なんか、姉ちゃんが歌を歌う

「ちゃららららら~~♪」


姉ちゃんが、いきなり歌い出した。 

「ちゃららららら~~らら~~♪」

歌というか、鼻歌というか、ハミングというか、なんというか……。

「ちゃららららら~~らら~~らら~~♪」

とにかくこれは、例のヤツだ。名前は知らないけど誰もがメロディは知っている、例のアレ。

「ちゃららららら~~♪」


……手品の歌。


「えっと……あの、え? 何してんの、姉ちゃん?」

「ちゃららららら~~らら~らら~♪」

姉ちゃんは歌いながら数枚のトランプを裏向きに扇状に広げ、一度閉じてからまた広げると、

「ららんっ♪」 

一枚だけ、ハートのエースが表向きになっている。


「ああ……へー。すごいじゃん……え、何で手品やったん?」

「ちゃららららら~~♪」

「いや、姉ちゃんって!」 


再び歌い出した姉ちゃんは、一枚だけ表向いた手札をまた閉じてもう一度広げると、

「ららんっ♪」

「あ、今度はハートの2が一枚だけ表になってるね……うん、すごいのはすごいと思うけど……何?」

「ちゃららららら~~♪」

「待って待って、何で手品見せられてんの、僕?」

「ちゃららららら~~らら~♪」

「3でしょ? 次はハートの3が表向くんだよね? もうわかったって!」

「らら~らら~♪」

「……姉ちゃん?」

「らら~らら~♪」

「………………………………」

「ららんっ♪」

……ハートの3が表に向いた。


「ちゃららららら~~♪」

「もう止めて! マジでなんなん、これ!」

「ちゃららららら~~らら~♪」

「もういいって! なんで? なんで手品するんだよ!」


家の階段で! 

「ちゃららららら~~らら~~♪」

荷物運んでる最中に!

「ららんっ♪」


姉ちゃん宛に、なんだか知らないけどやたらとデカくて重い荷物が届いた。ネット通販で何か注文したらしい。

もちろん、二階に運ぶのは僕の役目なので、姉ちゃんの後に続いて階段を上っていたら、

「ちゃららららら~~♪」

突然、姉ちゃんが振り返り、ちゃららら言い出した。


「マジでもういいから! 進んでよ、早く! もう手がヤバいんだって!」

「ちゃららららら~~らら~♪」

「落とすよ! もう手ェ離すからね、マジで!いいの?」

「ちゃららららら~~らら~らら~♪」

「はい、離す! もう絶対落とす!ああー、荷物壊れるわ。後三秒で落とすよ。はい、3!」

「らら~らら~♪」

「……2!」

「ららんっ♪」

「…………………1!」


「ちゃららららら~~♪」

「ああ、もう!」


姉ちゃんの手品はハートの13が表向くまできっちりと続いた。

うちの姉ちゃんは、絶対に変だと思う。

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