なんか、姉ちゃんが色々溜め込む



「ああ、多いわぁー」


夕方。コンビニから家に帰ったら、姉ちゃんが冷蔵庫の前で、内蔵まるごと吐き出すような深い深い溜め息をついていた。

「ああ、多い」

「………」

「多いわぁー」

「………」

「なあ、お前もそう思うよな??」

うおー、同意を求められたー。


「え。何のこと?全然わかんないんだけど」

まるで今気付いたかのようにそう問うと、姉ちゃんは開きっぱなしの冷蔵庫を指差した。

「ほら、この冷蔵庫だよ。お前、これ見てどう思うよ?」

「いやあ、どうと言われても……」

早く扉閉めたらいいのになとは思うけど。

「食材がほら、みっちり詰まってるだろ?」

「ああ、うん……」

気になるなぁ。早く閉めてくれないかなぁ。

「もう上から下までぎっちぎちに詰まってるじゃん?」

「う、うん……」

冷気が逃げるなぁ。

「こんなに詰まってると、もう………吐き気がするよな」

感覚が独特すぎる。


「ごめん、ちょっとわかんないわ」

「何でわかんないんだよ」

「いいんじゃん、別に。冷蔵庫なんだし。食材一杯入ってる方がいいでしょ」

「出たよ」

何が?

「お前はただ食べるだけの人間だからわかんないんだよ。わたしみたいに作る側だと、冷蔵庫の食材って消費しなくちゃ行けないノルマになるから、こんなにぎっしり入ってたらストレスでしかない」

「はあ、そんなもんなんだ……」

「これは料理を作る側の人間なら誰しもが持ってる感覚なんだぞ」

「へー」

「母さんはその感覚がないから、すぐ冷蔵庫をぎちぎちにするんだよな」

あれれ?誰でも持っている感覚なのでは??

「冷蔵庫は空っぽなのが理想だわ。食材はその日必要な分だけ買って1日で使いきる。想像してみろよ、家帰ってきて、冷蔵庫開けてスッカラカンだったらどう思う?爽快だろ?」

なんで電源入れてるのかなって、思うけどなぁ……。


「はぁー、ストレスで目眩がしてきた。しかもこれだけじゃないからな」

まだ続くのかこの話。

ようやく冷蔵庫の扉を閉めてくれた姉ちゃんは、返す刀で食卓を指差した。

そこにあるは、半透明のパリパリのビニール袋に入ったーーー。


「何、これ? 食パン?」

「そう。向かいの鈴木家のお母さんがお裾分けにって、持って来た。さっき」

「へー、いいじゃん。ホームベーカリー持ってるんだね、鈴木家」

「また食材が増えた……」

「いいじゃん。ほら、出来立てパン。最高じゃん」

「買い置きの食パンまだまだあるのに……」

「あ、クルミ入ってる。姉ちゃん、これ、クルミパンだぜ」

「お前、このパン、鈴木家の庭に投げ込んで来てよ」

出来るわけないだろ。倫理観どこに捨ててきたんだ。


「ギリギリ許されるんじゃないかなー。相手の好みもリサーチせずに腐るものを送りつけてくるとか、なにがしかのハラスメントに該当すると思うんだよなー」

無茶苦茶言い出したぞ、この人。

「だからって投げ込んでいいわけないでしょ。僕が朝に食べるから置いといてよ、クルミパン」

「買い置きの食パンはどうするんだよ!冷凍庫にみっちり入ってるんだぞ」

「そっちも食べる。両方食べるから!」

「朝から二枚もパン食うなよ!」

どうしろってんだよ、もう。


イライラの募る姉ちゃんとは距離をとるに限る。

僕は逃げるように自室に引っ込むと、ずっと手に持っていたコンビニ袋をベッドに放り投げた。

衝撃で6枚切りの食パンが顔を出す。

こんな日に限って、コンビニくじで食パンが当たってしまうなんて。

言い出せなくて部屋まで持ち帰ってしまったけれど…………明日からパン三枚食べる日々が始まりそうだ。

なんで僕が、こんな気苦労を強いられるんだろう。


うちの姉ちゃんはやっぱり、変だと思う



























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