第62話 Mastermind
「くっそ!! ふざけんなよ!!」
「残念だったな糞王子!! 私たちとご主人の絆をなめんな!!」
「あぁん!? そんなもん存在するわけねぇだろ気持ち悪ぃ!!! だいたい・・・がはっ!!」
「それ以上お兄ちゃんを侮辱するな汚らわしい」
ルリが繰り出した蹴りが動揺していたグエンの腹部に直撃してそのまま吹き飛び、床に何度かバウンドした後壁に衝突してめり込んだ。
とんでもない音が鳴った気がするが今はそんなことよりもヴェルの怪我だ。
出血量がかなりひどい。
「ヴェル、ヴェル大丈夫か!? 今回復薬を持ってくるからな」
「大丈夫だ、俺が持っている。早くこれを使え」
「ダニング!! は、早く!!」
どうやら同じタイミングで騎士団も全て制圧できたようでアイナとバン、そしてダニングがこちらに向かってきており回復薬を渡してくれた。
そして受け取った回復薬をヴェルの傷口に垂らしてやるとみるみる傷はいえていく。
どうやら間に合ったようだ。
「本当に、本当にごめんヴェル・・・。俺は・・・」
「いえ、私たちの方が悪いです。ご主人様に真実を知られたくないがためにずっと隠していたのですから。ただ・・・、本当に私たちは人間を奴隷のようには扱っていません。戦争を起こし、多くの犠牲を生んだのは事実ですが」
「うん、もういい。また落ち着いてからゆっくり話そう。でもまずは・・・・」
俺はヴェルの傷がいえたのを確認してから先ほど壁にたたきつけられたグエン王子の元へと一人で向かっていく。
まだ全部終わったわけじゃないからだ。
「・・・・なんだよ、その目」
「いえ、これでお前の目論見は打ち砕かれましたね。このままクレアたちに報告すればあなたは国家反逆罪とかで・・・」
「はっ、まさか俺の計画がこれで終わりだとでも思ってるのか?」
「・・・なんですか? まだ手があるんですか? もうあなたは満身創痍じゃないですか」
「ばーか、一人忘れてねぇか俺の仲間を。それに・・・、時間稼ぎはもう十分だろ。なぁスミス!!!」
「なっ!?」
俺は彼の視線の先、すなわちこの部屋にある唯一の階段の方を向くとそこにはスミスさんが一人、ぽつんと立っていた。
そういえば、この人はどうしてグエン王子サイドについていたんだ?
あの時彼が言った人間とエルフは共存できるというのは嘘だったのか?
「はい、おかげさまで。お疲れさまでしたグエン様」
「スミスさん!!! あなたはいつからグエン王子に味方していたのですか!?」
遠くにいるスミスさんに届くよう、俺は持てるすべての力を振り絞って大声を出す。
すでに場が静かになっているおかげで俺の声はよく響いた。
「いつからも何も最初からです。それにグエン様に過去を話したのはほかでもない私ですからね」
なっ、じゃあ本当に黒幕はスミスさんじゃないか。
いったいどうして・・・。
それに先ほどグエン王子は時間稼ぎといった。
いったい彼らは何をするつもりなんだ?
「スミス!! 早く手を貸してくれ!! こいつらのせいで足も肋骨も折れちまった」
「いや、お前はここで死ぬんだ。お兄ちゃんに手をかけた報いを今ここで受けろ」
「はっ、いいのかよ? エルフが王子を殺したら殺したでそれは問題になるぜ」
「別に私はどうなってもいい。お兄ちゃんを傷つけたお前が死ねば」
「おい、ルリも落ち着けって・・・」
ぼろぼろのグエン王子と言い合うルリを何とかなだめ、再び扉付近にいるスミスさんの方へと視線を移そうとしたとき、不意に『パンッ』という無機質で乾いた音が響いた。
突然のことで状況があまり呑み込めない。
いったい何の音だ?
とりあえず自分の体を見下ろすが特に何もない。
次に周りのエルフに視線をずらすが誰かが血を流して倒れているとかはなかった。
ただ一人、元から倒れていた人からはどんどん血が流れていたが。
反射的にもう一度スミスさんの方に向き直る。
スミスさんが掲げている謎の魔法具。
あれは確か・・・。
「スミス・・・!? てんめぇ何しやがる、どうして俺を撃っている!? そ、それは俺が開発した・・・」
『魔法銃』
たしかそんな名前だったはずだ。
込めた魔力を凝縮して弾丸のように放つことができる魔法具でまだ市場にはほとんど出回っていない希少なもの。
なるほど、グエン王子が開発していたのか初めて知った。
いや、今それはどうでもいい。
どうしてスミスさんはグエン王子を撃ったんだ!?
「ええ、あなたにいただいたものです。そしてもうあなたは用済みですので死んでください」
「お前・・・・・!!! っざけんな!!!」
グエン王子は口からぼたぼたと血を流して必死に立ち上がろうとするが、体の骨はもうボロボロになっているうえに両手が血まみれになっているせいで壁に手を突こうにも滑ってまた倒れてしまった。
「私も先ほどまでは貴方とともにこの計画を最後までやり遂げようとしていましたよ。だけれどもあなたは先ほどこう言った。『エルフを再び奴隷にする』と。それでは何も解決しません。そう、私たちが本来するべきは『殲滅』すなわちみな殺しなのですよ」
「みな殺し? じゃあお前も死んだほうがいいな」
そう言って先ほどまでグエン王子を見つめていたルリが目線を外しスミスさんの方を見た。足に魔力が込めれれているのが分かる。
「おやおや、敵が何をしようとも知らないのにすぐ行動に移そうとするのは愚の骨頂ですよルリ様」
「ルリ、一回落ち着いてくれ」
とりあえず俺はそんなルリをなだめて落ち着かせる。
確かに何をしようとしているのかわからない以上変に行動しない方がいい。
ほかのエルフも聞き捨てならないセリフを聞いて飛び掛かる数刻前といったところだ。
「まさかフィセル様がこうも早く復帰するとはさすがに予想外でしたがね。それが人間とエルフの絆というものなんですか?」
「・・・そうですよ。それでスミスさんは何をしようとしているのですか?」
「私の目的は・・・、そうですねこのエルフと人間の種族間戦争に終止符を打つことです」
「終止符・・・? そのためにエルフを皆殺しにする気ですか!?」
「フィセル様の過去については私も調べさせてもらいました。過去にエルフが奴隷の扱いを受けていた時に、エルフが人間から独立するためにいろいろと尽力なさったようですね。お疲れさまでした」
「・・・・・」
「ですがそれは根本的な解決になったのでしょうか? 事実エルフの中にはまだ人間を恨む者もいますし、私のようにエルフに支配されていた過去を持つ者もいる。そんな中で共存なんてできると思っているのですか?」
「でも今の世界は出来ているじゃないか!!!」
「そんなものはうわべだけです。寿命も違えば考え方、歩んできた歴史も違う。本来関りをもたない種族同士、分かり合うなんて絶対に無理です。今回のようにまた人間がエルフを支配しようとしてその次はエルフが・・・。というように負の連鎖は止まりません。ならばどうすればいいか。簡単な話です。エルフを全て殺してしまえばいい」
スミスさんの発言に場が凍り付く。
なぜそんな思想になっているのか、いったい何が彼をここまで突き動かしているのかはわからないがこのまま行ったら恐らく全エルフが彼によって殺されてしまうかもしれないというのは確かだ。
「では私はこれで失礼します。私の後を追いたければ追ってください。ただ・・・、まぁすべてのエルフを安全な場所に避難させた方がいいかもしれませんがね。タイムリミットはあと20分っといったところでしょうか。それで防げるかどうかはわかりませんが。では」
「ちょっ、待て!!!!!」
俺の叫びもむなしく瞬きをした次の瞬間にはスミスさんはいなくなっていた。
「お、おい、どうするヴェル!! なんだよ、何が起こってるんだ!!」
「よくわからないがあと20分で何かが起こるみたいだね」
シズクとバンが静かになった部屋で最初に口を開いた。
本当に、何が起こっているのかわからない。
「おそらく私たちをここに集めるのが本当の目的だったんでしょうね。そしてあと20分で何かが起こると。まずはすべてのエルフを安全なところに避難させましょう。シズクは放送で避難勧告を、アイナとバンは王城に報告に行ってください。そしてダニングとルリで避難場所を確立させておいてください」
「俺はスミスさんを追うよ。あの人とはもう少し話さなくちゃいけない」
「私もそちらに行きます。私たちが人間を虐げていた50年間で彼に何かがあったのは確かですから」
「では作戦開始です」
「「「「「「はい」」」」」」
こうしてエルフの存続をかけた最終決戦の火ぶたが切って降ろされた。
エルフが滅びるまで、残り20分。
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