第28話 回答への光明
依頼を終えたアラタ達は、公爵への報告はグスマンにまかせ、ニーシア組合にて夕食をとっていた。本当はグスマンも誘ったのだが、断られてしまった。
なんでも、バリスが言うには誰もグスマンが食事をしている光景を見たことは無いらしい。本当に謎の多い男だ。
「つまりバリスの見立てによると、あの巣はあまりにも不自然ってことなんだよな?」
帰りの馬車でバリスから聞かされたのは、先ほどの依頼で感じたという不自然さのことだった。ベテランの冒険者かつ一流の狩人である彼女の見立てだ。間違いなく何らかの人為的な何かで、あのガストウルフの集団があの森にいたのだろう。
「ああそうだ。そういえばお前たちはこの街に来る途中ガストウルフの群れと戦ったといっていたな? 何匹くらいだったんだ?」
「群れっていってもあれは確か三匹だけだったぞ。まあルノワがいなければ食い殺されていたんだが……。――あっ! ワーウルフって奴も含めれば四匹か」
ガストウルフも嫌だが、あのワーウルフとかいう化け物なんて二度と相手をしたくない。あんなの二度とごめんだ。
「ワーウルフ!? アラタ達はワーウルフまで相手してきたのか? いよいよおかしいな……。ワーウルフなんてヴェスティア公爵領で見たことないぞ」
「え? ワーウルフってガストウルフの亜種みたいなものじゃないのか?」
「ワーウルフは魔獣ではなくて高位の魔族だ。まああいつは所詮成りそこないで変身ができずにいるようだったから、ガストウルフの亜種と言って差し支えないかもしれないがな」
アラタの疑問に答えたのはルノワだ。ワーウルフは魔族だったのか。その頭にフルスイング決め込んだ自分を思い出してアラタは思わずぞっとする。
――まてよ、変身?
「なあ、ワーウルフが変身ってあれからさらに凶悪な形態にでもなるのか?」
「馬鹿を言うな。お前の世界にも狼男の伝承はあったみたいだぞ? ちゃんとしたやつは普段は人間種に近い姿で知能が高いんだよ」
なるほど狼男、とアラタは納得する。狼男の伝承はアラタも確かに聞いたことがある。満月を見ると変身する亜人の話だ。
「もしかして、ニーシアの街の襲撃者の正体が魔王級のワーウルフだったならさっきの依頼とつながらないか? ノーセン近郊の森で出会ったワーウルフは、ガストウルフを従えていただろう? ならさっきの依頼で倒したガストウルフ達は、この街に人間体で潜むワーウルフが潜ませていたんじゃないか?」
「――それはあるな。私が襲撃者の魔力を途中で追えなくなったのも、人間態に切り替えたとすれば説明がつく。そして魔族は魔獣を巧みに操る者も多い。そこのししゃものようにな」
アラタの仮説にルノワは同意し、傍らでグスマンからの解放を祝って晩酌と洒落こんでいるししゃもを見る。全盛期からすれば非常に弱っているししゃもの魔力であれほどの大物を操れたのだ。ワーウルフが眷属を、それも現役の魔王級が操るとなれば、あれほどの数でも不思議ではない。
「そうだと仮定して、それならばそのワーウルフはこの街のどこに潜伏しているかとなるな……」
バリスの言うとおりだ。ワーウルフが怪しいとわかっただけでは問題解決へは進まない。ワーウルフは人間種に近い姿に変身するという。ならば容疑者候補はこの街の人間種全員となる。膨大な数だ。
「なあ、ワーウルフの人間態を見分ける身体的特徴とかはないのか?」
「そんなものはないな」
ルノワに一言で否定されてしまう。まあ確かに特徴があるならもう言っているよなと思う。
「まあワーウルフ自体の種族的特徴と言えば、獣の身体なので瞬発力があるな。アラタも味わったみたいだが、牙や爪の一撃が獲物を仕留める。内在魔力はえてして低いがその身体能力は驚異的だ。この特徴もししゃも殿が見たという夜の街を高速で動く徘徊者と合致するな」
「あとはあいつら犬みたいなものだぞ。鼻もきくし、だいたい犬だ」
バリスの丁寧な解説にルノワが雑な感じの説明でかぶせてきた。ワーウルフに手ひどい目にあわされた私怨かと思うほどの雑な種族解説だ。
バリスが言う様に、確かにあの爪の一撃は驚異的だった。食らっていれば真っ二つに切り裂かれていたかもしれない。鎧を着ている今となっても恐怖だ。
犬と言えば、そういえば元の世界で
一緒に遊ぶのは楽しかったが、犬の世話は大変そうだった。散歩や糞尿の処理等、いろいろと気を使うことが多くて、生き物を買うということの大変さを教えられた。そう、食事にも――。
そこまで考えたところで、アラタは自分の中で何かが繋がりそうな気がする。従兄の犬の思い出は、元の世界に対する自身のくだらない感傷か? いや、この話を思い出したとき何かが引っ掛かった。
――そう、食事。
テーブルの上には、アラタ達が食事を終えた皿が並んでいる。まあ大食いのバリスの前には並んでいるというよりは積まれているという表現が正しいが、それはどうでもいい。
今日久しぶりに戦闘をこなしたアラタは肉を食いたかった。だからメニューは異世界に来てからいつものメニューの硬いパンと薄味の野菜のスープに加えて、牛肉と野菜の炒めものだ。
「似たような生物が住んでいる世界なのだから」ルノワは以前アラタにこう言った。
ならば、先ほどルノワが語った“犬”とはアラタの知る“犬”とほとんど同一生態なのだろう。
あの時あの人物は、アラタが何気なく勧めた料理に対して不自然な拒否の仕方をした。あれには何か意味があったのではないか。
――そう思うと一連の流れがアラタの中で繋がる。繋がってしまう。
「なあ、確信は持てないんだが……」
アラタは、意を決するとルノワとバリスに話始めた。目線の端ではニーシア組合ランキングの派手な色の紙が、いやに自己主張していた。
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