なんか、姉ちゃんにパシらされる

「ちょっと、ちょっと!」


音を立てずに階段を降り、足音を殺して廊下を歩き、最小限の音量でトイレを済ましたにも関わらず、復路のリビングルーム前で姉ちゃんの呼び声に捕まった。


「……何?」

「お前、小腹でも空いただろ?」

諦めて部屋に入った僕に、姉ちゃんはいつものようにソファに寝転びながら言う。

「いや、空いてないけど……」

「空いてるって!」

「空いてないよ」

「空いてるから!」

何でそんなに強気に出れるんだよ。僕の腹具合だぞ。全宇宙で僕にしかわからないはずだろう。


「わたしは小腹空いたんだよなー。コンビニ行ってきて」

そんなこったろうと思ったよ。

我が家から最寄りのコンビニまでは、徒歩なら行き6分帰り8分。坂道なので基本的に自転車は選択肢にない。

絶妙にめんどくさいな距離なので、ちょくちょくこうやってお使いを頼まれるのだけれど……。


「はい、お前も好きなん買っていいから。よろしく」

返事もきかないまま、姉ちゃんは僕に四百円を握らせた。

「何買ってきたらいいの?」

「そーだなー。スイーツかなー、やっぱ」

「スナック菓子とかでいい??」

「いいわけないだろ、スイーツだっつってんの!Sweetの意味もわかんないのか、お前は!」

ああ、スイーツって、そーゆー意味なんか。知らんかった。

「じゃあ、シュークリームとか?」

「あー、シュークリームの気分ではないなー」

「じゃあ、エクレアは?」

「んー……違う。次!」

「プリンとか」

「あー、近い近い。次」

「チーズケーキとかも売ってるけど」

「あー、遠ざかった。今までで一番遠い。次!」

なんで僕が喰らいつかなきゃ行けないんだ。なんでもいいから決めてくれよ、さっさと。

「わたしは決めたくない。サプライズのドキドキ感が欲しい」

死ぬほどめんどくさいな、この姉は。


「もういいから行ってきて、お前の買い物センスで。一番近いのはプリンな」

わかんないよ、もー。

追いたてられるようにして家を出た。

何を買えばいいんだ、いったい。プリンが一番近いのか。もういいか、プリンで。

とゆー訳でプリンを買って帰った。


「……え、プリンじゃん」

文句あんのか。

「え?え?嘘だろ?プリン買ってくるか、この状況で!」

「買うでしょ、一番近いんだし」

「ありえん。センスで買ってきてって言われたに。お前の買い物センス見せてみろって言われたのに。一回例に挙がったプリン買ってくるか、普通」

「いいじゃん、別に!プリン美味いじゃん!」

「そんな話してない。今、そんな話してない。ないわー。センスなっ!ないないとは思ってたけど、買い物のセンスもないのか、お前には」

ありがとうだからなっ!

お使い行ってくれた人に最初にかける言葉は、絶対にありがとうだからなっ!


「もういいわ。で、お前は何買ってきたん?」

「え、買ってないけど」

「は?」

姉ちゃんがプリンを取り落とした。


「え?え?え?なんで?なんで買ってないの?お金あげたでしょ?」

「いや、だって別にお腹空いてないし……」

「じゃあ、二百円どうしたん?」

「貯金した」

「キモっ!」

いや、キモってなんだ。キモって。

「使えよ!貯めんな、二百円ぽっち」

「いーじゃん、どうしたって」

「パーっと使うんだよ、こーゆーお金は!入れんな、財布に」

「貰ったお金なんだから好きにさせてよ」

「二百円貯めたところでどうなるんだよ、気持ち悪いな。使えよ、パーっと!」

パーっとって額でもないけどな、二百円! 

「はー、やだやだ。結婚したくないわー、こんなタイプ」

選り好みできる立場と思うなよ、コミュ障のくせに。


「もういいわ。キモいからもうプリン食べよっと。あ、これ極みプリンじゃん。朝テレビで見たヤツ。覚えてたん?」

いや、知らんけど。

「うまっ!うまうまうま、うーまー!」

よかったなあ。

「一口いるか?」

いるけどさ。

「どう?うまいだろ」

確かにうまい。

「買ってきたら?」

「いや、貯めとくわ」

「キモ過ぎる!」

うるさいよ。

全く買い物ひとつでえらい騒ぎだ。


うちの姉ちゃんはめっちゃうるさいし、絶対に変だと思う

















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る