第68話 大統領の訓練

「アダムは本当にAIですか、凄く美味しいお寿司でした、ジェレミーはどうですか」

「はい、私が今までに食べたお寿司の中で一番美味しかったです、大統領」

「アダム、アメリカ合衆国大統領と主席補佐官が旨いと誉めてくれましたよ」

「はい、嬉しいお言葉です、ありがとう御座います、デザートをお出しして宜しいでしょうか」

「今日は果物だったわね、名前は何だったかしら」

「びわ、です」

「アダム、びわって何」

「はい、ヘレン、常緑高木又はその果実の事です、皆さんの分の2個づつお出しします」

テーブルの中央から2個づつ果実が入った小皿が人数分出て来た。

キャサリンとカリーが皆の前に並べた。

初めて見る者たちは不思議そうに果実を眺めて、次に彼を見た。

彼は果実の皮を剥いて何度かかじって最後に種を皿に戻した。

見ていた皆も真似て皮を向き始めたが上手く剥けず苦労していた。

最初に剥き終わったキャサリンがかじった。

「甘い、美味しい、初めての味だわ、うん、美味しい」

キャサリンは残りを食べて種を皿に戻した。

カリー、ヘレン、補佐官のジェレミー、大統領もむき終り食べ始めた。

「本当だ、甘いし、他に無い味だ、私は気に入りました」

「私も気に入りました、好物に加えます」

「剥くのがちょっと面倒だけど、その価値はあるわね」

その時には既に彼とキャサリンは2個目を剥き終り食べていた。

「アダム、アダムは剥いて出してくれる事も出来るの」

「出来ます」

「駄目よ、お母さん、このびわは自分で皮を剥く処から味わいが始まっているのよ、自分で剥く事に意義があると思うわ」

「・・・」

「私もそう思いますよ」

大統領が賛意を口にした。

その時、珍しく彼が口を開いた。

「二人の健康診断の結果を聞かせて下さい、アダム」

「トーマス・オースチン大統領は腎不全の初期症状が見られました、年齢に伴う以上の骨密度の低下が見られ、それに伴うホルモン生成機能の低下が見られました、心肺機能の低下も見られました、要因は運動不足によるものと思われます、年齢は54才ですが肉体的年齢は70才でした。

ジェレマイア・ジョンソン主席補佐官は煙草を吸われますので肺機能が低下していました、骨盤の歪みから歩行のバランスが崩れていました、年齢による低下は著しいものはありませんが運動不足からくる弊害が見られました、年齢は35才ですが肉体的年齢は62才でした」

アダムの返答に大統領と補佐官は驚きと不安を滲ませた顔付きになった。

「それで、アダム、処置はどうしたの、今は幾つなの」

ヘレンがアダムに尋ねた。

「大統領の骨密度と心肺機能は17才にしました、筋肉機能は20才にしました、ですが、表層の皮膚機能は45才にしました、メディアへの露出が多い方ですので急激な変化を避けました、全体的な肉体年齢は35才です、補佐官の肺は洗浄し17才の頃に戻しました、骨盤の歪みを修正しましたので歩き、走行が容易になったはずです、筋肉機能は20才にしました、全体的な肉体年齢は28才です」

「大統領が35才、ジェレミーが28才なのね、どうですか、二人は違いを感じますか」

「別に何かが変わったとは感じません、ジェレミー、君はどうかな」

「私も別に何も変わりません」

そこでヘレン、キャサリン、カリーの三人がにやりと笑った。

「何ですか、その笑いは???」

「別に何もありません」

「キャサリン、二人を部屋に案内して着替えをお願いします、私の隣の部屋を二つです」

「解りました、大統領、補佐官、お二人のお部屋へご案内します、お部屋にスーツ、ボディー・スーツがあります、下着も全て脱いでスーツに着替えて下さい、では行きましょう」

キャサリンを先頭に大統領と補佐官が後に続いて管制室を出て行った。

「スーツを着終わったら管制室に来て下さい」

キャサリンが部屋の前に着くと二人に言った。

キャサリンが管制室に戻ってヘレン、カリーと世間話をしていると大統領が戻り、直ぐに補佐官も戻って来た。

「何だね、このスーツは、一体どうなっているのだね、着る時はぶかぶかだったのにファスナーを閉めた途端に身体にぴったりとした、不思議なスーツです」

「えぇ、不思議なスーツです、でもそれだけではありません、そのスーツは防弾、耐衝撃なのです」

キャサリンが説明し、後をヘレンが継いだ。

「でも、それだけでは無いのです」

ヘレンがそう言うとヘレンの姿が普通の服からスーツ姿に変わった。

「このスーツはいろいろな変形が出来るのです」

「それだけではありません、顔に銃弾が飛んで来るとヘルメット、手袋が現れます」

カリーがそう言うとスーツ姿になり顔と頭をヘルメットが包み手袋もしていた。

大統領と補佐官は余りの事に驚きから覚めるのに時を要した。

二人が気付くとヘルメットと手袋とブーツを着けていた。

突然、顔を覆われ補佐官は息が出来なくなると狼狽した。

「補佐官、落ち着いて呼吸して下さい、空気は初めての人でも一週間は持ちます、慣れれば一か月は持つそうです、このスーツは元々宇宙服ですので呼吸は出来ます、次いでに言えばダイビング・スーツでもあります、100メートル以上潜れます」

補佐官は理解したのかゆっくりと呼吸し始め、大統領も大きく息を吸って深呼吸をした。

「先程も言いましたが、そのスーツは耐衝撃です、大統領、失礼ですが証明の為にお腹を殴りますので衝撃を確認して下さい」

キャサリンが大統領に近づいて行くとヘレンが割り込み大統領のお腹を右の拳で殴り付けた。

「いかが、大統領、何か感じましたか」

「何も感じなかった、蚊に差された程も感じなかった」

「それが耐衝撃です、防弾でもあります、これは試しませんが、50口径の拳銃で10メートル先から撃たれても防ぎます、狙撃されても防ぎます、顔や頭に弾が飛んで来ると自動的にヘルメットが現れて防いでくれます、ヘルメットと手袋を外すには宇宙服モード解除、戦闘モード解除と言うか、頭で考えて下さい」

その途端に大統領のヘルメットと手袋が消え、それを見た補佐官のヘルメットと手袋も消えた。

「これからスーツの使い方の訓練を上の体育館で行います、そのスーツはボディー・アーマーでもありますので通常の二倍の力が出せますし汗も吸収してくれます、夕食後にはスーツの変形登録をして下さい、試しに今日着ていた服装をビジネス・ナンバー1として登録しました、礼服、普段着などを登録して下さい、ご理解頂けましたか」

「・・・」

「・・・」

「では、上に参りましょう、お母さんとカリーも一緒に訓練しましょう」

キャサリンはそう言うと管制室から廊下に出て壁から現れた階段を登って行き、その後を大統領、補佐官、ヘレン、カリーが続いた。

「では、此れから走りますので付いて来て下さい、最初はゆっくりから始め少しづつ早くして行きます」

キャサリンはそう言うと中央付近から斜めに外周へと向かいそのまま外周を走り出した。

キャサリンの後ろに大統領と補佐官、その後ろにヘレンとカリーが走っていた。

5周目までは早歩き程度だったが6周目から小走りになった。

小走りは6周目から10周目まで続き、11周目からはマラソンの速さになり、15周目からは1万メートル競技の速さになった。

その頃には5人のスーツで覆われた部分は汗は出ていないが顔と頭だけから汗が出ていた。

「これからヘルメットと手袋が装着されます、お母さんとカリーは髪を束ねて自分のタイミングで装着して下さい」

キャサリンはそう言いながら髪を束ね終えるとキャサリン、大統領、補佐官の三人がヘルメットと手袋が装着された。

その直後にヘレンとカリーにもヘルメットと手袋が装着された。

大統領と補佐官はこれだけ走っても疲れない自分に大いに驚いていたが、ヘルメットが装着されて暫くすると顔と頭の汗が消えて爽快になった事にも驚き、スーツを着ている身体から汗が出ていなかった事に気が付いた。

キャサリンは更に速さを増し大統領の最高速度と思われる速さで5周すると斜めに中央に戻り止まった。

「体験して頂いた様に、このスーツはボディー・アーマーでもありますので疲れを殆ど感じさせませんし老化皮脂も除去してくれます、つまりお風呂、シャワーも必要ありません、但し一か月に一度のメンテナンスが必要です、一か月に一度、別のスーツをお渡ししますので着替えて下さい、其れではスーツの変形能力を説明します」

キャサリンはビジネス・スーツ姿になり、くるりと一回回って、次に赤いドレス姿になり一回回って見せた。

キャサリンがヘレンを指差すとヘレンも同じ様に二つの姿になり、カリーを指差した。

カリーも同様に二つの服装を見せた。

キャサリンはドレス姿からヘルメット付きのスーツ姿に戻ってもう一度ドレス姿になると今度は髪型も変わっていた。

「それぞれの服装に名前を付けて登録して下さい、例えば、私の場合はFBIモードと言えばこうなります」

キャサリンの姿が一旦ヘルメット付きのスーツ姿になり次に黒のパンツ・スーツに変わり靴も黒でヒールも低く変わった。

「お部屋のテレビでファッション雑誌を見て参考にするか、映画で使われた服装でも参考にして下さい」

大統領と補佐官は余りの驚きに狼狽し言葉も無かった。

「では、夕食は19時です、それまでお部屋で服装の登録をして下さい」

キャサリンはそう言うと床に現れた階段を降りて行った。

大統領と補佐官が続いて階段を降りて、それぞれの部屋へと向かった。

キャサリンが管制室に入ると彼が待っていた。

「ご苦労でした、少なくとも後二回は必要です」

「副大統領と国務長官そして父と兄ですね」

「そうです」

「教えるのは思ったよりも頭が疲れます、次回はお母さんかカリーにお願いするわ」

その頃、体育館のフロアーに残ったヘレンとカリーはスーツ姿で先程よりも早い速度で外周を走っていた。

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