第4話 罠

「はぁ。スライムかぁ。」


少女ことヴァイスは重い足取りで歩く。


「身を案じてくれているのかしら。リテアは口は悪いけど実はいい子なのかも・・・」



必死に懇願して教えてもらった深紅の少年の名――リテア



「リテアは私のことが苦手なのかしら?でもいいわ!ゆっくりお友達になっていけば。初めてのお友達になれるかしら!」


どこからか突き刺さるような視線があったが、辺りを見回しても誰もいない。ヴァイスは気のせいか、とずんずん進んでいく。


「それにしてもリテアってば酷いわ。スライムを倒してこいだなんて!私には無理なのに!」


ヴァイスは、死にゆくスライムを思い浮かべては涙をこらえ、ぐっと拳を握りしめる。


「あんなにかわいいのに!」




―――――――――――――――――


リテアは焦土となっている森にて、『遠視スカイビジョン』でヴァイスの行動を見ていた。

音声は聞き取れないため、ヴァイスが何を言っているのか分からないが、さっきの『お友達になりたい!』とでも言いたげな表情を睨まずにはいられなかった。危うく『遠視スカイビジョン』がばれるところだった。

それにしても・・・とリテアはヴァイスを眺める。


「泣きそうになってるぞ・・?まさかスライムにさえ負けるのか・・・?」


数秒もたたないうちに、ヴァイスがスライムと出会うのが見えた。スライムは1匹だ。倒す方法は、魔法を使える者にとっては簡単だ。適当にファイヤーボールでも打ち込んでおけばいい。1発で倒れる。だが、剣や斧などを使う者にとっては厄介極まりない魔物だ。理由は物理攻撃が効かないから。とは言っても、スライムは攻撃力は魔物中最弱、かつ移動も魔物の中で一番遅いので、物理攻撃が得意な者たちは避けていく。ヴァイスが魔法を使えることはサーチ済みだ。



「・・・・」


周囲に複数の気配がある。


「魔物に囲まれているな。」


ヴァイスが詠唱を唱え始めたのを見届けて、戦闘態勢に入る。


「遠出した甲斐があった。」


にやりと笑みを浮かべて言う


「今日は・・・ごちそうだ。」






5秒。刹那のことだった。100程いた魔物は一匹も残っていない。

リテアは人間の常識を超えた動きで魔物たちを刈り取っていった。

魔物たちの意識は死んだことすら知覚できていないだろう。


チャラチャラ とリテアの手の中で結晶が踊る。この結晶は魔石。魔力を持つ者の心臓が結晶化したものであるが、魔法を使えぬ者でも、魔法が使えるようになる代物だ。専用の武器にはめ込んで使ったりする。他にも使い方はあるが、長くなるのでここでは省略しておこう。魔物の多いこの世界では、魔力を持つ者が少ない人間の間で高額取引されている。


「さてと・・・ヴァイスはどうなったかな。」


遠視スカイビジョン』で見ると、ちょうど詠唱が終わって魔法が放たれている。


「氷魔法か。どのみち倒せそうだな。」


魔法がスライムに当たる。

迎えに行こうとリテアが腰を上げたその時、異変は起こった。


「何故・・・スライムは生きている・・・?」


ヴァイスも慌てている。酷く怯えて何かを叫んでいる。


「まずいな」


頭の中で警鐘が鳴る。

魔法に耐えた・・・魔法に耐えられるスライムなど見たことがない。しかもヴァイスの放った魔法は初級魔法ではない。中級魔法だ。初級魔法ですら耐えきれないスライムが、中級魔法に耐えた!?あれはスライムではない?

・・・とすれば何かがスライムに擬態している?


「擬態する・・・か。」


最悪だ。擬態ができるのは・・・上位の魔物、魔人だけだ。

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