なんか姉ちゃんが、忘れる
今日は僕の誕生日だ。
………まあ、だからなんだってわけでもないけれど。
高校生にもなって、もういくつ寝ると誕生日なんてのも恥ずかしい話で。僕にとってはただの平日と変わらない。
それどころか、ここ数年で誕生日がどんどん苦痛になりつつある。
祝われるのが苦手なのだ。
元々記念日関係に疎い僕は、死に一歩近づくだけの日をおめでとうと祝われると、どんなリアクションをとればいいのかわからなくなる。
家族や友人達が100%善意で祝ってくれている以上、止めてくれとも言えないし、真顔で受けるもやはり違う。
つまり、喜んだフリをしなくてはいけないのだ。
これが辛い。
うすら寒い。
なんで誕生日にこんな苦行を強いられなくてはならないのだろう。
恨むぜ、誕生日。しんどいぜ、誕生日。
そんな僕の誕生日が、あと10分で終わろうとしている。
現在時刻、午後11時50分。
ちなみに、今のところ誰からも祝われる気配はない。
冬休みなのでクラスメートから祝われないのはしょうがないとして、家族からも一言もない。
………いや、いいんですけどね。
むしろ望むところなんですけどね。このまま何も起こることなく誕生日をやり過ごせたら、これ以上のことはない。
思えば今日は朝から、祝われてしまうのではないかと戦々恐々として過ごしていた。
寝ぼけた頭で「おめでとう」とやられたら咄嗟に対応できないと思って、起き抜けに体操をしてからリビングに降りていった。
父さん母さん姉ちゃんの一挙手一投足に怯えながら朝食を取った。
誰かに名前を呼ばれる度に心臓が縮む思いでテレビを見ていた。
そうして、針の筵のような気持ちで昼食を済ませ、いよいよ祝われる気配のないことを確認してからもまだ油断はできなかった。
この世には、サプライズという迷惑な風習があるからだ。
今日はないなと油断させておいて、不意打ちでクラッカーを鳴らされる危険性がある。
来るとすれば夕食前か、あるいは夕食後か、はたまた入浴後か、とみせかけて就寝前か。
などと警戒しているうちに夜は更け、現在時刻は前述の通り11時50分………あ、違う。もう終わってる。
12時2分。誕生日もう過ぎてるわ。
そうかそうか。終わったのか、誕生日。なるほどなるほど。
………しかし、まだ油断はできない。
翌日持ち越しのパターンも考えられる。
思えば僕は、朝から警戒心を露にし過ぎていたのかもしれない。サプライズは相手に気付かれれば成立しない。これほど警戒を剥き出しにしてしまえば、失敗を恐れた家族達がサプライズを翌日に延期するということも大いに考えられる。
とゆーわけで、翌日も僕はサプライズの影に怯えながら1日を過ごし、無事にバースデーソングを聞くことなく午前0時を迎えていた。
なるほどなるほど。
………もうないな。
さすがに誕生日から二日過ぎたら、もうないわ。
いや、いいんですけどね。ホッと一安心なんですけどね。毎年こうなら嬉しいんですけどね。
むしろ誰からも祝われないことがプレゼントみたいなトコありますけどね。
そんなことを思いながらトイレに降りると、
「ちょっと!」
リビングで姉ちゃんに捕まった。
冬休みだからか、日付も変わったというのに珍しく母さんと二人で起きている。
姉ちゃんは顎の動きひとつで僕をソファの前まで呼びつけると、
「お前、全然気付いてないだろ!」
と、のたまう。
……気付くとは?
「今日、母さん美容院いったんだぞ」
……美容院?
「うん、髪に色いれてみたの。ピンクブラウンなんだけど、どう?」
ツヤツヤの髪をサラサラと指で揺すってみせる母さん。
「あー、そうなんだ……」
「お前絶対気付いてなかっただろ。お前も父さん気付かないと思ってたわー。ちなみに、わたしは秒で気付いたけどな。気付く女だからなー、わたしは」
……おお、なるほど。
「ちなみに、僕の誕生日からもう二日になるんだけど、それはみんな気付いてるんかな?」
「え………?」
僕の発言でリビングの空気が静止した。
ややあって、気付く女であるところの姉ちゃんは、何かに勘づいたように目を見開き、
「言えよ、お前!」
ええー……。誕生日って自己申告制だったんか。
母さんも母さんで目を丸くしながら、
「ホントだ、過ぎてる!あっぶなー!」
ええー……。あぶっなーって。 何に滑り込んだん、母さん。
「危ない危ない。よし、じゃあ明日は赤飯炊くね」
「え、赤飯?僕、赤飯嫌いなんだけど」
「わたしも苦手……」
「うるさいっ!好き嫌い言わないっ!」
ええー………。
こうして、僕の十六回目の誕生日は、三日遅れで大嫌いな赤飯と共に祝われることとなった。
やっぱり誕生日なんて苦手だ。
我が家は、母さんも姉ちゃんも変だと思う。
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