桃源郷:ボディガード12
桃源郷:ボディガード12
『お帰りの際は桜の木に手を当てて下さい』
当協会のオークションに参加いただきありがとうございました。大変なハプニングに見舞われましたものの、スケジュール通りに終えられたこと大変嬉しく思います。戦利品は大切にお持ちください。当協会のテリトリーから出ましたら、お客様を助けることができません。敷地から出られる際は、警官から事情を聞かれることをあらかじめお伝え申し上げます。何事もなく帰るお客様は、敷地内に植えられている桜の木に手を当てて下さい。そうすれば最初に扉が現れた、まだ蕾も見え木に出られます。そう、最初にお客様がいた場所です。どうぞそのままお帰り下さい。なお、これから当協会は厳しい取り調べを受けることとなります。何しろ、闇オークションの実態が明るみになったので、協力しなければなりません。ですが、当協会はこれからも定期的にオークションを開催いたします。その際は、招待状とカタログを送らせていただきます。この騒ぎにこりずこれからも御贔屓ください。
「これからどうする?」
赤髪の少女が去ってしまってから、ふと静寂が部屋の中を包みました。ショウは両腕を組んでしばらく目をとじます。それが疲れているように見えたので、高時は慌てて言い添えました。
「他にも部屋があるから、そこで休んでくれてかまわない。今日は本当に助かった」
「それなら俺はもう帰る」
高時が瞬きする間に、ちらとリンの方を見てにっと笑いました。
「ボディガードをやめて、次の仕事に行こうと思うんだ」
「休んで行かないのか?」
「BEARで休むさ」
早くスーツを脱ぎたいんだと顔をしかめるショウに高時が微笑みます。ショウは堅苦しい服装を苦手としていましたので、早くいつもの着慣れた服装に戻りたかったのです。
「リンさんも、もう心配いらないようだし、ハクト君によろしく伝えてくれ」
ハクトのようにリンを守れたかどうかはわかりませんが、無事に役割を終えたことにほっとしていました。高時と事前に決めていた報酬のやり取りをすませます。
「最初に決めた額より多いと思うが」
数字が多いことを指摘すると、高時はオークションで落札したばかりのピンクのリボンが入った小箱をテーブルの上に置きました。
「もうひとつ頼まれてくれないか?春の女神に渡してほしいんだ。落札出来たらすぐに渡すと約束していたから、待ってるかもしれない」
ショウが小箱を取り上げしげしげと眺めます。白い小箱はカギがかかるようになっています。高時は小さな金色のカギも一緒に置きました。
「俺が?」
「ついでに顔を見せると良い。ショウはどうしてるかって聞いてきたから」
ショウは一瞬にして広く小高い丘にある一軒の家を思い浮かべました。草原がそよぐとまるで大海原のようです。春の女神がたった一人で使うため、個人スペースとして建てたもので、滅多に来客はありません。春の草花が生い茂る庭には白いハツカネズミがちょろちょろ動き回って、庭の草木がよく育つよう手助けをしています。レンガ造りの家の屋根は円錐になっており、てっぺんには風見鶏がありました。そこまで考えてショウは顔をしかめます。ショウは風見鶏に姿を変えられて、てっぺんに立っていたのです。空腹も苦痛もありませんでしたが、あまり良い思い出とは言えません。新しい友人ができたのは嬉しかったものの、もう一度、同じ風見鶏になりたいかと聞かれればごめん被ると答えます。
「あれから一度も行ってないしな。わかった。引き受けよう」
椅子から立ち上がり、もう一度リンの方に視線を向けますが、熟睡していて起きそうもありませんでした。最後に挨拶できないのは残念だと思いましたが、また会えることもあるだろうと思い直し高時に声をかけ通鷹に右手をあげて暇を告げる挨拶をします。二人の笑顔に見送られて、ショウはオークション会場をあとにしました。
つづく
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます