第54話 崩れ落ちる
「・・・どこだここ?」
辺りを見渡して分かったことだがどうやら今俺はとある小屋の玄関にいるらしい。
だけれども中はもうぼろぼろでほこりにまみれており床は朽ち、今にも倒壊しそうだ。
試しに先ほど外に出てみようとドアの鍵を開けたはずなのに扉は開かなかったから恐らく普通の小屋じゃないんだろうな。
どうやら俺はあのグエン王子とやらによって完全に閉じ込められてしまったようだ。
「ここにずっと立ってても何も起こらないし・・・先に進んでみるか」
俺は靴を履いたまま玄関を上がったがその拍子に床からありえない音がした。
ほんとに大丈夫かこれ?
こんなところで誰にも看取られることなく死にたくないんだけど。
そんな不安を抱えながらなんとか一歩一歩確認しながら前へ前へ進むことにしたのだが、特に今誰かが住んでいる様子もなく明かりは外から入ってくる日の光だけでどんどん不安で心細くなっていく。
いや、明かりの少なさが不安なんじゃない。
見覚えがあるから不安なんだ。
もうわかってるさ、ここがどこなのかくらい。
「ここは・・・、200年前俺たちが住んでいた小屋だ」
**********
一通り小屋の中を探索してみたが、やはりここは昔の小屋のようだ。
もうぼろぼろになってしまっているが間取りは今の小屋とも一致するし、リビングの柱につけてあったルリの成長を傷にして残したものも発見した。
エルフたちに俺が与えた部屋も試しに一通り見て回ったが埃まるけで床がぼろぼろになっていること以外は特に目新しい物はなく、残すは2階のみとなっていた。
なんとか軋む階段を上がり、ほかの部屋を探索した後俺の部屋の前まで到達したのだが鍵はかかっていない。
だから入ろうと思えばすぐに入れる。
だけれども俺はこの部屋を開ける勇気が持てなかった。
ここには俺が目をそらし続けた真実がある気がしたから。
何回もドアノブに手を掛けようと伸ばし、引っ込める。
もう何回繰り返したかわからない。
「どうする・・・・俺」
迷いに迷った俺はこれまでの事を考えてみることにした。
グエン王子がここに俺を転移させた理由はなんだ?
あいつは言ったな。「俺の仲間になれ」と。
すなわちあの人からすればこの小屋にはこの国が隠してきた真実があるということになる。そしてそれを見れば俺がエルフたちと縁を切ると確信を持っているんだろうな。
・・・まるで人間とエルフは分かり合えないと言われているようだ。
ふざけんな。
何も知らないあいつにそんなこと言われる筋合いはない。
そうだ。別に今までの一年間で目をそらさなくてもよかったじゃないか。
多分俺は全部を知ってもあいつらを受け入れることができる。
あんな糞王子の思惑に乗ってやるかよ。
俺はここですべての真実を知って、そのうえでエルフたちと手を取ればいい。
だから今、俺がすべきは・・・。
俺はドアノブを握る手に力を籠め、扉を開けた。
*********
開けた視界のその先には昔俺が住んでいたままの状態の部屋におびただしい量の書類やファイルが乱雑に散らばっていた。
勿論ベッドや机は他の部屋と同じように埃まるけになっているが何とか書類の文字はまだ見えそうである。
「ベッドとか机は俺の物だけど・・・この書類たちは見たことないな。俺のじゃない」
床に散らばっている紙の一枚を拾い上げ内容を少し流し読みしてみる。
てっきり俺が昔書き残した魔法薬や魔法具の作り方のレシピが氾濫してしまったのだと思ったがどうやらそうではないようだ。
そしてところどころ見たこともない文字で書かれていることから多分、エルフたちが書いたものなんだろうな。
書類から目をそらし、部屋の壁に沿っておかれている本棚にも目をやるが正直何が何だかわからないしどれが大事なのかもわからない。
分からないことだらけだ。
「結局なんかよくわからないなぁ。手あたり次第見るのも骨が折れそうだし、もうこのあたりで探索は・・・」
一人でつぶやきながらぐるりと一周目を滑らせていたところ、俺はとあるものを見つけた。いや、見つけてしまった。
なぜだか俺の目に、その物体だけ浮いて見えたのだ。
「・・・こんな金庫俺の部屋にあったか?」
ドアから入ったときはちょうど見えなかったが、机の後ろ側に少し大きめの金庫が佇んでおりゆっくりと近づいていくとその金庫だけはなぜかあまり古くはなっておらず鍵は差しっぱなしになっていた。
それから先の事はあまり覚えていない。
金庫を開けてから夢中で中に入っている書類を床にばらまき読み漁ったのは覚えているのだがもう頭には入っていない。
エルフが人間と戦争を起こした。
書類にはその計画書及び結果のようなものが綺麗にまとめられており全部読んだがあまり衝撃はなかった。
変わらない街並み、発展しない魔法・魔法具、消したい過去。
これ自体は彼らと再会してすぐに俺がたどり着いた仮説とほぼ一致していたから。
正直、事実ではあってほしくなかったことだがおそらく彼らが悩みに悩んだ末にたどり着いた結論だったんだろう。
その選択によってどれほどの犠牲者が出たか分からないけど、俺が彼らを攻める権利なんてどこにもない。
俺も言ってしまえば共犯者。一緒にやってしまった罪は償おうと密かに決意していたから。
だけど、だけどもう一つの書類の束に目を通したとき、俺の思考は完全に止まってしまった。
書類の一番上に書かれていた文字。
『人間奴隷化計画』
この文字を見て俺は膝から崩れ落ちてしまった。
床が嫌な音を立てるのを聞いて無意識に金庫に手を伸ばし何とか立ち上がったがもう感覚はない。
一体、一体何が起こっているんだ。
俺の知らない200年にいったい何があったんだ。
ほぼ放心状態のまま目の前の書類たちに目を通し続けていると、先ほど俺が通った扉の方からかすかな音と気配を感じた。
間違いなく誰かがいる。
振り返ってはいけない。頼むから振り返るな。
そう理性が泣き叫んでいたが俺は振り返るのを止めることは出来なかった。
ゆっくりと、視線をずらしていく。
「ようやく私の気配に気が付くようになったんですね、ご主人様」
俺が見つめたその先には、200年前俺が暮らしていた部屋のドアの前には無表情で凛と立つ銀髪のエルフの姿があった。
そのきれいな瞳を見つめ、何か言葉を発しようと思うがまったく出てこない。
「それが、私たちの歩んできた200年の真実です」
そして彼女はいつもと同じ口調でそう告げた。
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