桃源郷:ボディガード11

『後ろ暗いことのあるみなさんどうぞ早急に退場ください』



当協会のオークション、前半を無事終了し、後半も大盛況であります。終盤となりましたが今から当協会よりお客様に重要なご報告がございます。以前よりまことしやかに伝えられていた、当協会の闇オークション開催疑惑。これは真実の話にございます。ええ、驚かれるのは無理もありません。当協会でも知っている者はほんの一握り、そのため協会のスタッフにも動揺が走っております。噂はありましたが販売の現場は掴まれていませんでした。それが今日、どういった偶然か闇オークションの商品が部外者に知られ、そこから捜査官の耳に入りました。



何が言いたいかわかりますか?ああ、聡い方はすでに準備をなさっていますね。すでに捜査官が当協会のあらゆる場所にいます。もちろん、狙いは我々の悪行を暴くこと。ですが、どさくさに紛れて潜入捜査官として入り込み、別件で逮捕しようと待ち構えている御仁もちらほら見かけます。当協会内で手は出さないこと、オークションが終わるまではお待ちくださるようお願い申し上げましたが、我々も捜査される側の身。彼らの行動を強く止めることはできません。



わかりますね。このオークションに足を運ばれた方は、財力をお持ちの方ばかり。後ろ暗いことのひとつやふたつ、ある方もいらっしゃるでしょう。オークションの最中ではございますが、速やかに退場し己の身を守るのが良いかと思い、こうして報告し申し上げている次第です。ああ、半数の方が席を立たれましたね。無事に逃げ切れるよう心よりお祈り申し上げます。さて、それではオークションを続けさせていただきます。




「おかげでオークションどころじゃなくなったんだ」



高時があたたかい部屋の中で、のんびりとショウに語りかけます。高時と通鷹は後半の部へ参加することは諦め、こうしてゲストハウスでリンとショウが帰ってくるのを待っていました。あらゆる次元のあらゆる世界のあらゆる国の警官が集まる様子を、ゲストハウスの窓から眺めて思わず笑ったと話します。



「それじゃあ、オークションは中止に?」



「残った客もいるから、スケジュール通り続けてる。そろそろ終わるんじゃないか」



「残念だったな。落札どころか、参加もできなくて」



ん?と顔をあげる高時に苦笑します。



「春の女神のピンクのリボン、靴、料理包丁、欲しいものがあったんだろう?」



すっかり忘れていたのか、ああと高時が声を上げたところで、扉を叩く音が聞こえました。ショウが立ち上がり、ドアを開けるとブラックパールを落札したあの赤髪の少女が頬を真っ赤にして立っていました。面食らうショウに向かって少女は拳を握り、高々と天井に向けて突き上げます。



「とったわよ~!春の女神のピンクのリボン・エルフが作った靴・料理の神が使った料理包丁!」



「あの、君は…」



「あら、無事にここに来られたのね、良かったわ」



少女はにっこり笑うと入っても良いかしらと小首をかしげる。高時がどうぞと言うので、ショウはわきにより、少女とひょろりとした男が通るのを確認してから扉を閉めました。手ぶらの少女の横で荷物を持っている男は、急いでテーブルの上に置き確かめて下さいと高時に軽く会釈する。高時が椅子を勧め、お茶とお菓子はどうかと言うのに少女はお菓子だけつまんで口の中に放り込むと、すぐに帰るからいらないと微笑みます。どういうことだろうかとショウが高時と少女を見守っていると、確認を終えた高時が嬉しそうに目元を和らげます。



「落札するのは大変だったんじゃないのか?いくら払えば良い?」



「はい。代金の方ですが…」



「差し上げるわ」



ぎょっとしたのは高時とひょろりとした男。金額を言いかけた口を慌てて閉じます。



「いや、差し上げると言われても」



困ったような顔をする高時と、最初は慌てたもののすぐに落ち着きを取り戻した男。その両方に、少女はとろけるような笑みを向けました。



「お父さんとお兄ちゃんが、ぜーんぶ払ってくれたから大丈夫」



私のお財布からは、ちっとも出してないのとすましています。二人の話から察するに、高時たちが欲しがっていたものを、少女が代わりに落札したようでした。



「しかし、全額甘えるわけには」



なおも言いつのろうとする高時に、少女の顔つきが変わりました。どこにでもいる少女が、泥棒として、普通の少女とは違う顔をのぞかせます。



「こう言っては何だけど、本当に助かったの。あの銀髪の彼女のおかげでね」



すっかり眠りの世界にいるリンにちらりと視線を向けて、穏やかな表情を浮かべました。そばにいる通鷹が軽く会釈するのに、ひょろっとした男が会釈を返す。



「ジェイ…お兄ちゃんもそうしろって」



納得いかないような顔をしていた高時がふっと表情をゆるめました。



「ありがとう。今回は甘えることにする」



「報酬だと思ってくれて良いわ」



二人の間で話がつき、少女と男はこれからやることがあるとさっさと部屋を出ていきました。泥棒はこの包囲網を逃げ切るのでしょうか。それとも警官ともグルなのでしょうか。想像することしかできませんが、今回、泥棒たちが手を貸してくれて助かったとショウは本気で思っていました。




つづく

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