なんか、姉ちゃんがゲームしてる


「ああ、またコイツだ! もう! もう!」


怒った姉ちゃんが太ももをばしばしとグーで叩いた。

「ちょっと、何してんの。怒り過ぎでしょ」

「コイツに言って! コイツが悪い!」

泣きそうな顔でゲーム画面を指さす姉ちゃん。


「コイツの弾、イレギュラーな動きばっかりする! なんで? 緑の弾は真っ直ぐって言ったじゃん! そんな急にルールと違う動きして、『はい、強いボスですー』とか、三流のサプライズだから! 強いってそういうことじゃないから!」

……めっちゃ喋るじゃん。

うらやましいほどのめりこんどるな、姉ちゃん。


「殺すー。絶対殺すー」

姉ちゃんが顔を真っ赤にしてプレイしているのは、十年程前に買ったゲーム。世間的には全く売れていないけれど、ごく近辺の仲間内だけで異様に流行ったシューティングだ。

部屋の掃除中に昔を懐かしんでいたら、いつものように姉ちゃんが無言で入ってきて、珍しくやりたいと言い出した。


「ほらまた! 不正だわー、完っ全に不正だわー。 見た? 不正の瞬間。絶対緑だもん、あれ! ありえん、腹立つ――っっ!」


で、そこから三十分。姉ちゃんは二面のボスに可哀想なほど手玉に取られている。

姉ちゃんは何かにミスした時、人にも物にも当たらずひたすらに自分を戒める。

具体的にはむき出しの太ももをバッシバシとグーで叩く。正直引く。


「……………………」


あ、また負けた。怒りが一周したのだろうか、真顔で画面を見つめる姉ちゃん。

「……ねえ」

「はい」

「お前はこれクリアしたん?」

 もう帰ってくんないかな………。

「ねえ! したん?」

「そりゃしたけど……」

「どうやって?」

「あー、えっとー、ボムの使うタイミングと切り返しで避ける方法を覚えないと勝てないんだよね。一面の中ボスで練習できるから―――」

「練習とかしたくない」

 ……わがままだわー。


「避ける方法できるんなら、代わりにやってよ」

でたー。こーゆー人ー。ボスとか難所とか人にやって貰って続きからやる人ー。

それってクリアしたことになるのかよ。まあ別にいいけど。

早く帰ってもらいたい一心で、僕は両手でコントローラーを握った。

「よっと」

その間に姉ちゃんぬっと手を差し込んでくる。


「ちょっとちょっと、なに?」

「いやだから、避けるのはお前がやってって。わたしは………撃つ方をやるから」

何、その分業! 

「そうそう、お前が左手で十字キー側を持ってぇ、わたしが右手で射撃ボタン側を持つと。もっとくっついて。ほら、これでいける」

「無理無理無理、やりにくいって! ボスは僕一人で倒すから三面からやれば?」

「…………それって、わたしがクリアしたことにならなくない?」

ごもっともだけども! だからって、分業でボス倒しても倒したことにはならなくない?

「なんでよ。わたしの攻撃で倒すんだから、わたしが倒したことになるじゃん」

そーかなー? そーなるかなー?

「馬に乗った武将が敵倒したら、馬のおかげ? 武将のおかげ?」

違う気がするわー。その例えはなんか違う気がするわー。

「いいから行くぞ。はい、上選んで」

「マジでやんのかよ」

こんな不自由な体勢でクリアできるわけないだろう。


「やったぁー、倒したぁー!」

できたよ、スゲーな姉弟って。

「よっしゃよっしゃよっしゃー、倒したー。あー…………わたしが倒したわぁー」

すごい充実感出してくるな、ボタン押してるだけなのに。

「……じゃ、このまま三面行くか」

「もういいって!」


案外そのままクリアできた。

やっぱり、うちの姉ちゃんはゲームが下手だ。

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