第4話 ラインの理由

 物思いから覚める。実家に帰らなかったのは、『やきそばや』が潰れてしまって、あやちゃん達と大晦日の夜を過ごせないのが寂しいのも大きかった。


 でも、なんで今更ラインで。確かに、電話番号は交換したけど。そんなことを思っていると、メッセージが送られて来た。


【沢渡さんへ。覚えていますか。『やきそばや』でお世話になった、あの彩です】


 そんな書き出しから、彩ちゃんのメッセージは始まった。


【去年の件なんですけど、急に店が閉店してしまってすいません。母が体調を急に崩して、長期入院が必要と判断されたので、閉めざるを得なかったんです。沢渡さんにはいつもお世話になっていたのに、本当にすいませんでした】


 急な閉店の裏にはそんな事情があったのか。交流があったとはいえ、常連さんの一人に過ぎなかった僕にこうしてメッセージを届けてくれるとは、いい子だな。


【そうそう。実は去年、大学に受かったんですよ!今は、上京してます】


 そのメッセージに続けて送られて来たのは、僕の家から歩いて30分程度のところにある景色の写真。物凄い偶然だ。


 ふと、彼女に会いたい気持ちがこみあげてきた。


【彩ちゃんへ。事情を伝えてくれてありがとう。僕はただの常連だったのに、彩ちゃんはほんとにいい子だね。それと、入学おめでとう。おばちゃんが体調を崩したのは大変だったと思うけど、無事に大学に入れて良かったね。おばちゃんは元気にしてる?】


【返事が来ると思ってなかったので、凄い嬉しいです。私の入学を機会に母も上京してまして。体力的に『やきそばや』をするのは難しいですけど、家で元気にしてますよ!】


【そっか。おばちゃんが元気で良かったよ。ところで、今住んでるところってどこ?僕のところは、ここなんだけど】


 打ちこんだ後に、自宅近くの写真を送る。


【ええ?私の家の近くじゃないですか。すっごい偶然ですね!】


 やっぱり近くに住んでいたようで、彩ちゃんの文面からも興奮が伝わって来る。


【そうじゃないかと思ったよ。それでさ、これから会わない?香取かとり神社、近くにあるよね。また、一緒に初詣したいなって思って】


【行きましょう!是非!23:30に、香取かとり神社に待ち合わせでどうです?】


【おっけー。楽しみにしてるよ。詳しい話はまた後で】


 そんな風にしてメッセージのやり取りは終わった。また、彩ちゃんと初詣に行けるなんて。ちょっと退屈な大晦日で終わりそうだなんて思っていたけど、こんなサプライズがあるとは。


 僕は待ち合わせの時間が来るのを心待ちにしながら、大晦日の夜を過ごしたのだった。

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