なんか、姉ちゃんと勝負する

「ちょっと、そこのゴミ取って!」


麦茶を飲みにリビングに入るなり、ソファに座っていた姉ちゃんにそう言われた。

見れば、ゴミ箱の横に丸めた紙屑が転がっている。拾ってゴミ箱に捨てようとすると、

「捨てるなって!取ってって言っただろ」

ん?ゴミじゃなかったのか、これ。


言われるままに紙屑を手渡すと、姉ちゃんは丸めた紙屑をさらにギュッギュッと握り、

「すんっ」

と、意識を集中させ、

「えい!」

とゴミ箱めがけて放り投げた。

紙屑は狙いを大きく通り過ぎ、壁に当たって床に転がる。

「また外れたし。ちょっと今度お前やってみ?」

ええっと、僕、麦茶飲みに来たんだけどな……。


とはいえ、姉ちゃんに逆らってもしょうがない。僕は再び紙屑を拾い、姉ちゃんの横に腰を下ろして狙いを定めた。

ソファからゴミ箱までは2~3m。球技が得意

なら目を瞑ったって外さない距離だ。

「やあ!」


もちろん、僕は球技全般不得意なので、両目を開けても入らない。紙屑はゴミ箱の手前に転がった。

「下手だなあ、お前」

「そうだね。下手だよね……僕達。ねえ、もう行っていい? 喉乾いたんだけど」

「よし、二人でゴミ箱シュート対決しよう」

「ねえ、もう行っていい? 喉乾いたんだけど」

「五回勝負な。はい、紙屑取って」

ねえ、喉乾いたんですけど!



こうして、姉弟によるゴミ箱シュート対決が始まった。口角泡を飛ばす協議を重ね、ルールは以下の通りに定められた。


・紙屑をそれぞれ五回投げ、より多くゴミ箱に入れた方の勝ち。

・紙屑は各々が好きなように作成する。

・先攻後攻は一投ごとに入れ換える。

・入れた回数が同数だった場合は、よりプレッシャーのかかる一投目と五投目の得点を倍付けとして計算する

・それでも同点だった場合は、サドンデス方式で延長戦を行う


以上、厳正なルールの元、正々堂々対決を行った結果、成績は………。


0-0


ルールの意味よ。

誰か入れろよ、一球くらい。

「十投して一回も入らんとか。終わってんな、ウチら」

「まあまあまあ、良いじゃん別に。意外に楽しかったよ、僕は」

「え、そうなん?」

「うん、一回も入んなかったけど、以外に白熱たし。ドローでも面白かったかなって思うよ」

「ふーん、でも『思い切り』ポイントが加算されるから、ギリギリわたしの勝ちだぞ」

あれ、知らない間にルールが改正されてるぞ。


「とゆー訳で、わたしの勝利となります」

「待って待って。おかしいおかしい。『思い切り』ポイントって、何? 僕、何のポイント取られたの?」

「お前は、アレだよ。外し方がダサすぎる」

……外し方? 

……とは?


「お前、五球ともショートして落ちてるじゃん」

ショート? 

確かに僕の投げた玉は、五回ともゴミ箱に届かずに手前に落ちたけども……。

「弱気になって、ひよってんのがダサすぎる。若者なら豪快にオーバーして外せよ。イライラするわ、お前の外し方」

どーゆー種類のクレームですか。

「演技点があるなら最初に言ってよ。後からズルいよ」

「しょうがないなあ。じゃあ、もっかいチャンスやるから投げてみろよ」

「もういいよ。どうせ、入んないし」

「入る入らないはどうでもいいから。オーバーして外してみろって言ってんの」

それ、何の儀式だよ、もはや。


姉ちゃんと言い争っても意味はない。

さっさと終わらせたい一心で放り投げた紙屑は、リビングルームに大きな放物線を描き、


「………」


ゴミ箱の横に落ちた。


「……ええー」

何さ。

「……横って、お前。ええー」

いいじゃん別に。少なくともショートはしてないんだから。

いいじゃん。

「……ええー」

喉乾いたんですけど!


うちの姉ちゃんはやっぱり、変だと思う

























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