第6話 旅立ち
――――――――――――――
胸が・・・焼けるように熱い。
■■■■■はうっすらと目を開け、弱弱しく口を開く。
「やあ、大丈夫かい。」
声が聞こえる――
「死なないでくれ■■■■■! 余に出来ることがあれば何でもするぞ・・・! だから・・・だから死なないでくれ!!」
横たわる■■■■■、その全身からはとめどなく血が流れている。
■■■■■は苦しそうに再び口を開く。
「なあ、エビルロード、僕は君の―――」
――――――――――――――
目を開ける。いつもの小屋だ。
あの夢は――
どたどたどたッ!バンッ!
激しい音を響かせヴァイスが扉が開く。
「リテア!! 昨日の件について聞かせてもらうわよ!!」
昨日の魔人の件か・・・大方、魔人を逃がしたことについて理由を聞きたいのだろう。
昨日はあの後、日暮れも近かったので一旦小屋に戻ってきたのだ。
戻ったとたん、ヴァイスは話も聞かずに寝てしまった。傷は回復しているけれど、疲労はまだ回復していないようだ。
本音を言うと、昨日の件は忘れてもらえていたらありがたかった。あの問題はこっちにとってもデリケートな問題なのだ。
「リテアってば!!」
仕方ない。真実に嘘を混ぜながら話すか。
「あぁ、あれはだな・・・実は――」
「凄いわ!凄いわよリテア! 私、魔人なんて初めて見たわ! 噂通りの禍々しさ! ねぇ、教えて? あんな怪物、どうやって追い払ったの?」
「・・・・。 か、簡単だよ。 魔人が苦手なものを見せただけだよ。」
ヴァイスがバカで助かった・・・。
「それで? 魔人が苦手なものってなんなの?」
「・・・。ピ・・・」
「ピ?」
「・・・ピーマンだ。」
すまない・・・魔人ども・・・許してくれ。
「ねぇ、リテア?」
不意にヴァイスが尋ねてきた。
「なんだ。」
「スライム・・・素材採れなかったわ・・・ごめんなさい。」
なんだ。そんなことか。
「気にしてないよ。それに、こっちこそ怖い目に巻き込んでごめん。もう素材はいいから・・・。家まで送るよ。」
この魔力量だ。僕の傍を離れた瞬間、魔物たちに襲い掛かられるに違いない。家までは送ってやろう。と、いうか・・・この歳までよく生きて来られたな。昨日のように、今まで魔人に襲いかかられなかったのは奇跡としか言いようがない。
「そういえば、『魔物がヴァイスを追ってきているみたいだ』って言った時、心当たりがある・・・って言ってたよな?」
「え? うーん・・・。 そのことなんだけど・・・。」
ヴァイスが自信なさげに答える。
「今日はイヤリングをはめてなかったの。」
「そのイヤリング、何か効果があるのか?」
「魔除けの力があるらしいの。」
魔除け、か。魔力量を抑えるものかと思ったが違うのか?
まぁいい。そのイヤリングは気になるが、どうせ今日でお別れだしな・・・。
「近くまでこい。『
「あ、ありがとう。アルノン村よ。」
返事をしながら、危なっかしく走ってくる。
ヴァイスが範囲に入った瞬間『
一瞬でアルノン村に到着した。
「それじゃあ僕はここで。」
「まって!」
ヴァイスが制止する。
「お礼はちゃんとしたいの。私たちの家・・・『孤児院ロザリオ』までついてきて。」
ヴァイスは言い終わらないうちに歩き出す。
「・・・しょうがないな。」
『孤児院』、か。
――――――――――――――――
町はずれの小高い丘の向こうに『ロザリオ』が見える。
遠くからでもよく見える、小屋の上のマリア像が私を迎えてくれているようだ。
3日も帰っていないから、皆さぞかし心配しているに違いない。
心配かけちゃった・・・。でも・・・!リテアに助けられて、死んでないからOK!
ポジティブに考えて歩き出す。
「え!あ!お姉ちゃんだ!!」
「ホント!?」
「お姉ちゃんが帰ってきたよー!!」
「シスター!お姉ちゃんが帰ってきたって!」
遠くから声が聞こえる。私のかわいい、かわいい、兄妹たちの声だ。
「ただいまっ!」
『ロザリオ』に着いた瞬間、声と共に兄妹たちを抱き上げる。
「ごめんね!!心配かけたよね!!」
家に帰ってきてほっとしたせいか、涙があふれそうになる。
「姉さん・・・。無事でよかった。」
声のするほうに顔を向ける。
「アンスリウム!!」
ぎゅっと抱きしめる。
「アンスリウム、あなたお陰でお姉ちゃん元気がでたのよ。――ありがとう。」
「・・・良かった。」
アンスリウムの目尻には、うっすらと涙がにじんでいた。
「ヴァイスね? 無事でよかったわ。」
優しい柔らかな声。
「はい!シスター!!」
孤児院設立は、修道会の手によってなされた。毎朝のお祈りでは欠かさず感謝の念を伝えている。――ここの孤児院がなければ、私は生きていなかっただろうから。
視界の隅に、放置されていたリテアが映った。
いっけない!紹介するの忘れてた・・・。
「シスター、こちらリテアさん。私の命の恩人です。」
私の紹介に合わせて、リテアが軽くお辞儀する。
「まぁ。ありがとうございます。リテアさん。ヴァイスは昔っから危なっかしい子で・・・。今回の件は、ヴァイスから聞いて、よく言い聞かせておきますので。本当にありがとうございました。」
シスターが丁寧に頭を下げる。
リテアはこういうことに慣れていない様子。頭を下げるシスターに対し、どうしていいのか分からず狼狽している。
「あ、頭を上げて下さい! き、気にしていないので・・・。」
「そういうわけにはまいりません。どうぞこちらへ。何もないところですが、せめて食事でも召し上がって下さい。」
リテアは子供たちに連れられて、奥の部屋へと向かった。
この場にいるのは、シスターと私だけ。
「シスター・・・。」
「どうしたの?ヴァイス?」
「やっぱりなんでもないわ。」
勇気が出ない。話したいことがあるのに。
今でないといけない。チャンスは今しかないのだ。それなのに・・・!
「ヴァイス? 話したいことがあるのでしょう? どんなことだっていいわ。話して御覧なさい。」
優しいシスターの声。いつも私は、シスターの声に励まされてばかりだ。
目を閉じて深く深呼吸をする。答えは決まった。
「シスター。私、自分が弱いのだと知りました。今回の件・・・。話せば長くなります。1つ・・・今伝えておきたいことは、命を落としかけたということ。」
シスターは私の話に静かに耳を傾ける。
「私は弱い。・・・強くなりたい。私の夢は、『ロザリオ』の為にお金を稼いで恩返しをすること、それと・・・兄妹たちを守ることでした。でもこのままじゃ、皆を守ることすらできない・・・。――自分の命すら守れないのだから。・・・だからシスター。」
真っ直ぐにシスターを見つめて言う。
「私はリテアについていきます。」
ドォン
鳴り響く爆発音。瓦礫が崩壊する音。
すぐに後ろを振り返る。
「うそ・・・そんな・・・。」
瓦礫の山と化した『ロザリオ』の上に――――ドラゴンがいた。
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