なんか、姉ちゃんが痒い
「あー、いいよなー。お前は。美人の姉ちゃんがいて」
帰り道、クラスメートの有川は会話に困ると、すぐに姉ちゃんの話題を持ち出してくる。
「んー、別に良いことなんてないけどなー」
これはもう口癖のようなものなので、真面目に取り合ってやる必要なんてない。僕はアスファルトに視線を落としたまま、アクビのように生返事を吐き出す。
「嘘つけよ。エロいハプニングとか日常茶飯事なんだろ?パンチラ、ブラチラ見放題なんだろ?最高かよ」
「んー、ないない。そんなん」
「いや、嘘だ!絶対にあるはずだ!風呂上がりとか全裸で出てきて、『またおっぱいおっきくなったかもー。ちょっと見てよー』とかあるはずなんだよ!クソが!」
何にキレてるんだ、お前は。
「うらやましい!ドメスティックエロハプニングがうらやましい!」
「んー、もう帰るからなー。じゃあなー」
止まらない有川の妄想を打ち切るように手を振って、僕は一人角を曲がった。
全く往来で何を言ってるんだ、アイツは。
なんだよ、ドメスティックエロハプニングって。そんな日常的なエロハプニングとか、そんなもん………………あるに決まってるんだろ。
お察しの通りだよ。売るほどあるわ。
ただ一点、全裸で風呂から出てくる
日常的な油断から下着の一部を晒すことはあっても、意図的に裸を見せつけることは男女の兄弟では絶対にありえない。
これは、もう絶対なんだ。
「んー、んんー」
その夜、夕食を終えた姉ちゃんは、例によって例のごとくリビングのソファに背を埋めていた。
いつものダルダルのノースリーブにホットパンツ姿で、いろんなとこから色んなものが覗いているが、そんな不吉な物は目に入れたくもない。
「どうしたの、お姉ちゃん?さっきからうんうん唸ってるけど」
姉ちゃんの隣に座っていた母さんが、テレビから目を離して尋ねる。
「うん、なんか痒くて………虫に刺されたかも」
「へー…………」
母さんは興味なさげにそう言った。
それだけだ。
自分で尋ねておきながら、母さんは『どこ刺されたの?』とも『見せてごらん?』とも聞くことなく、ただ一言『へー』とだけ言った後、姉ちゃんのシャツの裾をベロリと首までめくり上げた。
………………。
姉ちゃんは基本、家ではノーブラなので、一撃で全部見えた。
「ちょっとっっ!」
慌ててシャツを下ろす姉ちゃん。僕も同じ速度でスマホの画面に目を落とす。
そして、表情を殺し、ホーム画面を無駄に左右に動かしながら、何も見ていないアピールを親指に託す……。
「ああ、ホントだね。おっぱいのところ赤くなってるね。お薬塗る?おっぱいのところ」
……何も聞いていないアピールを咳払いに託す。
「ありえない。やめてよ、もう!」
いたたまれずに姉ちゃんが部屋から出て行った。僕は僕で、親指が止まらない。
いくらドメスティックエロハプニングが日常茶飯事とは言え、これほどのものはめったにない。
………本当に、本当に気分が悪い。
「あれ、何?どこ行っちゃったの、お姉ちゃん?ちょっと、あんた。お姉ちゃん部屋にお薬持っていってあげてよ」
行くか。
絶対行くか。
ウチの母さんは…………ちょっとどうかしてると思う。
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