第50話 カリーの混沌

「カリー、貴方はアインシュタインの法則を理解しているのでしょ」

「ある程度だけです、他の研究者が出した論文の説だけです」

「えぇ、私も幾つか知っています、解らない事がいっぱいあるのです、もし良ければ私の理解を手伝ってほしいの」

「良いですよ、どうぞ」

「会議でも言ったけど現在の全宇宙の全エネルギーがビッグバンの前にどの様な形態で保存されていたのでしょうか、エネルギー不変の法則との整合は取れるのでしょうか、木星は恒星の成り損ないでもう少し質量が有れば恒星に成っていたはずだ、と言われていましたが、現在は系外惑星が多数発見され、その多くが木星よりも質量が大きな物です、何故恒星には成っていないのでしょうか、何でも吸い込むと言うブラック・ホールの発生直前に両極から何かが放出されるのは何故なのでしょうか、何でも吸い込むと言われるブラック・ホールで事象の地平面の理論が存在する理由が解りません、何でも吸い込むはずなのに」

「貴方にその質問を投げ掛けられた時からずっと考えています・・・残念ですが正直に言って解りません、悔しい、長年の研究が研究者では無い貴方の質問に答えられないなんて、それも一つも・・・悔しい」

「其れには幾つかの理由があるのです」

「質問した貴方がヒントをくれるのですか」

「えぇ、貴方が私の助手と言う名目だから」

「そうですよね、私が助手ですものね、それでヒントは何ですか」

「まず第一にこの世で光は一番早いものでは無い、第二に光より早く移動する船を作る事は可能だと言う事」

「・・・どうしてそんな事が断言できるのですか」

「私は実際にそんな船、宇宙船に乗った事があるからよ」

「宇宙人に攫われた事があるのですか」

「いいえ、何度も乗ったし、これからも乗れるし、その船は宇宙人の、他の惑星の生物が作った物では無いのよ」

「アメリカはやっぱり月で何かを見つけたのですね」

「いいえ、違います、何も見つけてはいません」

「ではエリア51に円盤があるのですか」

「いいえ、ありません」

「では、どうして・・・何処の、誰の、まさかロシアのスパイ」

「まさかそんなはず無いでしょ、此処までも秘密を証ているけど、もっともっと凄い秘密を持つ事になるんだけど守れるかしら」

カリーはキャサリンに聞こえる程の大きな音を立てて唾を飲み込んだ。

「光よりも早い船に乗せるから、その秘密を守れと言う事ですか」

「そうよ、それ以外にもいろいろとね、どう守れる???」

「守ります、守ります・・・でも拷問には絶えられません、きっと、絶対に」

「大丈夫よ、拷問なんて受ける前に救い出して上げるから、大丈夫」

「では、お願いします」

「はい、じゃまずは・・・」


キャサリンはカリーをボディー・リフレッサーに乗せた。

朝食後、父と兄が会社へ母が議会へ出掛けた後キャサリンはカリーに声を掛けた。

家に彼とキャサリンとカリーになった後だった。

その後、テラスで三人で話を昼食後にカリーが少し眠いと言い出しキャサリンがカリーに昼寝を勧めた。


2時間程経った頃、廊下をぱたぱたと走る音がテラスでどんどん近づいて来た。

「キャサリン、あの機械は何なのですか」

「何かご不満でもありましたか」

キャサリン自身も体験し、家族も体験し効果を知っているのでカリーの驚きは理解できた。

「身体の脂肪が減り、顔から皺とシミが消えました、若返った様です、快調です、絶好調です」

「それは良かったわ、気に入ったなら維持できる様に一緒に適度の運動をしましょうね、其れと勿論秘密ですよ」

「解りました、でも一つ質問を許して下さい、あの機器はアメリカ製でも日本製でも無いのですか」

「彼だけの物です、だから日本製と言えなくも無いですね」

「解りました、誰にも言いません、只、どんな病気も治るのなら世界中に・・・」

「あんな機械がある事を知ったらどうなるかを考えて下さい、貴方が考えている人達が使えると思いますか」

「・・・そうですね、権力者とお金持ちだけで独占しますね、絶対に秘密にします」

「彼がちゃんと考えていますから安心して下さい、さぁ次に進みます、車で外に出ます」

二人は彼女の車に乗ってワシントンの郊外に向い細い道に入ると消えてしまった。

カリーは驚きの連続に只キャサリンに言われるままに動いていた。

壁が消えて部屋に入るとキャサリンが言った。

「この部屋は貴方専用の部屋です、此処は勿論リビングです、隣に寝室もトイレもお風呂も有ります。

それぞれの壁の前に立つと開きます。

ベッドの上にスーツがありますから、今から着て下さい、全てを脱いで全裸の上に来て下さいね。

私はここで待って居ます、ベッド・ルームは其処です」

キャサリンが指示した方向にカリーが歩いて行くと壁の一部が消えベッドが見え、その上に皮製の様な服が見えた。

カリーが振り向いてキャサリンを見るとほほ笑んでいた。

何かを決意した様に小さく頷くと部屋に入って行き入り口が消えて壁に戻った。


キャサリンは椅子に座ると「アイス珈琲をお願い」と言いテーブルから現れた珈琲を飲み壁のテレビを付けて世界のニュースを見ながら静かに待っていた。

20分程経つと壁の一部が消えてスーツ姿のカリーが少し恥ずかしそうに現れキャサリンの前でゆっくりと一回りした。

「凄い服ですね、着た時にはサイズが大きいと思ったのにファスナーを締めた途端にぴったりになりました。」

「その服を呼ぶときはスーツと言って下さい、スーツの驚きはまだまだ有ります、此れからスーツを貴方に使い慣れてもらう訓練をします、着いて来て下さい」

キャサリンは部屋を出て廊下に出ると壁際に階段が現れ、その階段を上がって行った。

付いていったカリーが見たものは広い部屋だった。

カリーが気付くとキャサリンの姿がワンピースから自分と同じ様な身体にピッタリとしたスーツ姿になっていた。

「このスーツは防弾です、5メートル先から50口径で打たれても何も感じません、打撃などの衝撃、圧力にも安全です、バットで叩かれても痛くありません、海中にも入れます、宇宙服にもなります、ホディー・アーマーでもあります、生身の貴方の2倍の力が出ます、髪を束ねて襟の中に入れて下さい」

キャサリンが髪を束ねて襟の中に入れ、カリーが真似ると二人の顔がヘルメットに覆われ手にはグローブがはめられた。

「このヘルメットは貴方に危険が迫った時に自動でも現れます、戦闘モード、宇宙モード、潜水モードと言っても現れます、外したい時はモード解除と言って下さい」

二人のヘルメットと手のグローブが消えた。

それから、キゃサリンが母・ヘレンにした様な説明と実地訓練をカリーに行った。


二人はひとまずスーツの訓練を終えて階段を降りてカリーの部屋に戻って来た。

驚きの余りかカリーは長い間無言で従っていた。

「このスーツも彼の彼だけのものなのですね、秘密ですね」

「そうです、こんな物が世の中にあると知ったらどうなるかを考えましたね」

「はい、考えました、絶対に秘密にするべきです」

「そう言う事です、ヒーローは必要ありません、困っている人が眼の前に居ても助ける事も大事ですがスーツの秘密を守る事が第一優先です、困った事です、そんな時はどうするかも少しずつ教えますね」

「お願いします」

「アイス珈琲を下さい」

突然キャサリンがそう言うとテーブルの真ん中が競り上がりコップに氷が入った珈琲が現れた。

驚き顔のカリーにキャサリンが言った。

「自動調理機です、世界中の料理を作ってくれます、材料の在庫があればですが、さてと私の昼食は150グラムの黒毛和牛のヒレ・ステーキと御飯と味噌汁と大根の漬物と納豆にするわ、貴方は何か食べたいものは???」

「・・・」

「貴方は嫌いな食べ物がありますか、アレルギーはありますか、アレルギーはあの機械で治っていますから気にする必要はもうありませんれどね」

「・・・」

「私と同じ物にしましょう、でも150グラムは無理だと思いますので100グラムにしましょう」

直ぐにテーブルの真ん中が上がりキャサリンの注文の食べ物がトレイに乗って現れた。

キャサリンがトレイを自分の前に引き寄せるとテーブルが一旦元に戻り再度上がるとカリーの食べる物が乗ったトレイが現れた。

カリーが自分の前にトレーを引き寄せた。

「じゃ、食べましょう、日本語では食べる時に言う言葉がある事はもう知っているわね、頂きます」

キャサリンがそう言って味噌汁から手を付けた。

「いただきます」

カリーもそう言って同じく味噌汁から手を付けた。


20分後、二人はデザートのサヴァランを食べながらキャサリンはアイス珈琲、カリーは紅茶を飲んでいた。

「今日は驚きの連続です、正直、まだ理解出来ていません、何年も何十年も未来の世界に来た様です」

「そうね、解るわ、私も彼に会ってから何度も驚かされたわ、まだまだ続くわよ、どう抜けたくなりましたか」

「・・・いいえ、逆です、次は何かが楽しみです」

「ふ・ふ・ふ・ふ、頼もしいわね、じゃ、着いて来て下さい」

「次の段階ですか、やはり楽しみな様な少し怖い様な・・・」


二人の前には青く輝く地球が見えた。

「綺麗ですね・・・飽きないですね~」

「そうね、見飽きないわね~、今だに私も飽きないわ・・・処で私達のこの地球周回状態を何と呼びますか」

「自由落下状態です」

「それで不思議ではないのですか」

「・・・あぁ、無重力じゃ無い・・・どう言う事ですか、1Gで飛んでいるのですか」

「いいえ、自由落下中です・・・慣性制御をしているのです」

「慣性制御??? ・・・重力を作っていると言う事ですか」

「その通りです、流石に物理学者ですね、ずっと観ていたいですがきりがありませんので次に行きます」

キャサリンがそう言うと外が荒涼とした薄暗い岩石と砂だらけの景色に変わった。

「月の少し裏側です」

「・・・早い、早いです・・・今、今、光よりも早く動いたのですね、そうですよね」

「そうです」

キャサリンが肯定すると外の景色が又変わった。

「・・・ここは何処ですか、あの遠くに見える恒星は・・・太陽では無いですね・・・他の星系に来たのですね」

「そうです、アルファ・ケンタウリです」

「そうですか・・・4.3後年をたったの1秒、2秒ですか」

「窓の外に映写していると疑いはしないのですか」

「これだけくっきりとしたアルファ・ケンタウリは初めて見ました、無理ですね、此れだけの映像データはありません」

「CGと言う可能性もありますよ」

「もう大丈夫です、健康になる機械、スーツ、調理機、衛星軌道からの地球、全て本物です」

「私の時には、まだ慣性制御装置が無かったので無重力でしたから実感はあったのです、でも今は逆に実感が無くなってしまったわ・・・そうね、アダム、この部屋だけ無重力にして下さい」

カリーがふわふわと漂い始めた。

キャサリンも漂い始めた。

「久し振りの無重力も良いわね」



「ただいま~」

キャサリンが玄関を入り帰宅の挨拶をした。

その後をカリーが着いて来た。

キャサリンはリビングを通り過ぎテラスに出ると彼に凭れ掛かり定位置に着いた。

カリーは二人のテーブルを挟んだ向いのソファーに座るとボーと考えに耽っていた。

直ぐにヨウコがアイス珈琲とカリーに紅茶を持って来たがカリーはヨウコが来た事にも気付いていない様だった。


<少し急ぎ過ぎたかしら、きっと今の彼女の頭の中はカオスね、混沌>

<彼女なら大丈夫ですよ、此れまでの知識の整理をしている処でしょう>

<既存の専門知識が多いだけに大変でしょうね>

<切り替えが上手く行けば理解は早いはずです>

<私より彼女の方が良かったのでは無いかしら>

<私は貴方を知識で選んだのではありません>

<そこが解らないのよね~、何故私なのか>

<その内、解りますよ>

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