ひみつのわだつみ

泥飛行機

潮風

 学生服も脱げなかったころ

 心に隙間風が鳴る日には

 海岸線を自転車で走った

 舗装路に散らばる光ひとひら

 鼻孔掠めた色濃い透明


『街ヨリ帰ル』

 線路を走る少しの躊躇

 車窓に焼け付くガードレールの白は

 渚の風の乾きを告げる


 埃舞うマニュアルであの海へ

 ここは漁業の町 

 海岸は冷たくはためき

 無人の堤防を打つ波は淀む

 潮の匂いも魚の匂いも

 子供のころはもっと濃かった

 海原はもっと大きかった


『アノ街ニ帰レ

 アノ今日ニ帰レ』

 懐かしい風は吹くこともなく

 遣る瀬無さを喪失を

 人の海を愛しくなれと言う


 幼けき時を愛するために

 老いた列車に乗ったのではない

 線路を走る見慣れた夕日

 子を連れ再びこの町に帰るとき

 青空を自転車で追いかけていた日々も

 透明の彼方に散り行くだろう

 遠い海岸線

 風が心を抱きしめて

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