第49話 挙式
「サクライ・キャサリン・・・キャサリン・サクライ、も良いわね」
「うう~ん」
「外国籍のFBI職員はやっぱり変よね、副長官は良いとは言ってくれる見たいだけど・・・」
キャサリンは二人の結婚式を思い出していた。
キャサリンに取って結婚式など何の意味も無かった、家族への披露など必要では無いと思っていた、増してや他人に披露など全く必要無いと思っていた。
だが正式に彼の妻になりたい、籍を同じくしたいと言う欲求だけは何故かあった。
名前が変われば都合の悪い事もあるだろう・・・が欲求には勝てなかった。
彼女は彼が同様に世間への披露など望んでいない事は解っていた、籍も望んでいないかも・・・とも思っていた。
二人が会ってまだ一週間も経って居ないその日、キャサリンが突然尋ねた。
「貴方は私を妻にするつもりはありますか」
「勿論、有ります」
「では、籍に入れて下さい」
「解りました、但し、結婚式や披露宴の類は勘弁して下さい」
「いいの、本当に~・・・嬉しいわ、本当に良いの」
「勿論、でも何故突然に・・・ですか」
「だって・・・貴方が余りにも紳士だから・・・貴方はゲイじゃ無いでしょ・・・欲求は無いんですか」
「ありますよ勿論、理性で制御しているだけです」
「何故、制御・・・日本語で・・・そうそう抑制するのですか」
「貴方が妻では無いからです」
「ほら、やっぱり・・・だから妻になりたいの、式なんてしなくても良いわ、私も結婚式、披露宴なんてまっぴらだわ、あんな道化なんて嫌よ」
「道化・・・貴方は変わっていますね、私はそんな貴方が好きですが」
「ありがとう」
「では、貴方が良ければ明日、入籍しましょう」
「明日・・・明日・・・良いの???」
「はい、でも貴方はFBIの職員です、日本では二重国籍は認められていませんし、日本国籍のFBI職員もいません、国籍はアメリカのままが良いでしょう」
「そうですね~~念の為に副長官に承諾を貰います、承諾しないなら辞めます、FBI」
「ありがとう、貴方の気持ち大切にします・・・でも大丈夫でしょう、相手が私と言えばね」
彼の言う通りだった。
「突然の電話でお許し下さい」
「何かね、彼に何かあったのかね」
「いいえ、違います、お許し頂きたい事が御座いましてお電話しました」
「何かね」
「私、結婚する事に致しました、その許可です、アメリカ人ではありません」
「・・・そうですか、残念ですが、FBIに在籍は出来ません、彼は知っているのですか、きっと落胆しますよ」
「それはありません、私の結婚の相手が彼だからです」
「・・・何~・・・先程の私の言葉は取り消しです、君には引き続きFBIに在籍して彼の通訳をして貰います、宜しいですね、しかし、君も人が悪いね~、最初にそれを言ってくれれば良いものを」
「申し訳ありません、そして、ありがとう御座います、日本は二重国籍を認めて居ませんし、私はFBIの在籍を続けたいので、私の籍はアメリカのままです、本日、日本大使館へ届けでをします、式は行いません」
「私が役に立てる事はあるかね」
「ありがとう御座います、では私事で失礼致しました」
キャサリンは在米日本大使館の場所を知っていたがネットで確認した。
場所は合っており駐車場は前日までの登録が必要との事だったので直ぐにそのままネット予約した。
朝食の後、家族の皆が食堂にまだいる時にキャサリンが最初に立ち上がり言った。
「じゃ、今日は出掛けるからお先に失礼」
「おや、早いお出かけね、何かあるの」
ヘレンが何気なくキャサリンに尋ねた。
「これから二人で結婚しに行くの~、行ってきま~す」
「はい、はい、いってらっしゃい」
ヘレンは冗談と受け取り気軽に送り出した。
「お母さん、今のは本気だと思うわ」
「僕も」
「私もだ」
「家族の参加も無しでなの~」
「だってキャシーは昔から結婚する時は式はしない、披露宴もやらない、籍を入れるだけっていってたじゃないか」
「冗談でしょ、女はその時になれば変わると思って居たんだけど」
「あのキャシーが考えを変えるはずが無いだろう」
「そうね姉さんは変わらないわね」
「変わるはずが無いね~」
「じゃ~今晩の夕食は赤飯ね、ヨウコに頼まなくっちゃ、ヨウコさ~ん」
何時もの様に二人は彼女の車で出掛けて行った。
キャサリンは嬉しくてしょうが無いのか誰かれ構わずに「今すら結婚式よ」とか「今日から彼の奥さんなの」などと言っていた。
それを言われた人達は皆「おめでとう」と答えてくれキャサリンは「ありがとう」と返していた。
「嬉しいわ~あ・な・た~」
横に座る彼にキスを何度も何度も繰り返した。
駐米日本大使館はキャサリンの家の直ぐ近くだった。
右手にヒルトン・ホテル、左に食材店、インド大使館が右に見える交差点を右に曲がり領事館、大使館が並ぶ通りを進み左に目的地の日本大使館が見えた。
昨日、駐車場の予約をして有ったので直ぐに車が止められ玄関へと向かった。
何時もは玄関の左右にアメリカ人の警備員二名がいるだけであるのに今日は日本人の事務員も立っていた。
二人が玄関を入ると、その事務員がキャサリンに尋ねた。
「ミス・ヘイウッド様ですか」
「はい、そうですが」
キャサリンが驚きとも狼狽とも付かない声で返事を返した。
「こちらへいらして下さい、大使がお待ちしています」
二人は言われるがままに事務員に従い三階の豪華なドアの部屋に入った。
「いらっしゃい、お待ちしていました、本日は天気も良くてなによりの結婚日和です、おめでとう御座います」
「どうして御存じなのですか」
大使は話ながら二人をソファーに勧めた。
何とテーブルにはアイス珈琲が二つ用意されていた。
キャサリンは浮かれて叫びながら来たので早速珈琲を半分も飲んで仕舞った。
「どうしてってお聞きしたいのは、こちらの方ですよ、大統領から日本人の男性とアメリカ上院議員の娘が結婚するからよろしくと電話で頼まれる何て私は初めての事でしたからね」
「二人はアメリカの超重要人物だから間違いの無い様にとの依頼でして、結婚証明書の承認者は大統領と国務大臣です、先に保証人の署名も珍しい事ですが国務省の方が待っていると言うのは奇跡か魔法の様です」
横に立つ役人然とした男が軽く頭を下げた。
「私達は初めてです、何をどの様にすれば良いでしょうか」
キャサリンが尋ねた、が、横から彼が証明書にサインし、下の欄を指差しキャサリンにサインを促した。
キャサリンがサインすると彼が大使に渡した。
彼が内ポケットからパスホートを出して事務官に渡した。
キャサリンもバッグからパスポートを出して事務官に渡した。
大使が案内してくれた事務官に書類を渡すと国務省の人と部屋から出て行った。
「暫く、お待ち下さい、結婚証明書とパスポートを待ちましょう、貴方は勿論日本人の方でしょうが、正直、この様な綺麗な、それも上院議員のお嬢様と結婚し、その承認者が大統領・・・貴方は何者なのですか・・・同盟国とは言え他国の大統領に重要人物と言われる方を知らないなんて大使として恥ずかしい失態です」
出て行った二人がドアの前まで急ぎ足で来てドアを開けると大使に書類とパスポート二冊を渡した。
大使がキャサリンに書類とパスポートを渡した。
「あぁ~、貴方の奥さんよ、貴方の妻よ、嬉しい~」
そう言って場所も忘れて彼に熱烈なキスをした。
もう彼女には場所も回りの人も存在していないかの様だった。
「貴方のパスホートも見せてね・・・あぁ、ちゃんと妻の欄に私の名前が書いてある・・・嬉しい」
大使はほほ笑んで眺めていたが、事務官二人はとても綺麗なキャサリンにキスされている中年男を羨まし気に見つめていた。
「ミス・いや、何とお呼びすれば宜しいでしょうか、ミズ・ヘイウッド、サクライ夫人、奥様・・・」
「ミズ・ヘイウッドはFBIの職務中の時ね、でも友達はキャシーと呼ぶのよ、大使とは今後何度もお会いするでしょう。ですからキャシーと呼んで下さい」
「では、キャシー、こちらの日本人、貴方の旦那様のご職業をお伺いしても宜しいでしょうか」
「えぇ、構いません、無職です、仕事はありません、でも秘密を一つお教えしましょう、極秘中の極秘です」
キャサリンはそう言うとまだ残っていた事務官二人に眼をやった。
「お二人はご苦労様でした、後の手続きをよろしく」
大使はそう言って部屋の中を三人だけにした。
「彼はホワイト・ハウスに何度も行ってします、大統領が変わりましたが理由を御存じですか」
「・・・まさかアメリカの大統領を変える力をこの方が日本人のこの方が・・・サクライ様、サクライ様」
「ありがとう、大使、大変お世話になりました、私はまだアメリカ人のままですが帰化する時はお願いします」
「キャシー早くお子さんの顔を見せて下さい」
「頑張ります、いっぱい頑張っちゃいます」
キャサリンはありがとうと言って、大使の頬にキスをして大使を茫然とさせたまま部屋を後にした。
その後、手配の礼を言いにだけにホワイト・ハウスに向かった。
ゲートで拒否されると思ったが待っていたかの様にセキュリティー・チェックも無く建物まで行った。
建物の玄関でもドアを開け歓迎され大統領執務室へと通された。
「ミスター・サクライ、おめでとう御座います」
「おけでとう」
「おめでとうございます、貴方に会える日を楽しみにしていました」
大統領とはこの日が初めての対面だった。
電話とテレビ電話の画面では何度も会い話はしていたのだが。
二人は近寄ると軽く会釈を交わし互いに見合った。
彼は大統領の眼を見ていたが、大統領は彼の上から下までを何度も見つめた。
大統領の背丈は180センチを超え、一方彼は170センチも無かった。
大統領は目線が合うと実際には見下ろしているのに見下ろされている様に感じた。
「改めて前大統領の事では大変ご迷惑をお掛けし、お世話にもなりました、ありがとう御座いました」
「ありがとう御座いました」を日本語で言った。
「いいえ、元々一週間で止めて頂くつもりで居ました、予定より少し早くなっただけの様です」
キャサリンが変わりに言った。
「はぁ~、彼は前の大統領を元々止めさせるつもりだったと言う事ですか」
「イエス」
彼が答えた。
「改めて、ご結婚おめでとう、正直な話、相手が我が国の国民でFBI職員で良かった」
「知り合って直ぐに婚約した時にも驚きましたが、結婚もまた早いですね」
「僕も早いとは思いますが、お二人はとてもお似合いです」
「私は知り合った翌日でも良かったのですが、彼が結婚を望んでいないの思ったの、でも彼が私の手も握ってくれ無かったのよ、キスも私からしたのよ、ゲイなのかと思ったくらいよ、彼に聞いたら結婚して居ない人とは駄目だと言うのよ、だから籍を入れる事にしたの、私は結婚なんてしなくても良いのに」
「えぇ、じゃ貴方方はまだ~その~」
「そ~、私はまだ処女よ」
「処女~、それは又、前時代的な方ですね、素晴らしい、私の娘に教育してほしいものです」
「私も若い時なら困った相手だが今なら賞賛いますね」
「僕も結婚相手が処女なら浮気はしないでしょうね、確約は出来ないが確率は格段と低くなるのは間違いないでしょう」
「ありがとう、これで私もさよなら出来ます、あぁやっとだわ」
「君は珍しい人だね、貴方程の美人からすらすらとその様な言葉を聞くなんてね」
「男の人の中には美人は、綺麗な人はトイレも行かないと思っている人がいるらしいけど女には絶対にそんな人は居ないわ、それに男はスケベって言うけど女同士の会話を聞いたら驚きますよ、きっと」
「大統領、提案が有るのですが・・・」
「解った、君の奥様と私の奥さんは良い友達になるかも知れない、試しても損は無いだろう」
「夕食会でも如何ですか、家族全員で」
「そうしよう」
その時、執務机の電話が鳴った。
「ハロー」
「・・・」
「OK、通しなさい」
電話を切り二人に言った。
「君の、君達の母親が来たよ、私に話があるそうだ」
「二人の結婚の話でしょうか」
「彼女は二人のプロジェクトの事は知らないはずだが、彼女なりの情報網がある様だね」
ドアが開けられ、上院議員・ヘレン・ヘイウッド女史が入って来た。
「あら、まぁ~、貴方たちが居たの、なら私が来る必要は無かったわね、あぁ、大統領、ご面会ありがとう御座います、副がとれてからは初めてですわね、ご就任おめでとう御座います、大統領」
「ありがとう、副が付いている時には大変お世話になりました、その時の事を思えばもっと早くお会いするべきでした、申し訳ありません」
「二人が結婚の報告に来たと言う事はご迷惑をお掛けした様ですわね、母親としてお詫びとお礼を申します」
「いいえ、頼まれた訳でも無いのに余計なお手伝いをしただけですよ」
「それでもお世話になった訳ですからお礼を申します、ありがとう」
<あの時、母がプロジェクトについて尋ねると思ったけど、流石に老練な政治家と言うべきね、回答が得られそうも無い質問はしなかったわね>
<確かに流石ですね、頭の良い方です>
<処で今日は何処へ連れて行ってくれるの>
<今日は何処へも行きません、ぐっすり寝ましょう、発掘も物理、天文の理論もまだまだ時間が掛かります、明日から何日かは自由です>
<そうと決まったら部屋に行きましょう・・・でも寝るのはもっと後よ>
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