なんか、姉ちゃんから頼まれる

「残暑見舞い書いたわー」


ベッドでゴロゴロしていたら、姉ちゃんが前触れもなく部屋に入ってきた。

姉ちゃんは基本ノックをしない。朝昼晩関係なく僕が部屋にいると思ったら突然ドバーンと入ってくる。


「残暑見舞い書いたんよ、執行さんに」


そう言って姉ちゃんは、寝転がっている僕の胸の上に、ハラリと一枚の葉書を落とした。

どうやら絵葉書らしい。胸の前で手を合わせた阿修羅像がこっちを見ている。

いや、阿修羅て。


「いいだろ?メールじゃなくてわさわざ葉書で出す感じ。しかも、暑中見舞じゃなくて残暑見舞いってとこもいいと思う」

いや、阿修羅て……。


「じゃあ、出してきて、今」

「え、今? 今は無理だって」

「無理なわけないだろ。すぐそこのポストに行くだけなんだから」

「いや、今はないって。今は無理だから」

「絶対行けるわ!すぐそこのポストだろ!」

「ホント今はないから、後でね」

「今行かないとズルズル後回しにするだろ。すぐそこだから行ってこいよ!」

「いや、姉ちゃんにとってもすぐそこでしょ」


なんてやり取りをしたのが、かれこれ三週間前。

残暑見舞いは、まだ僕の部屋にある。

ヤッベ、そろそろ出さないと。


重い腰を上げてポストに向かう。

残暑見舞いって9月の末に出してもいいのかな?

などと思いながら、ポストの投函口に阿修羅の絵葉書を突き出したちょうどその瞬間を


「ーーあ」

「ーーあ」


偶然学校から帰ってきた姉ちゃんに見つかった。

「……え、お前、何それ?」

ごめんて。

「……え、お前それ……何出そうとしてんの?」

マジごめんて。

姉ちゃんは僕が手にした阿修羅の絵葉書をじっと見つめ、


「………二通目?」

返し、おもろっ。

ごめん。バリバリ一通目です。

ホンマごめんなさい。


姉ちゃんは本当に変な人だけど………これはさすがに、僕が悪い





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る