恋唄

 汚れたあの街で生きていた

 教室の窓から少しだけ海色が覗けた街

 放課後の空の下、窓を開けてあの子と見ていた

 いつか海に行こうねと

 工場の帰路で何度も繰り返した約束は

 あの子と一緒に夏の爆風に消えた


 あのころ、海は遠すぎて

 赤色を投げ捨てる街に居場所はなかった

 隙間の星空に、息を潜めて

 二人だけの夢を描いた

 かなしくない場所が海にあるよと

 二人なら何処にだって行けるよと

 あの子はいつも笑顔だった


 いつかまた教室で居眠りなんかして

 放課後には風にしがみつきながら

 手をつないで

 好きなだけ唄って

 あの街を駆け抜けて

 何もない駅にだって

 海にだって

 空にだって

 何処へだって

 泳いで行くんだ

 子供みたいに信じられた

 二人だったころの夢


 今、かつて憧れた海に立つ

 綾波の上に剥がれ落ちた星空が嗤う

 拾い上げた砂だって零れ落ちて波の中、何もかも溶けてゆく

 もしも泳げるなら

 何処まで息継ぎを続ければ、辿りつけるんだろう

 あの青と青の線上まで


 目を瞑ってこの海に沈もう

 二人でしか行けない場所に

 行けるかな

 行けるかなあ

 夜の水に足を埋めて

 ひとり立ち尽くしていた


 あのね、聴こえますか

 あの子はわすれなの海を唄う

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