけるのならその銃を下ろしてください」


「チャンスですと? いったいなんのです」


「俺はこの世界を変えるために様々なことをしました。そしてそれによってあなたの日常が奪われたのは紛れもない事実です」


「そうです! あなたによって私の家族は、自由は、尊厳はすべて奪われたのです!!!」


「だけど俺はそれでもやってきたことを後悔していません。いや、後悔するわけにはいきません。そうでなければ犠牲になった人たちに顔を向けることができない。だから俺は止まるわけにはいかない。俺らは正義として進み続けるしかないんです。たとえやっていることが悪だとしても」


「・・・・負けた方が悪で、勝った方が正義とはよく言ったものですね。これで私は国家を陥れようとした大罪人、そしてあなたは国を救った英雄なのですからね」


「そうです。だから俺はこの命をもって、少なくとも種族の差で苦しむ人がいない世界にしていきます。どうかその役目を担わせてくれませんか。第二のあなたが生まれないように」


 ご主人様がそう言い切ると、この場には沈黙が流れた。

 だがそんな沈黙を切り裂いたのはこの場にふさわしくない、素っ頓狂な笑い声だった。


「・・・ふふっ、あっはっははは!!! まさかここまであなたが傲慢だとは思いませんでしたよ。私という復讐者を生み出しておいて、第二の私が生まれないようにするとはずいぶんとひどい言い草ですね。ですが・・・、なんだか馬鹿らしくなってきてしまいました」


「馬鹿らしく、ですか」


「ええ。あなたによって私の人生はめちゃくちゃにされ、その報復計画もあなたに破綻させられ。私はいったいどうして生まれてきたのでしょうね。ここであなたを殺したところで私も二度と監獄から出られないでしょうし。・・・ただ、あなたのその無茶苦茶な野望がどこまで通用するのか見てみたくなってしまいました。そしていつ破滅するのかも」


「・・・・・・」


「はぁ。・・・もし私も生まれてくる時代が違ったらエルフと肩を組んで過ごせていたのでしょうね。今の私にとっては死んでもいやですけど」


「そうだと俺は信じています」


「ここまでくるとあなたのその意気込みがどこまで通用するのか少し気になってきました。いやはや、計画がめちゃくちゃにされたのにどこか清々しいのはなぜでしょうか」


「貴方もどこかでエルフと手を取り合えたらと思っていたからではないですか?」


「それはないですね。私は心の底からエルフを憎んでいるので」


「そうですか」


「ええ」


 スミスさんが笑顔とともにそう言い切ったと同時に後ろの扉があき、数人の騎士団とともに5人のエルフが入ってきた。


「ここからとんでもなく太いレーザーが出たけどやっぱりか」

「ビンゴみたいだね。アイナを信じなくてよかったよ」

「なっ!? 兄さんだって『俺はこっちだと思うよ(キリッ)』って全然違う方指さしてたじゃないですか!!」

「アイナ、空気を読んでくれ。多分そういう感じじゃない」

「ダニングおじさんの言う通りだよ」

「へぇっ!? い、いやそんなことよりも早くだれかヴェルさんに回復薬を!!」

「待て! あのジジイ銃持ってるから迂闊に近づくな!」

「そうだね、もし変な動きしたらあいつの首吹っ飛ばすから」

「まて、ルリ。落ち着け、どうどう」

「私は犬じゃない!!!」



 ・・・まったく、騒がしい人たちですね本当に。

 でも、この声が届くということは計画はちゃんと阻止できたみたいですね。

 なによりです。

 そしてその一部始終を見届けたのち、再びスミスさんはご主人様の元へ向き直った。


「・・・フィセル様、あなたのお仲間は本当に愉快なのですね」


「はい、かけがえのない仲間です」


「その関係を破壊したかったのですが、残念です。これからは監獄の奥底でずっと見守るとしましょう。あなた方が第二、第三の私と戦うところを。あなたの顔が苦しみに染まるその日まで」


「はい、すべて俺たちが阻止します。何度でも」


「そうですか。では最後に一つだけ。私が清々しかったのはあなたという人に負けたからですよ。・・・私はこれで失礼します。せいぜいのどかな日常を」


 そういってスミスさんは銃を地面に投げ捨てて自分から騎士団の方へと向かっていた。


 こうして俺たちとスミスさんの戦いは幕を閉じたのだった。


 ********


 あのあと国王からは、あの光線は国家秘密のプロジェクトで若干機械が誤作動したからあのように避難勧告が出たと説明が入った。


 もちろん嘘である。

 ただ、国家に歯向かったものがいると公に言うわけでもないので妥当な対応であろう。というかシズクとヴェルがそうさせた。

 そしてあの後グエン王子を見た者はいないという。

 また彼と相まみえることはあるのだろうか。


 一方の俺はというと、なんやかんや昔の魔力が戻ったと思いきや一日数分しか使えないみたいで無能からの脱出は程遠かった。

 まぁ、大事なところできらりと光るってことで許してもらおう。

 はたして俺が輝く日は来るのだろうか。

 いや、来ない方が平和なのかもしれないな。


 俺が無能でいれる間は平和だということだ。


 また、あれから俺たちの生活は特に変わったりはしなかった。

 色々あって一時は衝突しちゃったけれど、しっかり過去の話を聞きなおして俺たちができることをみんなでやっていこうとなった。


 スミスさんのような人たちのことを胸に刻んで。

 第二第三の彼はまたいつか現れる。 

 だから俺たちにできることは、その計画を止めることだ。

 犠牲になった人たちのためにも進み続けよう。


 でも、少しくらいは休み休みでやっていいと思う。

 この素晴らしい世界をもっと素晴らしいものにしていくにはゆっくりとやっていくのが大事なのだから。

 後悔するような選択をしないためにも。


 俺はこの6人のエルフとまた一歩ずつ進んでいく。

 住み慣れた200年前の小屋に似た森の中の家で。

 ときに真面目に、ときに楽しく。


 この人生をかけて、世界を変えていく。


 だからそれまでは・・・。


「俺たちはいつまでも一緒だよ、みんな!!!!」



************


ということで5章はこれにて終わりになります。

途中鬱展開になったり更新が止まったりとめちゃくちゃでしたが書きたいことはかけたかなと思っています。


前置きはここまでにして今後について書いていきます。

本来、この小説はここまでしか考えていませんでした。

ですがやっぱりちゃんとしたスローライフ系も書きたいこともあったり、6人のエルフにそれぞれ一話完結の物語(バンの彼女の話とかルリの母親の話とか)は考えてあったりでまだ筆を折るには早いかなぁと思っている次第です。


つきましては、これからはスローライフパートは思いつき次第書いて投稿して、たまにシリアスパートでこの6人分の話を挟んでいこうかなと思っています。

元々私はシリアス(暗い展開)を書くのが好きな傾向があり、スローライフパートがどんな感じになるか皆目見当もつきませんが物は試しということで書いていけたらなと思っています。


なのでこれからも温かい目で見守っていただけたらなと思いますのでこれからもよろしくお願いいたします。

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