初めて彼女ができた瞬間

ゆゆぅ

初めて彼女ができた瞬間

「彼女つくらないの」だとか、「彼女いないの」とか。平気な顔して人の心を抉ってくる奴等がいる。

つくれるものなら、速攻でつくっていると僕は内心いつも怒っていた。

あぁ、ならばつくってやると、決意したのが約三ヶ月前。

紆余曲折ありながらも本日、ついに完成した。

この世の中に一つしかない。世界最強の僕の彼女が。

思わず頬が緩む。今の僕を他人が見たら、不可能を成し遂げた男として賞賛すること間違いないであろう。


「先輩って、いつも努力の方向性が間違っていますよね」


完成の余韻に浸る僕に、呆れた声で水を差す存在が一人。

この科学研究部の後輩である彼女に、僕は視線を向ける。

そこには一つの目的を成し遂げた男に向ける尊敬の念は無く、ただただ哀れみが浮かぶ表情があった。


「何も間違ってないだろ。周りが彼女つくったらとかほざくから、創ってやっただけじゃないか」


そう。僕は文字通り彼女を造ったのだ。

すべてを見通すかのような黒く大きな瞳。

叩けば金属音がするボディ。

絶対に風になびくことも寝癖もつくことはないキューティクルの様な光沢のある髪。

申し訳程度に女性型であることを示すための膨らみがある胸部。

どんなところでも走破できるキャタピラがついた足に、ゴリラの握力さえも凌駕する両腕。

きっと、どんな女性にも負けることはない世界最強の彼女を僕は創り上げたのだ。


「これって、ロボットですよね。」


「まぁ、簡単に言えばロボットだ。ただ普通のロボットとは違う。家庭の平和から世界の平和まで守れる凄いやつさ」


自信満々に答える僕の耳に、後輩のため息が聞こえてくる。

何がそんなに気に食わないのだろうか。

デートプランの作成や、家庭の味を再現するための情報を、自力で検索できるようインターネットにも対応しているというのに。

後輩に、世界最強の彼女を凄さを一から教えてやるしかないようだ。そうすれば、彼女の何か言いたげな表情も、賞賛する顔になるに違いない。


「いいか、よく聞けよ。この彼女はな――」

「私じゃ、ダメなんですかね。」


彼女の強さを説明する僕の言葉を後輩が遮る。そして、その言葉の内容に驚きのあまり僕は言葉を失った。こいつは何をいっているのかと。

視線を向けると、後輩は照れているのか頬を赤らめ、慣れない笑顔を浮かべていた。

恥ずかしいのか横髪を片手でイジりながらチラチラとこちらをみてくる。その仕草がなんとも言えなく、僕の胸に突き刺さる。

なんということだろうか。僕の後ろには鎮座する世界最強の彼女が、そして目の前には僕に恋慕している後輩がいる。一種のモテ期ではなかろうか。違和感はあるが。


「その、なんだ。僕のこと好きなの?」

「はい」


質問から間髪入れずに後輩は返答する。先程から赤くなっていた顔は、さらに耳まで真っ赤になってしまっている。

そんな後輩を見ているだけで、僕も何故か緊張してしまい、大量の汗をかいてしまう。

沈黙が部屋を支配し、僕の汗を吸って肌着もびっしょりと濡れてしまっていた。

彼女の告白に僕は答えなければいけないのだが、言葉がでてこない。

世界最強の彼女に遠慮しているのではない。あんなもの生身の女性を前にしては、動く鉄クズである。動く分だけ普通の鉄クズより厄介なのかもしれない。


「そのうまく言えないけど、もし良かったら、その付き合ってもらえるかな」


何かうまい一言が言えればいいのだろうか。どうしても、頭が回らない。

必死に絞り出した声も自分でわかるほどに震えていた。顔も熱いので、真っ赤になっていることだろう。

どうして告白された側がこれほどまでに緊張しているのか、分からない。分からないけど、とても幸せな気分だった。


「はい」という短い返事が、後輩から聞こえてくる。

彼女に顔を向けると幸せそうな表情を浮かべていた。きっと僕も似たような表情を浮かべているに違いない。

それが僕に人生で初の彼女ができた瞬間であった。これで心無い周りの一言にイラつく心配もなくなり、そして無味無臭の人生から一転、バラ色の人生が幕を開けたのである。

そこから帰るまでの時間、他愛のない話をした。やれどこに行こうだとか、やれどこが好きになったのだとか、今の幸せを噛みしめるような話を。

時間が経つのは早く、気が付けば窓の外はもう夕暮れであった。名残惜しいがそろそろ帰らなくてはと帰り支度をし、まだ起動すらしていない鉄クズの「シアワセ二ナッテネ」という幻聴を聞きながら、僕は初めての彼女と部室を後にした。

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