第17話 日常3 引きこもり
いつものような朝ならアイナに朝の鍛錬のために起こされて一日が始まるところであったのがその日は違った。
いや、起こされるところまでは同じだったんだが。
「フィセル様、今日は雨が降っているので鍛錬はやめましょう。たまにはゆっくり休むのも悪くありませんしね」
エルフたちを迎えてこの日初めて、雨が降った。
******
結局あの後昼くらいまで寝続け、朝ご飯と昼ご飯がドッキングするくらいの時間に俺は目覚めた。
アイナの声で一回目覚めて動こうとはしたんだが、気付いたら二度寝してしまったのだ。
た、たまにはいいだろう。
いつもより寝たはずなのになぜか無駄に眠い目をこすってリビングへと向かう。
今日は着替えてすらいない。
そんな俺がこの日一番に会ったのはヴェルであった。
「おや、おはようございます。今日は随分とぐっすり寝ていらしたのですね」
「まぁね、雨降ってると日差しが入ってこないから起きにくいよね」
「わからなくもありませんね。ですがもう朝ご飯は出ないと思うので昼ご飯まで待ったほうがいいかと」
「そっか、わかった」
「では私は仕事に戻るので」
「あいー」
雨が窓を小気味よくたたく音を聞きながらリビングに入るとそこには何やらボードゲームのようなもので遊んでいるシズク、ルリ、アイナとバンの姿があった。
「おはようございますフィセル様!!」
「おはようアイナ。これは一体・・・?」
元気よくおはようを言ってくれたアイナに続いて他のエルフとも挨拶をする。
そして俺の質問に答えたのはシズクであった。
「これは私が人間の国の視察に行ったときに買ったもんだ」
「え? い、いつの間に・・・」
シズクは自身が開発した転移魔法具で一人だけならすぐに人間の国へと行けるし、それによって情報を収集してもらっている。
俺が首輪を外してあげてるから、うまいことフードで耳を隠せば人間と区別がつきにくいからバレにくいとはいえやっぱり少し怖い。
ここでの暮らしは特に制限はしていないから別に何をしてもらってもいいのだが、命にかかわるようなことだけはやってほしくない。
「この前盗聴器を仕掛けに行ったときにちょっとな。ご主人のお金で」
「いやそこはいいんだけどさ、気を付けてね」
「任せておけ。なんかあったときに逃げるための準備は毎回してある」
と自信満々に答えるシズク。
まぁ、信頼してもいいのかな。
「頼んだよ。で、これは?」
「そうそう、あまりにルリが暇そうだったから買ってきてやったんだ。なんか今王都で有名になってるボードゲームらしいぞ」
そういってシズクが指さしたテーブルの上には何やら8×8のマスと、片面が白でもう片方が黒の丸いコマであった。
「名前は忘れちまったけど、なんか挟んだら色がひっくり返るってやつらしい。意外と面白いからやってみないか?」
「あぁ、なるほど。黒で白を挟んだら真ん中が黒になるのか。へー、面白そうじゃないか」
「よし、じゃあやってみようぜ」
「私たちは見てますね」
「そうだね。意外と見ているほうもおもしろいんですよ」
「がんばってー!」
こうして昼ご飯までの間、俺はシズクとボードゲームをするのであった。
******
「・・・ご主人、その・・・」
「待って、もう一回!!! 頼むって!!」
「いやこれもう一回やったところで多分、その・・・私には勝てない気がするぞ」
あれから計3回行ったのだがどちらも惨敗であった。
俺は毎回黒色のこまを使っているのだが、今の盤上は三つ黒があるだけであとは真っ白だ。
どうやったらこうなるのか聞いてみたいレベルである。
「主は頭が良いと思っていたのですが、こういうものは弱いんですね」
「くっ、い、いや多分シズクが強すぎるんだよ!! ほらかかってこいバン!! なめた口きいたことを後悔させてやる!!」
「私が見てても『え、今そこに置きます?』っていうのが多かったのですが・・・」
「お兄ちゃんよわーい」
「みんなまで!?」
ひどい言われようである。
アイナとルリにまで言われてしまった。
いやこれは多分シズクがめちゃくちゃ強いのだ。多分。
それにもう三回もやれば慣れてきたもんだ。たぶんシズクには勝てなくても他のエルフには勝てるはず。彼らも初心者なんだし。
「ふふっ、ならご主人と一回ずつやってみればいいさ。私はヴェルを手伝ってくる」
シズクがそういって席を立ち、対戦者が変わる。
「じゃあまずは俺が相手になりましょうかね」
一番手はバンのようでゆったりと俺の前の席に着席した。なんだか困惑している様子ではあったが知ったことではない。
「バン、俺はもうこのゲームを読み切った!」
「読み切っていたらあんな・・・、いえ一回やってみましょう」
「いくぞぉ!!」
他のエルフに見守られてながら俺とバンの戦いの火蓋は切って降ろされた。
*******
「・・・で、ご主人様はどうして部屋にこもってしまったのですか?」
今私がいるのはご主人様の部屋の前なのだが固く鍵が閉ざされている。
昼食を先ほどみんなで食べたのだがその間もご主人様は心ここにあらずと言った感じだったし、食べ終わった後はこうして部屋にこもってしまっているのだ。
服を片付けようとしたのだが入らせてくれる雰囲気ではない。
「ヴェルさんはあの場にいなかったので知らないと思うんですけど、実は今日昼にみんなでボードゲームをやって・・・」
私を手伝ってくれていたアイナが申し訳なさそうに話し始める。
そういえば先ほどシズクが言っていましたね。「リビングで面白いことになっているぞ」って
「それで?」
「その、私たちどころかルリにも負けちゃって・・・。多分今頃中で対策を・・・」
『俺はそんなことしていないぞ!! ただちょっと新しい発明のインスピレーションが来てだれにも部屋に入ってほしくないだけだ、危ないから!!!』
私たちの会話を割るようにしてドアの向こうから声が聞こえた。
どうやら私たちの会話が聞こえていたようだ。
アイナは「あっ!」と言って口を抑えたがもう遅いでしょう。
「・・・なんか色々と察しました。本当にこういうところはおこちゃまですね。たかが娯楽でここまで熱中するとは」
「はい・・・。ですがわざと負けるのも違うと思いまして」
「そうですね、ここは好きにさせましょう。ご主人様、聞こえていますか!!!」
『聞こえてるよ』
部屋の向こうから気だるげな声が聞こえた。たぶんこの間も手を動かしているのだろう。あのゲームの攻略法を見つけるために。
「研究が忙しいのかもしれませんが晩御飯と入浴は必ず行ってくださいね!!! 行かないようでしたらドアを壊して無理やりにでも引きずっていきますので!!」
『わかった』
「よし、まぁ好きにさせましょう。私たちには私たちのやるべきことがありますからね」
「そうですね」
「本当によくわからない人ですね・・・。頭がいいのか悪いのか、大人なのか子供なのか」
こうして私たちは部屋にこもってしまったご主人様を置いておくことにした。
そしてこれがご
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