第40話 暗雲

「なっ!? これはまことか!? わらわと同じくらいの大きさになりよった!」

「こんなことがあってもよろしいのでしょうか・・・。完全にこの国の魔法を否定しているではありませんか!!」


「信じてもらえましたか? 僕が普通の人とは違うということが」


 俺はソファにちんまりと座って彼女たちに話しかけた。

 小さい服なんて持ち合わせているわけもないからだぼだぼの服に包まれているけど多分大事なところは隠せているはずだ。

 それに大事なあれは今子供サイ・・・いや、考えるのはやめておこう。


「こ、これは若返りの薬なのか!?」

「そもそも今現在では変化魔法も確立されていませんし、本当に若返っている・・・?」


「若返りとは少し違うみたいです。胡散臭い薬草屋のおじいさんが言っていたので本当かウソかわからないですけどこれを飲んだ人は須らく6歳児ほどの大きさになってしまうらしいんです。なんで6歳なのか、これから先年齢を変更できるように改良できるかは不明ですけど」


「それはどうやったら元に戻れるのですか?」

「半日後に勝手に戻ります。なのでその時に子供の服を着ているとはじけ飛びます」

「随分と経験したように語りますね」

「ええ、今日やりました」


 思い出す今日の朝。

 アイナに抱きかかえられて眠っていた俺が体が少しむずむずして目を開けた瞬間、体が元に戻り服がはじけたのだ。

 その時のアイナの悲鳴と言ったらもうすごいのなんの。

 そして俺の顎にアイナの拳がクリーンヒットして俺は再び意識を失った。


 その後悲鳴を聞き付けたみんなが部屋に入ってきたらしいけど、部屋の中には全裸で伸びている俺と顔を真っ赤にしてうずくまるアイナの姿があったらしい。

 想像するだけで黒歴史だ。どうせ全裸で白目でも剥いてたんだろ。

 もう許してください本当に。これ以上黒歴史のアルバムに変なものを増やさないでください。


 結局あの後アイナとは仲直り? 出来たけど気まずいもんは気まずい・・・。いや違う、今はこの話はどうでもいいな。


「いえ、そんなことよりも信じてもらえましたか?」


 俺は小さくなってしまった腕を頑張って振って存在をアピールする。

 小さな腕は完全に袖に隠れてしまっておりなんだか幽霊みたいだ。


「そうですね、私が言ったことですし約束通り信じましょう」

「妾も信じよう! それで? 転生魔法とはどのようなものなのだ!?」


 どうやら俺の事を信じてもらえたみたいだ。体を張った甲斐がある。

 ただちょっと恥ずかしいのは・・・。


「あ、あの子供用の服ってありませんか? ちょっとこれは恥ずかしいというか・・・」

「ならば妾の服を貸してやろう! スミス、この者に服を与えてやってくれ!!」

「かしこまりました。こちらへどうぞフィセル様」

「ありがとうございます・・・、ってええ!? 大丈夫ですか腰とか!」

「問題ありません。ではいきましょうか」


 俺は後ろから手を差し出してくれたスミスと呼ばれた執事の人に抱きかかえられる形で部屋を出ることになった。

 だがこの人の安定感と言ったら半端なく、結構年は言っているはずなのに一体どこにそんな筋力があるのか不思議に思えるほどだった。

 いや、俺が今軽いだけか。


「ダニングはここに残れ。丁度良い、おぬしだけに少し話したいことがある」

「わかった。じゃあご主人終わったらまた来てくれ」

「わかった」


 こうして俺とダニングは一時離れ離れになるのだった。



 *******

 フィセルside


「ありがとうございます。ぴったりです」

「そうですか、それは良かったです」


 スミスさんに抱きかかえられたまま俺はとある部屋に案内され、そこで服を用意してもらった。

 貸してもらった服は外見こそシンプルだが布地の高級さから相当高部であることが予想できる。

 これは引き裂かないように注意しないとな。


「それじゃあダニングのところに・・・」

「いえ、ここでほんの少しだけ私と話しませんか?」

「え?」


 だが部屋を出ようと扉へ向かった俺を突然スミスさんが呼び止めた。

 俺としても別に今すぐ戻りたいわけではないし、なにやら王女二人とダニングも積もる話があるみたいだから俺はここに残っていた方が都合がいいのかもしれないな。


 それに俺はこの人の外見を見て思ったことが一つあった。

 この人は絶対50歳を超えている。


「すこしあなた様とお話がしたいのです」

「・・・僕もあなたと少し話したいことがります」

「ではフィセル様からどうぞ。そちらに椅子がありますので腰を下ろしてお話しください。急に目線が変わるのは良いものではないでしょう?」


 スミスさんはそう言って近くにあった椅子を俺の前まで持ってきてくれた。

 こういう細かい気づかいができるのはすごいし有難いな。

 ・・・そういえばヴェルもこういった気遣いは良くしてくれるな。

 あのエルフもやっぱり相当優秀なんだろうな。


「じゃあまずは僕から。スミスさんは今おいくつですか?」

「やはりその話ですよね。答えましょう、今は61です」


 61・・・!?

 俺の想像よりも高齢だ。

 いくら6歳とは言えそこそこ重い俺を軽々抱っこできる61歳ってすごいな。


「そしてあなた様がお聞きしたいのは50年前の話ですよね?」

「はい。言えませんか?」

「言えません」

「法律で禁止されているから?」


「それも勿論ありますがそれだけではありません。というか50年より前の事は今、この世を生きるには不必要です。そして後世に残すべきでもありません。もし法律がなかったとしても私はしゃべらないでしょう」


「そんなにひどいものだったのですか?」

「ひどい・・・、とは少し違いますかね。ただ今のこの世には不必要だというだけです。この国が今後栄えていくには必要ないということですし、経験した者の多くはそれを自覚しています。そしてそれはエルフの方々も同様です」


「じゃあ俺も200年前の事を易々と話さないほうがいいのでしょうか?」


「その通りです。絶対に言わないほうがいい。エルフの方でさえ、50年よりも前を話すことは禁止されていますし破ったら厳しい罰則がございます。エルフは厳しいらしいですからね。なんでもあの黒い・・・いえ、関係ないですね申し訳ありません。フィセル様のお話はこれでよろしいですか?」


「はい、すこし気にはなりますが一旦はやめておきます。それでスミスさんの話とは?」


「ちょうど今頃クレア様たちとダニング様が話していることについてです。おそらくあの二人は貴方に聞いて欲しくはないのでしょうが私がここで話させてもらいます。なので戻っても何も知らない体でお願いしますね」


「え、えぇ分かりました。どうぞ話してください」


 俺は少し姿勢を正す。

 一瞬にしてスミスさんの雰囲気が変わったからだ。

 それは守るものがある者が纏う独特の雰囲気、騎士にも負けず劣らずの威圧感だった。


「この国はあと数年後に国王が変わります。それはご存じですか」

「いえ、全く知りません」

「そうですか。まぁそれはいいとして、次の国王にはクレア様達のお父様がつくことは確定しております。ですが・・・」


「その次が問題なんですか? 二人とも女性だから」

「はい。この国は別に女性がついてはいけないという決まりはありませんが、何となく男性がつくものという風潮が流れております」


「この国は建国されてまだ50年なのにですか?」


「はい。おそらくですが、海をまたいだ他の国を見渡してみても女性君主とは中々見ないからかと。それ以外にも色んな要因はあると思うのですが一先ず置いておきましょう。そしてクレア様方のお父様、言わば次期国王には弟君がおりましてその方にはグエン様というお子様がおります。クレア様と同じ年の青年です」


「じゃあもしかしたらその人が国王になるかもしれないという事ですか? というか二人はそこまで国王に執着があるとは思えないのですが」


「ええその通りです。お二方ともそこまで執着があるわけではありません」

「なら・・・」


「ですが今話したクレア様方の従弟に当たるグエン王子は王国からエルフを淘汰しようとしている、いわば反エルフ思想なのです」

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